アストンマーティンは、2024年6月に発表されたばかりのスペシャル・エディション「ヴァリアント」を東京・青山ブランドセンターで公開した。アストンマーティン「ヴァリアント」は、2023年にアストンマーティン創業110周年を記念し110台限定で生産された「ヴァラー」をベースとしたスペシャルモデル。アストンマーティンのビスポーク・サービスであるQ by Aston Martinが生み出す類い稀なモデルの系譜に加わる、極めて高い稀少性、存在感そして能力を誇るモデルである。
「ヴァリアント」は、公道仕様でありながら、サーキット走行に軸足を強く置いた38台限定のスペシャル・エディションで、すでにグローバルの販売割り当ては決定している。この「ヴァリアント」が誕生したきっかけは、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラー1チームのドライバーであるフェルナンド・アロンソ選手から「軽量で過激さを増した、レーシングカーの要素を取り入れたヴァラーが欲しい」という個人的な依頼だった。
この依頼と、フェルナンド・アロンソ選手の23年に及ぶF1のキャリアと限界走行への情熱に触発され、 Q by Aston Martinのエキスパートたちの入念な設計と製作による台数を限定したことで「ヴァリアント」が誕生した。「ヴァリアント」のボディワークは、軽量カーボンファイバーを全体に使用。幅広の筋肉質なボディに刻まれたシャープなラインは、ダウンフォースを発生させ安定性を確保し、スピードを低下させる空気抵抗を最小限に抑える。
さらに、「ヴァリアント」の深いフロントスプリッターは、最大限の効果で空気を裂きながらノーズを低く貼り付ける。さらにスプリッターの真上には、車幅全体に広がるカーボン製グリルを採用。これにより、エンジン冷却空気の流れを増すと同時に、フロントアクスル前方の重量を削減し、重量を中心部に集中させることで、ハンドリングを向上させている。
「ヴァリアント」のリアデザインは、上向きに反ったデッキリッドそしてその上に設置された大きな固定ウイングが特徴です。固定一体型クラムシェルのリアは、ヒンジ開閉のリアスクリーンパネルを備え、レース用のヘルメットやレーシングスーツの収納に相応しいスペースを提供する。
「ヴァリアント」の外観でもっと特徴的なパーツは、21インチのマグネシウムホイールに装着されたカーボンファイバー製エアロディスク。これは伝説的なル・マンのレースカー「マンチャー}に装着されていたホイールカバーにインスピレーションを得たモノ。軽量鍛造マグネシウムホイールに直接装着したエアロディスクは、ホイールの回転から生じる乱気流と空気抵抗を抑えます。さらに、カーボンセラミック・ディスクによって生じる高温の空気を排出するホイール外周開口部とともに、サーキット走行時に最適なブレーキ性能を提供する。
「ヴァリアント」のインテリアは、レースで培った機能性とアストンマーティンの定評ある完璧な装飾デザインと熟練した素材の扱いを鮮やかに組み合わせている。スイッチ類を一切排除したステアリングは、直感的な操作と集中力維持を追求して「ヴァリアント」独自の円形を採用。シートには、レカロ社製のポディウムシートを標準装備。このシートは、横方向とショルダー部のサポート力が優れているほか、胴部分のパッシブベンチレーションを装備したパッドは、快適性をアップしている。
さらに準装備しているスチール製のハーフゲージは、4点式のシートベルト装着時のアンカーポイントとして利用可能だ。「ヴァリアント」は、本格的なサーキット走行を想定して、軽量化も施されている。3Dプリンターによって製作したリアサブフレームを採用することで剛性を下げることなく、3kgの軽量化を実現。同時にマウネシウム性トルクチューブによって車両中央部の質量を8.6kg削減している。また、モータースポーツ用のリチウムイオンバッテリーの搭載により11.5kg。21インチマグネシウムホイールを採用することで11.5kgの軽量化など、車両全体で「ヴァラー」より約95kg軽量化を達成している。
搭載しているエンジンは、最高出力745ps、最大トルク753Nmを発生する5.2L V型12気筒ツインターボ。組み合わされるトランスミッションは6速MTで、操作する際に最大限の満足を得られるようにコントロールウェイトに磨きを掛けている。サスペンションには、マルチマティック社製のアダプティブ・スプール・バルブ(ASV)ダンパーを採用。それぞれのダンパーを32の個別のダンパー・カーブのいずれか6ミリ秒以内に同時に調整するASVシステムは、アストンマーティンのエンジニアが乗り心地とハンドリング特性をほぼ無限に調整できる最新のサスペンション技術となっている。
このアストンマーティン「ヴァリアント」の公開イベントには、ヘッド・オブ・Q・スペシャルプロジェクトセールスのサム・ベネッツ氏が登壇。ベース車の「ヴァラー」が公道8:サーキット2で開発したのに対し、「ヴァリアント」はサーキット9:公道1と想定を真逆したことをはじめ、この「ヴァリアント」はフェルナンド・アロンソ選手からの挑戦状を、Q by Aston Martinのテクニカルディレクターであるロベルト・フェデリが相乗効果でクルマを進化させたという開発秘話を披露した。
「ヴァリアント」の開発は、英国にあるシルバーストーンサーキット内にあるアストンマーティン社のテストコース、ストウを走り込んで走りに磨きを掛けたとのこと。完成した「ヴァリアント」に乗ったフェルナンド・アロンソ選手は、こだわったドライビングフィールに満足したようで笑顔で走行していたとのこと。残念ながら、価格や日本市場に何台導入されるかという質問には、守秘義務があるため応えてもらえなかったが、デリバリーは2024年第4四半期から行われる予定。
速さやスペックにこだわるのではなくドライビングフィールを追求しているのは、F1ドライバーのフェルナンド・アロンソ選手だからこそのこだわりと言える。
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文・撮影/萩原文博