世界有数のレーシングコンストラクターとして知られるマクラーレンは、スポーツカーブランドとしても独自の存在感を放っている。今季のF1では目覚ましい活躍を見せ、チャンピオンシップ獲得も現実味を帯びてきた。そのマクラーレンの市販車部門「マクラーレン・オートモーティブ」で、チーフ・コマーシャル・オフィサー(CCO)に就任したのがヘンリク・ウィルヘルムスマイヤー氏だ。これまでBMWやロールス・ロイスといった名門ブランドでマーケティング戦略を牽引してきた人物は、マクラーレンでどのような未来を描いているのか。ブランドの展望とグローバルな成長戦略を聞いた。
――これまで在籍してきたブランドの立場においては、マクラーレンにどのような印象を持っていましたか?
私にとってマクラーレンは、非常に情熱的な顧客を抱えるブランドという印象が強くあります。オーナーの皆さんは、純粋に“走ること”への情熱を持っています。これは、ブランドのDNAがまさにサーキットで育まれたからでしょう。F1チームとオートモーティブ部門がひとつ屋根の下で活動している点も、マクラーレンの大きな特徴です。技術もスピリットも共有され、ブランド全体の情熱の源泉になっていると感じます。
――実際にマクラーレンに加わってからの印象はいかがですか?
社内に入ってまず感じたのは、非常に「人間味のあるブランド」だということです。顧客との距離が近く、強いコミュニティ意識を持っています。本社があるウォーキングでは、ブランドの栄光の歴史を肌で感じることができますし、スタッフひとりひとりがマクラーレンの一員であることに誇りを持っている。F1チームの活躍が社内全体の士気にもつながっていて、それがプロダクトの質にも反映されているのです。
――日本市場についてどのように見ていますか?
日本はマクラーレンにとって極めて重要な市場です。現在、北米に次ぐ世界第2位のシェアを誇っており、その存在感は年々増しています。今後は「成長」をより多面的にとらえる必要があると考えています。単なる販売台数の拡大だけではなく、「製品とブランドの価値向上」が鍵です。オーナー体験の深化はもちろんのこと、1台1台の存在価値を高めていく。その中核となるのが、パーソナライズ部門「マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ(MSO)」の強化です。
――価値向上という点では、ラグジュアリー性の強化も重要なテーマだと思います。
そうですね。たとえば「アルトゥーラ」は、内燃エンジンとプラグインハイブリッドを組み合わせたモデルで、高性能と日常性を高い次元で両立しています。一方で、スーパースポーツとしての魅力を極めた「W1」のようなモデルも展開しています。現状で、ここまでパフォーマンス性を極めた製品は他に存在しないと自負していますが、将来的にはより幅広い層に訴求できる製品ポートフォリオの構築が必要です。そこで私たちは「シェアド・パフォーマンス(共有型パフォーマンス)」という新たな方向性を模索しています。
――「シェアド・パフォーマンス」とは、どのような構想でしょうか?
まだ具体的な製品は決まっていませんが、すでに複数の可能性を検討しています。このコンセプトは、これまでマクラーレンを「自分には関係ない」と考えていた層――たとえばファミリー層などにもブランドを開くための鍵になると考えています。もちろん、走りへのこだわりやドライバー中心の哲学は維持しつつ、より多様なライフスタイルに寄り添える製品を提案していく必要があるでしょう。
――あなたが取り組む最初のミッションとは何ですか?
ミッションは多岐にわたりますが、特に重要なのは製品戦略の再定義とMSOの強化です。MSOは単なるパーソナライズ部門ではなく、「顧客がどう感じるか」にも大きく関わる領域です。マクラーレンは製品そのものだけでなく、ブランド体験そのものが本質です。私は「顧客」という言葉よりも、「ソウルメイト(魂の仲間)」という表現を使いたい。マクラーレンのファンには、ブランドへの帰属意識とコミュニティの一員であるという実感を持っていただきたいのです。
――最後に、日本のマクラーレンファンへのメッセージをお願いします。
マクラーレンはこれからもエクスクルーシブであることを守りつつ、ひとりひとりに最適化された体験を提供していきます。日本のお客様に対しても、より高度なパーソナライズとテーラーメイドなアプローチを展開していく予定です。ぜひ今後の展開にご期待ください。
■関連情報
https://cars.mclaren.com/jp-ja/about
https://cars.mclaren.com/jp-ja/W1
文/桐畑恒治