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2026.05.22

別世界を優雅に駆け抜けるロールス・ロイス「ブラック・バッジ・カリナン」

ロールス・ロイスは不思議なクルマである。多くの人にとって、その存在はまさに〝雲の上〟だ。街中で見かける機会すら限られ、まして自らステアリングを握るとなればなおさらである。しかも、そのキャラクターそのものがどこか現実離れしている。外界を遮断したかのような静けさ、路面をなめるように進む独特の乗り味、そして乗員を包み込む濃密な空間。クルマという工業製品でありながら、どこか移動するラウンジ、あるいは静かなスイートルームのようでもある。

これまで筆者が感じていたロールス・ロイスの特別感も、そうした世界観によるものだった。だが今回、最新の「カリナン・シリーズII」、しかも高性能版である〝ブラック・バッジ〟に触れたことで、その印象は少し変わった。別世界の住人のような存在でありながら、このクルマは驚くほどドライバーズカーとしての資質を備えていたのである。

ロールス・ロイスにSUVが加わったのは2018年。それまでサルーンやクーペを中心に展開してきたブランドに「カリナン」が登場した時は、世界的な話題となった。「ロールス・ロイスにSUVは必要なのか?」そんな声が上がったのも当然だっただろう。英国的な富裕層像を思い浮かべれば、泥道やアウトドアという世界はあまり結びつかない。加えて、その役割は長らくレンジローバーが担ってきたからだ。

しかし、時代はSUV全盛。ベントレーがベンテイガを投入し、アストン・マーティンまでもがDBXを送り出したように、超高級車ブランドにとってSUVは避けて通れないカテゴリーとなっていた。実際、既存のロールス・ロイス・オーナーたちもまた、〝ロールスに相応しいSUV〟を求めたのだろう。そう考えると、カリナンの誕生はマーケットへの迎合というより、顧客の要望に対する極めてロールス・ロイスらしい回答だったのかもしれない。

ブラック・バッジというもうひとつの顔

実際、カリナンはブランドに新たな顧客層を呼び込んだ。ロールス・ロイスによれば、オーナー層の平均年齢は大きく若返ったという。ショーファーカーとしてのイメージだけでなく、自ら運転を楽しむラグジュアリーSUVとして受け入れられたことが、その成功の背景にあった。そして2024年、カリナンは〝シリーズII〟へと進化した。

もっとも目を引くのはフロントマスクの刷新だろう。象徴であるパンテオングリルはさらに立体感を増し、L字型のデイタイムランニングライトが新たな表情を作り出している。従来型が静かな威厳を漂わせていたとすれば、新型はより現代的で、どこか意志の強さを感じさせる顔つきになった。とりわけ今回試した〝ブラック・バッジ〟は、その印象がさらに鮮烈だ。クロームパーツはブラックアウトされ、巨大なSUVでありながら妙な軽やかさと艶っぽさを漂わせている。従来のロールス・ロイスが格式あるクラシックホテルだとすれば、ブラック・バッジは夜の都市を知るモダンラグジュアリー、といった趣がある。

インテリアもまた圧巻だった。最新世代ではデジタルメーターと新世代インフォテインメント〝SPIRIT〟を採用。助手席前には、時計とスピリット・オブ・エクスタシーを組み込んだクロック・キャビネットが設けられる。

さらにこのブラック・バッジ・カリナンに採用された〝デュアリティ・ツイル〟も印象的だった。220万針ものステッチと、約18km分の糸を使って織り込まれた素材で、その作り込みはもはや内装材というより工芸品に近い。そして頭上には、星空のように輝く〝スターライト・ヘッドライナー〟が広がっていた。

搭載されるエンジンは6.75LV型12気筒ツインターボ。ロールス・ロイスといえば、かつては性能数値を公表せず、〝sufficient(必要充分)〟とだけ表現することで知られていた。しかし現代のロールスは違う。ブラック・バッジ・カリナンでは、最高出力600ps、最大トルク900Nmを公表。しかもメーカー自身が〝史上最強のロールス・ロイス〟と謳っている。馬力を語らないことが美学だったブランドが、自らパフォーマンスを前面に押し出す。その変化自体が、いまのロールス・ロイスを象徴しているように感じられた。

静けさの中にあるドライビングプレジャー

もっとも、数字だけを見れば驚異的でも、このクルマはそれをひけらかさない。アクセルペダルを踏み込んでも、猛々しさや暴力性を演出するような振る舞いは皆無だ。スターターボタンを押すと、キャビン内のイルミネーションが静かに輝きを増し、その奥でV12が目覚める。とはいえ音はほとんど聞こえない。以前試したEVの「スペクター」に匹敵するほど静かで、6.75リッターV12を積んでいるとは思えないほどだ。

そのままアクセルを踏み込めば、巨体は音もなく滑り出す。驚かされるのは、その操作感である。全長5.3m級、全幅2m超のSUVでありながら、都内でも扱いにくさを感じにくい。ステアリング操作に対する反応は驚くほど自然で、巨大なボディを必要以上に意識させない。しかもブラック・バッジは、通常モデル以上にドライバーとの距離感が近い。

ロールス・ロイスと聞けば、後席で寛ぐためのショーファーカーを思い浮かべる人も多いだろう。しかしカリナン、とりわけブラック・バッジは、〝自分で運転したくなるロールス〟だったからである。もっとも、だからといって速度を上げた瞬間に世界観が崩れることはない。静けさは依然として圧倒的であり、乗り心地もまた〝マジック・カーペット・ライド〟そのもの。大径ホイールを履き、2.7トン級の巨体でありながら、路面の凹凸を柔らかくいなしながら進んでいく。

興味深いのは、その快適性とドライバーズカー的資質が互いを打ち消し合っていない点だ。通常であれば、ラグジュアリーとスポーティネスはどこかで相反する。しかしブラック・バッジ・カリナンは、その両方を見事に成立させているのである。そこがまたこのクルマの非現実感を増幅させているように思う。やはり唯一無二の存在なのだ。

ちなみに「カリナン」という名前は、20世紀初頭に南アフリカで発見された世界最大級のダイヤモンド原石に由来する。その原石は後に磨き上げられ、英国王室の王冠や王笏へと姿を変えた。このSUVもまた同じなのかもしれない。伝統的なロールス・ロイスの価値観を受け継ぎながら、現代の感性によって磨き直された存在なのである。

もちろん、誰にとっても身近なクルマではない。だが、こうしたクルマが現実に存在していること自体、自動車文化における夢や憧れを支えている。ロールス・ロイスが放つ〝別世界感〟には、やはり特別な意味があるのだと思う。

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■関連情報
https://rolls-roycemotorcars-balcom.com/lineup/black-badge-cullinan/

文/桐畑恒治  撮影/望月浩彦

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