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2026.03.12

60年の時を経て蘇った、ロマンと冒険心に溢れた水陸両用車「アンフィカー770」

長年、数多くの取材をしていても、いまだに見たことも聞いたこともないモデルに出会えるから、クルマの世界は面白い。しかもそれが古いものだと尚更だ。今回出会ったクルマも、これまでその存在をまったく知らなかった。その名は「アンフィカー770」。正確に言えばクルマではなく、水陸両用車だ。製造されたのは1961年頃というから、ゆうに60年以上も前ということになる。

水陸両用車と言えば、すぐに頭に浮かぶのは第二次世界大戦の際にポルシェが設計した「キューベルワーゲン」だろう。こちらは歴とした軍用車だが、戦後生まれの「アンフィカー」はレジャー用で大量生産を前提に市販もされたという。

製造したのは旧西ドイツのIWKというメーカーだが、その目標販売台数は約2万台だったらしい。軍用車両として製造された「キューベルワーゲン」が約5万台だったことを考えると、ありえない数字ではないのかもしれないが、結果的には1961年から68年までの間に3878台のみが製造されただけだった。

しかも、そのうちの3046台はアメリカで販売されている。つまり、ほぼアメリカ市場向けに企画されていたわけだが、不運だったのは1968年前後にアメリカの運輸に関する保安基準が厳格化されたことに対応できず、生産が立ち行かなくなったことだろう。大量の部品の余剰在庫を抱えることになり、事業そのものが頓挫してしまった。実はこの「アンフィカー」、当時日本にも輸入されており、ウエスタン自動車の手で5台が販売されたという記録が残っている。

テレビ番組でレストアされた

今回取材した「アンフィカー」は、ウエスタン自動車が輸入した個体ではなく、アメリカで販売されたものを30年ほど前にとある日本人が譲り受けて日本に持ち込んだものだという。一見するとメッキのクロームもまるで新車のような輝きを保っていることに驚くが、実はこのクルマ、『一攫千金!宝の山』というテレビ番組の企画でレストアされたばかりの個体だった。タレントのヒロミが出資金を出し、レストアしてオークションで利益を上げるという番組だが、実に良く仕上げられている。

資料によると、ボディはスチールとステンレスで出来ており、一部にはFRPも使用されているという。リアに搭載されるエンジンはトライアンフ製で排気量は1147ccだ。トランスミッションは、陸上では4段+後退、水上では前進と後退の2段という構成で、後輪のタイヤ駆動とスクリュー(左右2本)の切り替えはトランスファーで行えるようになっている。

面白いのはフロントとリアに左が緑、右が赤の船舶用の航海灯があること。さらにフロントの航海灯のすぐ後ろには、警笛も備わる。クラクションではなく、警笛というところが、これが船であることを象徴している。実際の音を聞くことはできなかったが、ボーッとまさに港で聞こえるような音がするらしい。また普通なら車両の下にあるマフラーがリアハッチの高い位置にあったりするのも水上航行を考えてのことで、こうした通常の自動車にはない装備や工夫が随所にある。

この「アンフィカー」で驚くのはメーターやスイッチ類、ペダルやシフトノブなどが、とても製造から60年以上が経っているとは思えないほど状態が良いことだ。エボナイトの白いハンドルは傷ひとつなく、中央のホーンボタンもまるで新車のような美しさである。

それもそのはず。テレビの企画でレストアを行った際の記録を見ると、これらの新品のパーツは現在でも入手できるらしい。実は製造当時の大量の余剰在庫はアメリカの商社が一括して買い取り、今もオーナー向けに販売しているという。今回のレストアでも200点以上の新品パーツを購入したそうだ。

余談だが、アメリカには「アンフィカー」のオーナーズクラブがあり、湖に集まったオーナーたちが、自慢のアンフィカーで水上航行を楽しむ「スイム・イン」というイベントも毎年行われている。トライアンフ製エンジンのパワーはたったの43馬力しかなく、陸上での最高速度は113km/hに過ぎない。水上航行速度も7ノットとのんびりしたものだ。そんな「アンフィカー」が60年たった今でも大事にされているのはなぜなのか。設計が古く、浸水を防ぐシールのメンテナンスも大変だと聞く。実際、今回もシールやパッキンの交換は必須だったというが、そこまで水に浮くことにこだわるのは「アンフィカー」には夢があるからだろう。

ネットにある動画を見ると、陸上をトコトコと走り、そのまま浜から水に入ると、水面の高さはショルダーラインの少し上あたりになる。手を伸ばせば水に触れられるような距離だ。これこそがクルマが水上を走る、という非日常の冒険が味わえる瞬間だろう。

スポーツカーでもファミリーカーでも旧車にはいろいろな愉しみ方があるが、共通するのは現代のクルマでは味わえないプリミティブな感覚があることだ。ミュートされることなく伝わってくる振動や音や流れる風景のなんと刺激的なことか。「アンフィカー」はそれだけでなく、水の飛沫や爽やかな風、そして見渡す限りに広がる水面の絶景を身近なものにしてくれる。そこにいちばんの魅力がある。

人生の余白を愉しむクルマ

今回取材したこの「アンフィカー」は、テレビの企画としてヤフオクで売りに出され、最終的には885.1万円で落札された。落札したのは現オーナーの浅岡亮太さんだ。浅岡さんは新しい発想のカーシェア・ビジネスとして「RENDEZ-VOUS(ランデヴー)」という会社を運営している。この会社が面白いのは所有欲ではなく使用欲を大事にしていることだ。会員は所有することで発生する多大な費用や労力から解放され、適切なコストでクルマを楽しむ時間を買うことができる。

通常のレンタカーと違うのは、共に楽しむ仲間を募ることができれば共同オーナーとなって乗りたいクルマに乗れることだろう。詳しいシステムや入会方法はサイトをご覧いただきたいが、RENDEZ-VOUSのサイトにはそんなオーナーたちを待つ名車が並んでいる。その中には991型の「911GT3」もあれば、旧車の「500SL」やホンダの「S2000」もあった。しかし、「アンフィカー」はこのラインアップのためのクルマではないという。落札したのはあくまでも浅岡さん個人が愉しむためだ。

浅岡さんは早稲田大学在学中にクルマメディアを立ち上げたり、新卒入社したDeNAでも新たなカーシェアリングサービスの立ち上げに参画し、後に入社したメルカリでも自動車の新事業のプロジェクト責任者を務めるなど、一貫してクルマをめぐる新ビジネスの最前線を歩んできた。その原動力になっているのは「クルマが好き」というシンプルな思いだという。そして自らも多くのクルマを所有し乗ってきた。旧車のラリーに出たり、サーキットレースにも出場してモータースポーツを楽しんだり、これまでたくさんのクルマ好きの人たちと交流してきたという。

そんな浅岡さんが「アンフィカー」の存在を知り、その魅力にはまった。常々、クルマには人生の余白を愉しむ要素がたくさんあると考えていた浅岡さんにとって、身近な冒険心をかき立てる「アンフィカー」は、何か楽しいことを想像させてくれる未知の魅力に満ち溢れていた。取材した時点ではまだナンバー登録前で走ることはできていなかったが、ナンバーを取得して船舶としての登録も行ない、ちゃんと水上デビューもさせたい。RENDEZ-VOUSの会員が集まる交流イベントでも、みんなで楽しめたらいいなと考えていると浅岡さんはいう。

そんな流れで、もし共同所有したいという人が現れたら、将来的にはRENDEZ-VOUSのラインナップに加えることもあるかもしれない。その時、美しく蘇った60年前の水陸両用車は、僕らにどんな冒険シーンを見せてくれるのだろうか。

■関連情報
https://rendez-vous.tokyo/

取材・文/塩澤則浩 撮影/望月浩彦

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