先だって、マラネッロは初のフル電動モデル名を発表した。その名は“ルーチェ”。日本人にはマツダ「ルーチェ」としてすでに馴染みのある車名だ。それはともかく、イタリア語で”灯り“を意味する女性名詞、英語でいうライトなのだから、フル電動化時代に向けた先駆けのBEVとしてフェラーリのゆく道を明るく照らそうぜ、という意味が込められているのだろう。
同時にインテリアの主要なコンポーネンツもサンフランシスコで公開された。なぜサンフランシスコだったか?インテリアのデザインは彼の地に本拠を置く「ラブフロム」とマラネッロのチェントロスティーレ(デザインセンター)とのコラボレーションで生まれたからだ。ラブフロムといえば、アップルのデザイン最高責任者だったサー・ジョニー・アイブ率いる世界で最も有名なデザイナー&クリエイティヴ集団の一つである。19年に同じくアップルの上級副社長でデザイナーのマーク・ニューソンと共にアイブが立ち上げた。
フェラーリとは5年前からタッグを組んでいる。ちなみにマークはヴィンテージカーでイタリアのクラシックカーレースに参戦するなどその世界でエンスーとしてよく知られる存在だ。サンフランシスコに飛びラブフロムの手がけた実物を見て触ってきた。なるほどそのミニマリズムなデザインにはアップル製品との共通点を感じる。
たとえば、ステアリングコラムと一体となったドライバーピナクルにセンターやリアの各種ディスプレイなどの角を丸めたメタリックな直線美はマッキントッシュの世界観に共通するものだ。けれども彼らがiPhoneやiPadで多用した静電タッチパネルの類はなく、トグルスイッチや特殊ガラスでカバーされたボタンなどを多用していた。
「小さなパネル上でメールやカメラなどの操作全てを行うiPhoneとは違って、クルマにはドライバーにとって操作ごとにそれを行う適切な場所があって、しかもドライブ中でも直感的に使いこなす必要がある」とタッチパネル式を使わなかった理由をジョニーは説明する。面白かったのはセンターのメインコントロールディスプレイだ。
メーターパネルやリアパネルと同様にサムソン社製有機ELディスプレイを使っていたが、アルミ製の骨太なバーが備わっていた。これはパッセンジャーが押すなり引くなりして角度を自由に変えることができるように考えられたもの。同時にバーは万が一の衝突時にトグルスイッチがパッセンジャーを傷つけないようガードの役目も果たしている。
近年、フェラーリのインテリアはプラスチック素材が目立っていた。それらをアルマイト加工の再生アルミニウムやコーニング社製特殊ガラスで置き換えたわけだ。3本アルミスポークのレザー巻きハンドルなどはその象徴だろう。見栄え質感の高さはもちろん、触った感じも上質だ。高級感も十分。中でもアルミ製パドルシフトのクリック感とガラス製シフトノブの触感の心地よさには素直に感動した。
個人的にはアルミスポークハンドルの他、物理的な針(スピードメーターと時計)が復活したことも嬉しい限り。是非とも他のモデルに展開してほしいものだ。これからのプレミアムは安易なデジタルではなく贅沢なアナログである。 車名も決まったことだし、ここで改めて昨年10月にマラネッロ発表されたパワートレーンとシャシーの概要を元に、「ルーチェ」のスペックを披露しておこう。
4ドア4シーター、そして4モーターのBEVグラントゥーリズモである。マラネッロのポートフォリオにあってはV12を積んだ「プロサングエ」とほぼ同じ位置付けながら、ドライビングスリルとユーザビリティでは上回ってくるらしい。フロントアクスルの電気モーターは2基合計で210kWの出力を発揮。任意の速度で瞬時に車輪から切り離すことができる。リアアクスルの出力は2基のモーター併せて620kW、ということはリア駆動的なダイナミックパフォーマンスを見せそうだ。もちろん4WDとRWDの効率的な運用を可能とした。
サスペンションシステムの実物を見る限り「プロサングエ」のアクティブシステムとよく似ていたが、大幅に進化したという。4つの駆動モーターと4輪操舵システムを組み合わせ、全ての走行条件下において縦・前後・横方向の力をアクチュエーターで制御できる初のフェラーリとなる。要するに曲がることが大好きなBEV、になることは間違いない。
フェラーリといえばエンジンサウンドが魅力。それがないBEVではどうするのか?実は静粛性はもちろん“本物の音”を出すことにもこだわったという。電動パワートレーンの発する全ての振動を拾って解析し、ドライバーが動的な現状を把握するために役に立つ周波数のみをアンプにかけエレキギターのように音へと変換、心地よく聞かせるらしい。早く聞いてみたいものである。
「ルーチェ」が標榜するスペックは総合出力1000cv以上(ブーストモード)、車重2.3トン、0→100km/h加速2.5秒、航続可能レンジ530km以上、最高速310km/h、などと公表されている。マラネッロ初となるBEVは限定車ではなくシリーズモデルだ。価格レンジはおそらく5000万円以上。今年の5月に再びマラネッロに戻り、そのスタイルを含めた全貌が明らかになる予定だ。
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取材・文/西川 淳 写真提供/フェラーリ