1965年に創設されたALPINAは、2025年に60周年を迎えた。しかしこのメモリアルイヤーを最後にドイツのブッフローエでの車両開発と生産を終了する。2022年3月にアナウンスされているように、ALIPNAを生産してきたアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社はBMWにALPINAブランドの譲渡を決定しており、BMWはALPINAが長年築いてきたラグジュアリーイメージを引き継ぎ、2026年以降BMWの高級車ラインアップの一員をとして加えることとなっている。
一方、アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社は今後新たに「BOVENSIEPEN社」として、クラシックカー関連事業の投資や、これまでとは異なる情熱的で新しいモビリティの開発を続ける。つまり現在、販売されているALPINAを手に入れる時間は限られているのだ。そんなタイミングで惜別の意味を込めて、ALPINA 「D3Sツーリング」で1000kmのロングドライブで、ALPINAの魅力に浸った。
今回試乗したALPINA「D3Sツーリング」は2021年2月に日本市場に導入されたモデル。ベース車両は、G20系「3シリーズ」の2024年10月に行なったマイナーチェンジ後のモデル。エンジンやトランスミッションそして4WD制御プログラム、電子制御サスペンションダンピングプログラムといった電子制御関連のあらゆるプログラムはALPINA独自のソフトウェアに書き換えられている。
搭載されているパワートレインは日本仕様にはない3L直6ディーゼルターボエンジンを搭載。この3Lディーゼルターボエンジンをビ・ターボ・チャージ・システムを採用し、最高出力355ps、最大トルク730Nmを発生。組み合わされるトランスミッションは8速ATだが、ビッグトルクに対応させるため、BMWのV8/V12エンジン搭載モデル用の高トルク容量8HP76型に換装し、さらに独自のチューニングを施すことで、0-100km/h加速4.8秒、巡行最高速度は270km/hを達成している。
サスペンションは、前後スプリングをALPINA独自のアイバッハ製スプリングに変更。またフロントスタビライザーもALPINA独自のアイバッハ製変更している。そして全モードダンピングプログラムを変更するとともに、BMWのエコプロモードの代わりに、独自の快適性重視のコンフォート+モードを設定している。
ブレーキシステムは、BMW「M760i」用のパーツを装着し、容量をアップ。さらにブレーキブースターを「M340i」用から「320」用に変更してサーボ特性とコントロール特性を変更している。そして今回の試乗車には、オプションのALPINAクラシック20スポークホイールを装着。鍛造製のこのホイールは標準装着の19インチホイールより4輪で13.7kgの軽量化を実現している。19インチアルミホイールに組み合わされるのは、ALPINA専用のピレリ「P-ZERO」。コンパウンドをはじめ、トレッドパターン、ラジアルのプライなど様々チューニングが施されており、ALPINAの高い走行性能を支えています。
またインテリアでは「3シリーズ」はマイナーチェンジの際にトグル式シフトレバーに変更されたが、ALPINAではマイナーチェンジ前のシフトレバーを採用。さらに専用メーターパネル&グラフィック、専用ラヴァリナレザーで巻いたステアリングホイールなどALPINAらしいスポーティさを演出している。速さというのは、サーキットで1秒を争う速さと長距離を快適に走る速さの2つがある。ALPINAは、最高速度を表す際に巡行最高速度という表記を使用しているように、「長距離をより速く、より快適に走る」ことをコンセプトとしている。
今回試乗したALPINA「D3Sツーリング」は、このALPINAの哲学を具現化したモデルと言える。大人4人が快適に過ごせるキャビン5260スペース。そして5人乗車は500L。リアシートを全て倒すと最大1510Lまで拡大するラゲッジスペースなど速さだけでなく、ユーティリティの高さも特徴だ。
日本の高速道路では、270km/hという巡行最高速度を味わえるシーンはないが、1750~2750回転で730Nmという最大トルクを発生する3L直6ディーゼルツインターボエンジンの実力は味わうことができた。東名高速や新東名高速道路といった国内で最高の速度レンジの道路を走行しても「D3Sツーリング」に搭載された3L直6ディーゼルターボエンジンの回転数は、メーター読みで1200~1500回転をキープ。今回のロングドライブで2000回転を超えたシーンはほとんど見られなかった。それでも車両重量2020kgという「D3Sツーリング」を静かにそしてスムーズに加速していく。高速道路での追い越しの際でも8速のままでも、速度が上がっていくのは驚いた。
高速道路では、ほとんどアダプティブクルーズコントロールを使用して走行したが、容量をアップしたブレーキを活かしたブレーキの掛け方は「匠の足技」と言えるレベル。先行車との距離が詰まりシステムがブレーキを掛けた際にも、乗員の頭が前後に揺れないのだ。一般的なアダプティブクルーズコントロールのブレーキは最初に強い衝撃が来るのだが「D3Sツーリング」は全くそれがない。これはすべての乗員に安心・安全を提供してくれる。
圧巻だったのは、乗り心地だ。オススメのコンフォート+モードで走行したが、路面の状況はハンドルを通じてドライバーに伝わってくる。しかし路面からの入力は素早く収束され、どんな路面状況を走行しても快適な乗り心地はキープされている。このようなスポーティな乗り味とフラットな乗り心地の両立というのは文字では簡単だが、実際にセッティングするには非常に難しい。この極上の乗り心地によって、これまで行った1000kmのロングドライブの中で最も疲労を感じなかった。まさに「長距離をより速く、より快適に走る」というALPINAの哲学を味わうことができた。
3L直6ディーゼルツインターボエンジンを搭載した「D3Sツーリング」の燃費性能往路の高速道路走行時で18km/Lをキープ。一般道を含めた1000km走行後は17.1km/Lだった。筆者はかつて2L直4ディーゼルターボエンジンを搭載した「320d xDrive」でロングドライブをしたことがあるが、その際の燃費は19.0km/Lだった。スムーズな加速性、静粛性を考えると、燃費差約2km/LというのはALPINAの実力の高さを示している。
「長距離をより速く、より快適に走る」ことを追求し、疲れにくい快適な乗り心地を実現したALPINA「D3Sツーリング」。ロングドライブを行い、わかったのは速さや快適性だけではなく、優れた燃費性能そして安心感を与える運転支援機能も備えていることだった。「D3Sツーリング」のロングツーリングに乗った後に試乗した最新モデルすべてに物足りなさを感じたのは、ALPINAの凄さを体験してしまったからだろう。
■関連情報
https://alpina.co.jp/cars/d3s/
文/萩原文博