50代~60代の昭和世代にとって、少年時代のスーパーカーブームは今でも色褪せることのない記憶だ。スーパーカーの定義は、人それぞれだが高い走行性能、エンジンを運転席後方に搭載したミッドシップレイアウト、そしてリトラクタブルヘッドライトなどは昔から人気が高い。高い走行性能と言うと、最高速度をイメージしがちだが、もちろんレースで活躍した実績も走行性能の高さの証明である。moya momoさんが所有するフィアット「X1/9」もスーパーカーとして人気を集めた濃いクルマだ。
フィアット「X1/9」はベルトーネのチーフデザイナー、マルチェロ・ガンディーニがデザインを手がけた。2024年に亡くなったが、ガンディーニがデザインしたクルマといえば、ランボルギーニ「カウンタック」やランチア「ストラトス」が有名だ。こういったモデル同様、フィアット「X1/9」は細部にいたるまでガンディーニがじっくり手をかけて生み出されたスーパーカーだ。
じつは「X1/9」はフィアットが販売した1972年~1982年と、エンブレムがベルトーネに変わった1982~1989年の2つの時代に分かれる。moya momoさんの愛車「X1/9」は1980年式なので、フィアット時代のモデルということになる。1980年のフィアット「X1/9」は、搭載するエンジンの排気量を1.5Lにアップ。組み合わされるトランスミッションだが、5速MTを追加し、扱いやすくした。
日本仕様のスペックは、最高出力が66ps、車両重量は980kg、最高速度が時速165km/hだった。また、5速MT車はリアトランクのサインプレートに「X1/9 Five speed」と書かれているので、moya momoさんのクルマと合致する。
moya momoさんのフィアット「X1/9」は、前オーナーが手を加えていたようで、アバルトのステッカーが貼られている。実は、フィアット「X1/9」をアバルトがチューンしたラリーカーがある。それがフィアット「アバルトX1/9プロトティーポ」だ。フィアット「アバルトX1/9プロトティーポ」はWRC(世界ラリー選手権)参戦を目的としたラリーカーで、欧州のラリーで優勝を飾るなど活躍したが、1975年のレースを最後にプロジェクトが終了。1976年にプロジェクトはランチアに引き渡され、培われたノウハウは「ストラトス」へと引き継がれた。moya momoさんのフィアット「X1/9」は、このラリー仕様モデルを模したモデルと言える。
ちなみに、moya momoさんは15歳の時に、このフィアット「アバルトX1/9プロトティーポ」を初めて目にして以来、ずっと手に入れたいと思っていたそうだ。そして60歳になって、ようやく45年間の夢を叶えることができたという。購入後、バッテリーやサイドブレーキ、オイル漏れなどのメンテナンスは発生したものの、大きなトラブルは発生していないそうだ。前オーナーがかなりお金を掛けてメンテナンスしていたおかげだと話す。
フィアット「X1/9」に乗る前はトヨタ「MR-2」に乗っていたというmoya momoさん。最も気に入っている部分は、個性的なスタイリング。そしてギミックな開き方をするタルガトップとのこと。一方、不満に思っている部分は、クーラーがないこと。猛暑が続いているが、45年思い続けたフィアット「X1/9」に乗れることを考えれば、クーラーがないことくらい大したことではないと話してくれ
取材・文/萩原文博