1974年の初代デビュー以来、50年以上に渡って世界の実用コンパクトカー、ハッチバックモデルのベンチマークであり続けているのがVWゴルフ。その第8世代となる2021年登場のゴルフ8が、2025年1月、先代の7から7.5の進化同様に、VWゴルフ8.5として発売を開始。ここではそのVWゴルフの基本形となるハッチバックモデルの公道試乗記を、ゴルフ2(1984~)、ゴルフ7ヴァリアント(2014~)、そして現在もゴルフ7.5の最終モデルとなるヴァリアント・ハイラインマイスター(2020)を所有する根っからのゴルフフリークである筆者がお届けしたい。
ご存じのように、第8世代のゴルフは当時の世界的トレンドだった電動化、そして運転支援機能の強化、デジタル化を進化させたゴルフとして、一目でゴルフと分かるスタイリングを纏って登場。ボディサイズはゴルフ7とほぼ変わらない全長4295×全幅1790×全高1475mm(GTIは1465mm)、ホイールベース2620mmというもの。日本の路上でも抜群に扱いやすいサイズを維持している。実際、ハッチバックモデルの標準型、およびGTIの最小回転半径も全車5.1mと極めて小回り性に優れているのである。
標準型ゴルフのパワーユニットはゴルフとして初の直列3気筒1Lターボエンジン(110ps、20.4kg-m)、およびお馴染みの直列4気筒1.5Lターボエンジン(150ps、25.5kg-m/気筒休止付き)の出力が異なる2種類を、電気モーターを加えたマイルドハイブリッドとして用意。タイヤはグレードによって205/55R16、225/45R17、225/40R18サイズが組み合わされていた。
ゴルフ8はゴルフ初の電動化モデルとして注目されたものの、時代の流れか、電動化推進の余波か、3気筒エンジンの採用やボンネット支持部分のダンパーの不採用を始め、インフォテイメントシステムディスプレイ下部のエアコン温度設定、オーディオの音量設定を行うタッチスライダーに夜間照明が未装備で操作しづらいといった、コストダウンの影もないではなかった。また、長年、4気筒1.5Lターボエンジンに親しみ、大いに満足していた筆者は、やはり3気筒エンジンの物足りなさ、それに伴う乗り味のゴルフらしさの薄まりを感じたのも本当だったのである。
ゴルフが8.5となって変わった部分は少なくない。まず、エクステリアでは新デザインのバンパー、シャープに刷新されたヘッドランプ、イルミネーション付きVWエンブレムなどが採用され、「Active Advance」およびテクノロジーパッケージ装着車には、ハイビームの照射距離が500mに拡大した先進のライトシステム”IQ.LIGHT”を設定している。
車内に乗り込んでも8.5のデジタルコクピットの新しさを実感できる。何しろ新インフォテイメントシステム“MIB4”は、12.9インチもの大型タッチディスプレイとなり(以前の8は10インチ)、8で不評だったディスプレイ下部のタッチスライダーバーにはやっとバックライトが付き、夜間でのエアコン温度設定や 音量設定の操作性が改善されたのだ(当然の処置ではある)。さらに“MIB4”には音声による機能操作「IDA(アイダ)ボイスアシスタント」も搭載され、インフォテイメントやエアコンなど多くの機能を、音声でコントロールできるようになっている(TVCMのように)。
動的性能にかかわる標準型ゴルフの大きな変更は、3気筒1Lエンジンを廃したこと。8.5では48Vマイルドハイブリッドを採用するeTSI Active Basic / eTSI Active用の1.5L直4ターボエンジン116ps、22.4kg-m、および引き続きの採用となるeTSI Style / eTSI R-Line用の同150ps、25.5kg-mの2種類のチューンが異なるガソリンターボエンジンと、デュアルAdBlue噴射機構ツインドージングシステムを備えるTDI Active Basic / TDI Active Advance用の2L 直4クリーンディーゼルターボエンジン(150ps、36.7kg-m)の合計3種類のパワーユニットが用意される。ミッションはもちろん全車、7速DSGである。
そして2Lターボエンジンを搭載する伝説のホットハッチ、GTIは8世代から20ps UPの265ps、37.7kg-m(トルクは不変)へとパワーアップ。ミッションは7速DSGのみで、MTの設定は、ない。タイヤは225/40R18サイズを基本とし、オプションのDCCパッケージ付きでは235/35R19サイズへとグレードアップされ、こちらのアルミホイールは第五世代を彷彿させるデザインを採用。GTI専用スポーツサスペンション、レッドブレーキキャリパーが奢られるのはもちろんだ。
ところで、ゴルフ8.5のR-LineとGTIを一目で見分ける方法がある。それはルーフで、両車のみブラックルーフとなるのである。また、パワーシートとなる
All in safetyと呼ばれる先進運転支援機能、つまり同一車線全車速運転支援システムのTravel Assist、レーンキープアシストシステムLane Assist、全車速追従機能付きACC、レーンチェンジアシストシステムSide Assist Plus、歩行者&サイクリスト検知対応のプリクラッシュブレーキシステムFront Assist、リヤトラフィックアラート、リヤビューカメラ、緊急時停車支援システムEmergency Assistなどは全グレードに標準装備され、安心安全なドライブを可能にしている。
12.9インチもの大型タッチディスプレイによって先進感、新しさを演出するゴルフ8.5ハッチバックモデルだが、パッケージングについては8と変わるはずもない。具体的には、身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で前席頭上に175mm(最大)、後席頭上に140mm、膝周りに175mmというコンパクトカーとしては平均以上のスペースを備え、Basicグレードを除き、運転席、助手席、後席の独立温度調整が可能な3ゾーンフルオートエアコンが備わるのもゴルフ8以降ならでは。とくに暑い時期の後席の快適性が高まっていることは間違いない(ゴルフ7.5は2ゾーンだった)。ちなみに別途、試乗記を報告するステーションワゴン版のゴルフ8.5ヴァリアントは、8からホイールベースが独自に伸ばされているため(2620mm→2670mm)、後席の膝周り空間についてはハッチバックモデルより広い220mmに達する。
さて、ハニカムメッシュグリルとフロントグリルの赤いラインが際立つ新型ゴルフ8.5のハッチバックモデル、オプションのDCCパッケージ(231000円)とディスカバーパッケージ(176000円)、テクノロジーパッケージ(209000円)を装着した有償オプションカラー(44000円)のOryx White Mother of Peart Effect/Black Roofに塗られたGTI 8.5に乗り込めば、まずはGTI伝統のチェック柄ファブリックシートのかけ心地、腰回りのクッション性、もちろんサポート性に満足できる。ステンレス製ペダルクラスター(アクセル、ブレーキ)はR-LineとこのGTI専用装備となる。
走り出せば、265ps、37.7kg-mのパワー、トルクを即、実感できる。とにかく出足から素晴らしくトルキー。ステンレス製アクセルペダルに軽く足を乗せるだけで、ウルトラスムーズに加速を開始し、標準型ゴルフとは異なるローダウンされたGTI専用スポーツサスペンションと、標準型ゴルフに対して低めにセットされているはずの専用シートによる低重心感覚、スポーツモデル、ホットハッチならではの低音が響く排気音による勇ましさを体感できるのだ。
ゴルフ7時代のGTIと比較すれば、標準型ゴルフ同様、軽快感が際立つ。強固なボディ剛性、足回り剛性を感じつつも、かつてのガッチリ、ドシリとした乗り味とは違う気持ち良さがある。試乗車はDCCパッケージ付きで19インチタイヤを装着するが、乗り心地は路面によってコツコツはするものの、至ってフラットかつ快適だ。ショックのいなし方、吸収は見事というしかない。
20psアップとなった2Lターボエンジンはなるほど、快音を響かせながらとにもかくにも速い。走行プロファイル(ドライブモード)はエコ、コンフォート、スポーツ、カスタムの選択が、センターディスプレイ下のスイッチでも可能だが、エコでもコンフォートでも、繰り返すがパワフル、トルキー、そして速い。コンフォートでは家族とのドライブも快適に楽しめる乗り心地となるから万能でもある(このモードで排気音がもう少し静かになると完璧か!?)。
走行プロファイル(ドライブモード)は標準型ゴルフでもアクセルレスポンス、パワーステアリング、DSGの変速、ヘッドライトなどがモードによって最適化されるのだが、DCCはそれにダンパーの減衰力がパワーステアリングの特性とともに瞬時にコントロールされ、ダンパーについては走行状況に応じて連続的に減衰力を可変する特性を備える。スポーツにセットすれば、それはもう胸のすく加速力、ダイレクト感に満ちた操縦性、フットワークを味わせてくれる。直進性の良さは当然として、カーブではもう、4輪が路面に張り付く、オンザレール感覚の立ち振る舞い、イメージ通りのライントレース性を示し、痛快そのもの。頬がゆるむ。それには電子制御油圧式フロントディファンシャルロック、電子制御式フロントディファンシャルロックXDS、そしてそれらを統合制御するビーグルダイナミクスマネージャーが貢献している。265ps、37.7kg-mものパワー、トルクを”前輪駆動”で最大限に引き出せる所以である。
胸熱くなるスポーツドライビングを、上質な快適性とともに、それこそ市街地走行でさえ堪能させてくれるあたりは、なるほど、伝統のゴルフGTIの最新型のプライド、シャシー性能の高さ、余裕の証だろう。付け加えれば、ブレーキング時の自動ブリッピングも、ドライバーを熱くさせてくれるのだからたまらない。
4MOTION=フルタイム4WD、Rパフォーマンストルクベクタリングで武装したゴルフRもトップ・オブ・ゴルフとして揃うのだが、8.5 Rの13psアップされた333ps、42.8kg-m、0-100km/h加速4.6秒を誇る「超」がつくハイパフォーマンスは、ドライビングプロファイル機能にR専用の「レース」モードが追加されることからも分かるように、サーキットで最大限に発揮されるもの。
一般道、山道では、走り好きにとってもGTIのパフォーマンス、血の気が引くほどの加速力で十分すぎると思えてならない(以前から)。最新のGTIは家族持ちや旅行好きの人にも最高の、身も心も軽やかになれて、遠くまでひとっ飛びできる、長く愛し続けられること間違いなしのホットハッチ、スポーツモデルであると断言できる。eTSi R-Lineの約100万円高だが、別次元、別世界のゴルフなのである。
文/青山尚暉