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2023.01.04

ランドローバー「ディフェンダーD300」が提案する現実的かつ魅力的な内燃機関の選択肢

全長×全幅×全高=4945×1995×1970mm。巨躯だが視線が高くボディの見切りがいいため、見た目から想像するよりも扱いやすい。

2020年の夏に2Lの4気筒ガソリンターボを積んだ5ドアのロングホイールベース仕様「110」が日本初上陸を果たしたディフェンダー。その後、3ドアのショートホイールベース仕様である「90」、そして「ラインナップ中の本命」ともいわれた3L直列6気筒ディーゼルを搭載したロングホイールベースでマイルドハイブリッド付きの「D300」が順次販売されると、日本でも人気が加熱。実際に走り出してみると、その理由がよく理解できたのだ。

冷静に“基準”を考えることの大切さ

2022年の夏、日本のモータージャーナリズムを牽引してきた三本和彦さんが91歳で亡くなられた。関係者だけで行われた葬儀に参列し、手を合わせているときに、個人的には大好きなあるエピソードを思い出した。やはり日本に自動車評論の道を築き、世界でも知られる自動車雑誌「カーグラフィック」誌を創設した小林彰太郎さんとの話である。

まだ、お互いに大学を出たばかりの頃だったと聞いているが、アメリカ大使館で日本語教師のアルバイト中に知り合ったお二人は、自動車好きということで意気投合。そんなある日、三本さんが「今度、沼津の人からシトロエン2CVというクルマを買うつもりだが、一緒に来ないか」と誘った。すると小林さんが「沼津まで行くのか? それは止めておけ」と三本さんに忠告した。シトロエンどころか、クルマ自体が珍しい時代に「車を早く見たい気持ちは分かるが、もしどんなクルマかを見極めるなら、箱根の峠のこちら側(東京側)の、小田原で待ち合わせようよ」と言うのである。当時の箱根峠越えはクルマにとって苦行のひとつであり、実力を判断するには格好の場であったのだ。

つまり「ちゃんと走れるクルマなら箱根峠を越えられるはず。約束の時間に小田原までたどり着けないなら、シトロエンなんて買うんじゃない」という理屈なのである。三本さんは「少し前にオースチンのボロを買わされたヤツの忠告なんか」と一瞬思ったが、「確かに一理ある」と納得し、二人は小田原に向かった。すると約束した小田原城近くにある八幡様の前には、すでにシトロエン2CVと共に、にこやかな笑顔のオーナーさんが立っていた。もちろんこの商談は成立し、おまけに2万円のディスカウントに成功し、13万円で購入できたという。まだサラリーマンの初任給が1万円にも満たない時代の話である。

実はこのエピソードは「ものの見方、判断の基準」について示唆に富んだものだと、ずっと心に刻んできた。もし、クルマ好きの二人が、はやる気持ちを抑えきれずに沼津まで行っていたら……。シトロエンの2CVは、どれほどのポテンシャルなのかを自分たちがリスクを冒しながらチェックしなければいけなかったし、もし峠越えが適わなければ後悔することになったはず。

そして現在、この話を当てはめて考えたいのは急激に進むEVシフトのこと。本当に世界は2035年をメドにエンジンの時代を終えることが出来るのか? 内燃機関の効率化を模索しながら、繋ぎの技術としてハイブリッド(HEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)の道を、一気に閉ざしたり、否定していいのだろうか? 今回、日本でも納車待ちが続くほどの人気を得ているディフェンダーのマイルドハイブリッド付きディーゼルモデル、D300にしばらく乗ってみて、改めてその事を考えさせられたのだ。

エンジンの可能性をもっと考えてみたい

最初に断っておくがエンジンに対するノスタルジーで言っているのではない。あくまでも現状のクリーンディーゼルエンジンの出来の良さに感心したから、性急なるEVシフトに「ちょっともう少し考えようよ」と言っているのである。

早速だが、実際に乗ってみると、とにかく印象的だったのは「静粛性の高さ」だった。「モーターなら最初からそんなことなど気にしなくても済む」という意見にはごもっともなので反論はしない。だが、これまでの感覚からすると、もはやディーゼルのネガティブ要素であるエンジン音や振動や不快感などはすでに気にしなくて言いレベルにある。

走り出してしまえば直列6気筒エンジンらしく滑らかでスムーズで、おまけにディーゼルらしくて低速からトルクがモリモリと湧いてくる。だからと言ってアクセルペダルの操作に対して唐突に力が出るわけでもなく、ちょうどいい頃合いのパワーの出方なのである。

多分にこれは欧州車お得意の48Vマイルドハイブリッドシステムの恩恵もある。アシスト用としても活躍する最高出力18kW、最大トルク55Nmを発生するモーターによって、予想以上に軽やかに2420kgのボディを扱えるのである。スクエアで見切りの効くボディも相まって、都内の雑踏でもストレスをあまり感じることなく走れるのである。

もちろん高速道路に乗り込めば加速時にモーターによるアシストの力も借りながら、ゆとりたっぷりにクルージングができるのである。

相変わらずストロークたっぷりのサスペンションは奥が深く、ふわりとしながらも、つねにフラットで心地よく、路面に吸い付くかのような安心感のある乗り味である。そこからディフェンダーの真骨頂たるオフロードに降りれば、もはや敵無しでは……。残念ながらそこだけは今回試すことは適わなかったが、存分に活躍してくれることは想像に難くない。

巨体が故に、加速時の損失はあるのだが、減速時にはその運動エネルギーの何パーセントかを電気エネルギーに変換してバッテリーに蓄え、そして蓄えた電気エネルギーでモーターを回して加速のアシストをする。そんな循環によって、市街地での燃費もカタログデータの9.9km/l(WLTCモード)に近づこうというレベルである。さらに短距離ではあったが高速では13.0km/lを越えるほどである。すっかりと生活に馴染んだところで、これほど良く出来たクリーンディーゼルの道を閉ざしてしまっていいのだろうか? まだまだこの可能性を探る方が、現実的ではないだろうか? と考えてしまった。

あの燃費データ不正問題があったことは、ひとつのきっかけにはなっただろうが“本来の正義”は、そこにないと思う。だからこそ、あまりに性急なるターゲット設定は、むしろどこかにひずみが出てくるはず。メディアは温暖化によって溶けて崩れていく氷河を映し出し、しきりに急げとバイアスを掛ける。そこではまるで車が人類の敵のようにさえ扱われているように見えてくる。確かに急ぐべき現実があるがある事は誰もが理解しているが、無理が通れば道理が引っ込む例えもある。

もし小林さんや三本さんがご健在であったなら、どんな基準を我々に示してくれただろうか?

「90」より全長が435mm長い110はキャビンや荷室にゆとりがあり、走りも前後の揺れが押さえ込まれ、ゆったり。発表されたばかりの8人乗り「130」は全長5358mmとかなりのロングボディ。
上質な縫製が施された天然皮革をふんだんに使用したインテリア。暖かさと手触りの良さ、そしてプレミアム感をほどよく融合した室内には独特の穏やかさがあった。(写真)
メモリー機能を持った12ウェイ電動フロントシートはしっかりと状態をホールドして、疲労感を軽減してくれる。
大人でもゆったりと足が組めるほどのゆとりを見せるリアシート。足元には窮屈さはまったくない。
スクエアなスペース取りで最大積載容量(2列目後方)はウェットで916 L(5+2シート仕様)を確保。※ウェットとはラゲッジスペースを液体で満たしたと仮定した場合の容量の計算値。
スムーズなストレート6エンジンと最高出力18kW、最大トルク55Nmを発生するモーターによるサポートで重力級ボディでも軽快な走りを実現。
ディーゼルとモーターによるトルクフルな走りをスムーズに引き出してくれる8速オートマチック。
ラゲッジルーム後端にはAC 110V/180W コンセントを装備して、アウトドアライフへの対応も抜かりがない。

【ディフェンダー XダイナミックSE D300】
全長×全幅×全高:4,945×1,995×1,970mm
車両重量:2,420kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
最低地上高:228mm(標準・コイルサスペンション)
最小回転半径:6.1m
エンジン:水冷直列6気筒DOHCディーゼルターボMHEV 2,993cc
最高出力:221kw(300PS)/4,000rpm
最大トルク:650Nm(23.2kgm)/1,500-2,500rpm
MHEVモーター
最高出力:18kw(24.5PS)/10,000rpm
最大トルク:55Nm(5.6kgm)/1,500rpm
WLTCモード燃費:9.9km/l
車両本体価格:¥ 9,120,000~(税込み)

問い合わせ先:ランドローバーコール 0120-18-5568

TEXT:佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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