アウディが「e-tron」という名の電気自動車を初めて公表したのは、2009年に電気とガソリンエンジンのハイブリッドカー。次の年には2ドアクーペを公開したが、2012年に市販予定を突然延期した。その後「e-tron」という名前のクルマは2018年までその姿を表わさなかった。2018年に登場した「e-tron GT」は、コンセプトモデルとしてLAショーに登場、その後、2020年からドイツ・ネッカーズフルムの工場で生産を開始した。
「e-tron GT」はグループ会社のポルシェと共同開発した4ドアクーペ。ポルシェは「タイカン」という名で販売したが、部品の40%は共通だった。4ドアクーペが「e-tron」に加わった理由はいくつかあるが、そのひとつにモータースポーツとの係わりがある。アウディはモータースポーツにも積極的に進出していることでも知られている。中でもル・マン24時間レースは2000~2002年、2004~2008年、2010~2014年と連続で総合優勝を飾っている。
特にに2012~2014年は「e-tron quatro」が連勝している。その勢いに乗って、市販車の「e-tron」も販売を伸ばしたいところだったが、状況はイマイチ。しかも「e-tron」シリーズにレースイメージのクルマはなかった。電池を床下に敷く方式なので、床の高いクルマ、SUVが「e-tron」向きだった。4ドアクーペも苦肉のスポーツ「e-tron」だった。しかも2018年後半に生産を開始、2021年から欧州や日本でも販売を始めた「e-tron GT」の人気はパッとしなかった。ル・マンの実績も通用しなかった。
モータースポーツが生産車販売の手助けにならない、という悩みはアウディだけではないが、それでもなんとかスポーツ性能を強調したモデルが必要だった。2024年6月、アウディはドイツ本国で「e-tron GT」の大幅な性能見直しを行なった。そして、その最新モデルが2025年8月にようやく日本に上陸。Sモデルの「S e-tron GT」をベースに「RS e-tron」モデルとして初めてRSパフォーマンスモデルを設定。アウディ史上、最もパワフルな市販モデルが登場した。
パワーユニットは総電力量105kWhの駆動用リチウムイオン電池を搭載。従来に比べて約9kgもの軽量化が行なわれた。最大150kWの急速充電にも対応、一充電走行距離はこれまでより約20%延伸し、631kmを達成した。電気モーターは前後アクスルをそれぞれ駆動する計2基で、4輪を駆動する。システム最高出力は925PSになり、これはアウディ史上、最もパワフルな市販車ということで、e-tronの新しい魅力ができ上がった。ボディーサイズは全長4995mm、全幅1965mm、全高1380mmとかなりロー&ワイドなプロポーションで、車両重量は標準車で2340kgとなっている。
居住性だが、前席の着座位置はやや低めで、ボンネットは見えない。後席も着座位置は高くないのだが、身長165cm以上だとドアの上縁に頭をぶつけがちなので、乗降時は注意したい。座ってしまえば、足元や頭上のスペースは身長170cmクラスまで耐えられる空間が確保されている。4シーターカーとして通用する広さだ。
今回のアップデートで加速性能、走行性能は大幅に向上。スムーズなパワー配分も行なわれた。パワートレインのドライブシャフトを強化し、4輪駆動の制御系を改善し、最適化している。サスペンションはアクティブサスがオプションで装備できる。試乗車にはこのサスペンションが装着されていたが、オプション価格は113万円。このサスペンションだが、ハードブレーキング時、コーナリング加速でも車体をほぼ水平に保つ。車両が停止し、乗り降りする時は高さをサポートする機能として、車高が55~77mmの範囲で上昇する。その動きは瞬時といってもよいほど、素早くレスポンスしてくれた。
ドライブモードは、エフィシェンシー/コンフォート/ダイナミック。さらにハンドルスポーク部分にRS1/RS2のスイッチが設けられている。サーキット走行用のRSパフォーマンスボタンも設定されているが、その動力性能は凄まじく、0→100km/hは公道上でも2秒台後半をしれっとたたき出した。その時の加速Gだが、頭の血がスーッと後ろに持っていかれるような感覚になり、貧血状態になりそうなほど強烈だった。しかも無音状態。この速さは、まさにEVスポーツカーと表現してもよいぐらいに強烈だった。
乗り心地に関しては「コンフォート」モードでもやや硬め、高速域でも上下動の大きさが「コンフォート」を意識するぐらい。パッセンジャーカーの4ドアクーペより、スポーツカーの4ドアクーペだ。「ダイナミック」モードを選択すればさらに硬くなる。床下に電池を搭載しているので、下半身の重さを感じるが、それも安定感につながっている。
コーナーを抜けて、ほんのわずかな直線が見えたら、アクセルを全開。0→100km/hを2秒台後半の強烈な加速Gと戦いながら、次のコーナーを目指す。ブレーキングをギリギリまで遅らせても、オプションの10ピストンセラミックブレーキとフロント265/35R21、リア305/30R21のブリヂストン「ポテンザスポーツ」のストッピングパワーはレーシングカーレベルだった。合わせて、約140万円の価値は十分にあると感じた。
「RS e-tron GT パフォーマンス」は、形こそ4ドアクーペだが、運転席に座り、小さなリアウインドからの後方視界を確認し、後方からの追従車の存在を気にしながら走り出すと、EVパワーの圧倒的な加速やサスペンションの追従性の高さで、後席のことなどすっかり忘れ、ドライビングを楽しんでしまう。
4シーターということで、後席に座った人はフルバケットシートと4点式シートベルトがマストだ。なので、後席は、パッセンジャーのためではなく、本革張りの快適な荷室と考えたい。
■関連情報
https://www.audi.co.jp/ja/models/e-tron-gt/audi_rs-e-tron-gt_performance/
文/石川真禧照 撮影/尾形和美