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2025.08.26

ワクワクを運ぶ新時代のトランスポーター、フォルクスワーゲン「ID.Buzz」

夜が明け切る前に出発の支度を整える。街はまだ眠っているが、そのときからすでにエネルギーが溢れる感じがしていた。それは単に早朝ドライブの高揚感ではない。今日の相棒がフォルクスワーゲン(VW)「ID.Buzz」だからだろう。ライムイエローメタリックのボディは暗闇のなかでもうっすら輝き、ボリューム感のあるフォルムが、周囲の空気を少しだけ明るく見せているからかもしれない。そんな明日のモビリティを象徴するような一台に向き合うと、こちらの気分も自然と前向きになる。

大きなドアを開け、一段高い運転席に腰を下ろす。視界がスッと開けると同時に、メーターとセンターモニターが光を放ち、キャビンは未来的な雰囲気に包まれた。キーフォブを持って座ればシステムが起動し、ステアリング脇のロータリー式シフトセレクターを回すだけで走り出せる。そんな操作の手軽さはEVならではであり、出発前のワクワクを加速させる。

それにしても、まだ走り出していないのに胸が高鳴る。広々としたキャビン、愛嬌あるスタイリング、そして歴史を背負った存在感。すべてがその理由だろうが、なによりこのクルマには、かつて世界中を自由に走り回った「VWバス」の精神が確かに宿っているように感じられた。

現代に蘇った自由の象徴

フォルクスワーゲンの始まりは1937年。国民車を造るという計画のもとに誕生したブランドである。やがてタイプ1、通称「ビートル」が生まれ、愛らしいフォルムに高い実用性を持ったこれは世界中で人気を博した。そしてそのビートルのシャシーを元に、キャブオーバー型ボディを載せた「タイプ2」―通称「VWバス」が誕生する。多人数乗車が可能で、乗用はもちろん商用や警察、救急といった用途にも使われ、社会の隅々にまで浸透していった。

特に1960~70年代のアメリカでは、VWバスは単なるクルマ以上の存在となった。ヒッピー文化やサーフカルチャーの象徴として、中古車市場で手に入れやすく、仲間と共に自由を謳歌する道具となった。ボディがキャンバス代わりにペイントされ、音楽や平和、自然回帰を体現する「走るアイコン」となったのだ。その自由闊達なスピリットが、人々の心に焼き付いている。

その精神を受け継ぎ、現代のEVとして蘇ったのが「ID.Buzz」である。VWグループのEV専用プラットフォーム「MEB」を採用し、後輪にモーターを搭載する点も、リアエンジン後輪駆動の往年のバスと重なる。単なる電動化ではなく、フォルクスワーゲンらしい継承の物語が込められているのだ。外観は懐かしさと新しさが絶妙にブレンドされている。キャブオーバーのシルエット、大きなVWマーク、2トーンカラーの塗り分け。サイドの大きなパネル面と広いガラスエリアの対比が「タイプ2」を彷彿とさせる。街を走れば子どもが指をさし、大人は笑顔を見せる。世代を問わず「かわいい」「楽しそう」と口にさせるクルマは、そう多くない。

バリエーションは2種類。標準ホイールベースの「Pro」は全長4715mm、2+2+2席の3列シート6人乗り。ロングホイールベース仕様「Pro Long Wheelbase」はホイールベースを300mm、全長を250mm延長し、2+3+2席の7人乗りを実現する。今回はそのロング仕様を試した。

新しい「人々のクルマ」

運転席からの視界は驚くほど広く、アップライトな着座姿勢はバスらしい感覚を呼び起こす。初対面ではかなり大きく感じた印象も、運転席に座ってしまえば見切りは良好で、車両感覚もつかみやすい。細い路地でも不安は少なく、「大きなバスを運転している」という緊張感は意外とない。ステアリングフィールや操作系はあくまで現代的で扱いやすいのが特徴だ。

走り出すと、そのキャラクターがはっきり伝わってきた。車重は2.7トンを超えるためアクセル操作に対するレスポンスは穏やかだが、560Nmの最大トルクがもたらす加速は必要にして十分。街ではスムーズに、高速ではどっしりと安定感を示す。バッテリーを床下に収めた低重心シャシーの恩恵は大きく、長距離高速巡航でも落ち着き払った走りを見せた。もちろんその重さゆえに荒れた路面では多少のバタつきもあったが、それを補って余りある快適性がある。最新の運転支援システムが備わり、長時間のドライブも安心して任せられるのは心強い。

それとともに印象的なのは、「ID.Buzz」は走行中だけではなく停まっている時間までも魅力的にしてしまうことだ。広いキャビンに降り注ぐ陽光、フラットになるシート、素朴なファブリックの手触りは、まさに居心地のいいリビングルーム。シートアレンジも多彩で大きな荷物も気軽に積めるほか、ほぼフラットになるため車中泊も容易にこなせるだろう。日常からアウトドアまで、使い手の自由な発想に応えてくれる。「ID.Buzz」は「走る」だけでなく「過ごす」楽しさを提供する。単なる移動のための空間ではなく、家族や仲間と語らう「居場所」として機能するのが、このクルマの魅力だ。

やがて東の空が白み、朝日がキャビンいっぱいに差し込んできた。浜辺にクルマを駐めてサーファーたちが波に乗る姿を眺めていると、ひさしぶりに自分も海に飛び込みたくなる。そんな気分にさせるのも、このクルマが運んでくれる自由な空気のせいだろう。移動手段を超えて「気持ちまで動かす」存在――「ID.Buzz」はまさにそういう一台である。

フォルクスワーゲンの名は「人々のクルマ」を意味する。その理念を、現代の電動化時代に合わせて再解釈したのが「ID.Buzz」だ。自由に、気軽に、そして楽しく。どこへでも連れていってくれる頼もしい相棒であり、停まっていても心を解き放ってくれるリビングルーム。そこには確かに「タイプ2」が持っていた自由闊達な精神が息づいている。

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■ 関連情報
https://www.volkswagen.co.jp/ja/models/id-buzz.html

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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