トヨタのラグジュアリーブランドとして華々しくデビューしたレクサスは、アメリカ市場を主戦場に成長を遂げ、日本では2005年から本格展開を開始した。セダンやスペシャリティクーペ、コンパクトモデルと着実にラインナップを拡充し、この20年で確固たる地位を築き上げたのはご存じのとおりだ。そしてその存在感をより強固なものにしてきたのがSUV群とも言える。ランドクルーザーをベースにした最上級「LX」や、ハリアー譲りの都市型SUV「RX」、そして扱いやすさが光る「NX」「UX」「LBX」などを順次投入。そして今回、このポートフォリオに「GX」が加わった。
「GX」はトヨタの「ランドクルーザー・プラド」系をベースにしたレクサス版で、北米では2000年代初頭から販売されてきたモデルだ。悪路でも根をあげない強靭な骨格に、大排気量ガソリンエンジンを搭載しつつ、「LX」よりもややコンパクトなボディサイズで都市部でも扱いやすい点が特徴。北米市場ではファミリーユースからアウトドアまで幅広く支持されており、そのパフォーマンスはまさに「LX」と「RX」のいいとこ取りと言えるだろう。
その「GX」の最新型では、登場以来、初めてプラットフォームを刷新。高剛性のラダーフレームとモノコックに匹敵する快適性を両立した、最上級のLXと共通の「GA-Fプラットフォーム」を採用。外観は堂々たる体躯ながら、過剰な押し出し感は抑えられ、〝ザ・プレミアム・オフローダー〟という開発コンセプト通りの、タフさと上質さを併せ持つ。
フロントマスクは大型グリルを中心に水平基調のデザインが施され、力強さの中に洗練が加わる。サイドビューは直線的で、スクエアなホイールアーチがオフローダーらしい力強さを強調。リアは控えめなランプ構成で品位を保つとともに、ガラスハッチを設けて実用性を高めている点がいい。国内仕様は3.5L V6ガソリンツインターボ+10速ATを搭載するGX550を軸に、充実装備の「Version L」とオフロード性能を高めた「OVERTRAIL+」の2グレードを設定する。今回試乗したのは後者だ。
OVERTRAIL+はフロントアンダーガードやルーフレールなどを標準装備した、本格オフローダーとしての存在感が際立ったモデルだ。足まわりはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがリジッドサスペンションという王道の構成で、電子制御ダンパー「AVS」と電子制御スタビライザー「E-KDSS」を組み合わせた。これによりオンロードではフラットな安定性を保ち、オフロードでは大きなストロークを確保。E-KDSSは前後スタビライザーの効きを電子制御で変化させ、舗装路でのロール抑制と悪路でのタイヤの接地性を高めるシステムだ。
加えて、走行モード選択機能、ダウンヒルアシスト、低速クルーズ制御「クロールコントロール」、リアディファレンシャルロックなど、悪路走破に必要な制御技術も充実している。特にクロールコントロールは、急勾配や岩場などでドライバーがアクセルやブレーキを操作せずとも車速を一定に保ち、ステアリング操作に集中できる優れものだ。そんな装備や機構が備わっていることだけ知ると、純粋かつ無骨なオフローダーというイメージが先行するかもしれないが、さにあらず。最新型「GX」はオフローダーのスタンダードと最新の電子制御の絶妙なバランスで仕立てられている。
「GX」のコクピットは一般的なSUVよりも着座位置が高めで視界が広く、まさに道なき道を行くための司令官が陣取る〝コマンドポジション〟と言えるだろう。センターコンソールには存在感のあるゴツめのシフトレバーと、モード切替スイッチを配置。14インチのタッチスクリーンには快適装備や走行モード情報が集約され、物理スイッチとデジタル表示の組み合わせが機能美を生んでいる。ボンネット中央の窪みや、ベルトラインが低めに設定されたサイドウィンドー位置は、オフロード走行時の視認性を高めるための工夫。これらはもちろんオンロードでも有効な仕立てであり、そのアップライトなポジションが何より運転しやすい。
そこでスロットルを踏み込んでいけば、353psと650Nmを発生する「GX」の3.4L V6ツインターボが、淀みのない回転フィールを伴いながら、で2.5トン級の車体を余裕をもって加速させていくのが気持ちいい。中低速域でのレスポンスも良好で、市街地から山岳路まで力強さを発揮。高速巡航の追い越し加速でもまったく痛痒を覚えない。
それとともに感心するのは、乗り心地の良さだ。ラダーフレーム車にありがちな微細な振動や突き上げ感は抑えられ、AVSとE-KDSSがしなやかかつ安定した乗り心地を実現。オンロードでは段差や舗装の継ぎ目を巧みにいなしてくれるのがいい。長いホイールベースを生かした直進安定性のよさで、ロングクルーズも楽々こなしてくれる。
今回は本格的なオフロードを走る機会はなく、フラットダートを軽く走るだけにとどまったが、四輪からはしっかりとした接地感が伝わり、電動パワーステアリングは切り始めから自然な手応えを伝えてくる。ちょっとした砂利に足を取られたとしてもすぐに姿勢を戻せる、安定性の高さが窺えた。もちろんサイズと重量の差が利いているのは言うまでもないが、個人的には、この「GX」の軽快かつコントローラブルなキャラクターが好みである。
かように「GX」は悪路走破性とレクサスらしい快適性を高次元で融合させた一台であることがわかった。その実力は英国の老舗四駆ブランドにも比肩するものとも言え、そのうえで日本ブランドならではの緻密な配慮と快適装備が光る。オフロードでは頼れる道具として、オンロードでは高級車として振る舞う二面性は、まさに〝プレミアム・オフローダー〟の名にふさわしいもの。四半世紀にわたるレクサスの歩みの結晶ともいえるこのモデルは、未知の道を切り開くパートナーとして、あらゆるシーンでオーナーを魅了し続けるだろう。
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https://lexus.jp/models/gx/
文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦