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2025.06.12

ジャガーのEVコンセプトカー「TYPE 00」が提案するクルマの未来

 米マイアミのアートウィークやパリでも公開されたジャガーのコンセプトカー「TYPE 00」が先月、東京でもメディア向けに発表された。実物の迫力というか存在感はとても強烈だ。低く、幅広く構えた巨大な2ドアボディは、これまでのどんなジャガーにも似ていないし、ライバルたちとも造形的な共通性は見当たらない。「TYPE 00」はEV(電気自動車)のコンセプトカー。ジャガーは2018年から「I-PACE」というEVを製造していたが、それのモデルチェンジ版ではない。現在、ジャガーはすべての製造ラインを止めて、クルマを造っていない。2021年に発表された「REIMAGINE」戦略という新たなグローバル経営計画に基づいて超高級EV専業メーカーになるべく、まったく新たに出直す準備を進めている。

 その計画の骨子が「ジャガーはエンジン車の製造を順次止めていき、2025年にはEVだけを製造販売するEV専業メーカーに生まれ変わる」というものだ。「TYPE 00」は、その第1弾となるEV(電気自動車)のデザインイメージを提示している。発表会場や、その後のSNSなどでの反応は混乱していた。

「これがジャガーの新型車なのか?」
「ジャガーらしさが、どこにもないじゃないか!?」
「どこがカッコいいのかわからない」

 あくまでもスタイリングイメージなので、実車がこの通りで出てくるわけではない。それを了解したとしても、見る者を混乱させてしまったようだった。筆者は、率直な感想だが、素晴らしいと思った。違和感を感じるくらいに今までのクルマと大いに違っているところが良い。新車の宣伝の常套句で「革新的」という言葉があるけれども、これくらいやらなければもう革新的とは言えない。

 エンジン車からEVに移行するということは、クルマを動かすパワートレインだけが変わるのではなく、それに付随して使われ方や乗り方、社会での存在のあり方なども含めて大きく変わっていくのだ。だから、デザインもこれまでの延長線上になくてもかまわない。

ジャガーは、あえて見る者を戸惑わせ、揺さぶろうとしている

 もちろん、何十万台、何百万台と販売するようなコンパクトカー、大衆車などは馴染みやすさが求められるからコンサバになってしまうのは仕方がない。しかし、ジャガーは昔からプレミアムだったし、スポーティだったではないか。特別な存在だから、みんなジャガーをリスペクトしていたわけだ。ジャガーに乗るということは、メルセデス・ベンツやBMW、ポルシェなどに乗るのとは違うのだ。

 ベクトルは問わずに現在のクルマたちから大きく離れてしまった、離してしまったことは、むしろジャガーを賞賛すべきなのではないだろうか。冒険しているからだ。新時代の“特別感”の出し方に、戸惑ってしまった人が多かったのだろう。でも、それがジャガーの狙いなのかも、と勘繰ってしまいそうになるほど、新しい表現を用いてこれまでのジャガーやスポーツカー、プレミアムカーといった固定観念を覆そうとしている。ジャガーは、あえて見る者を戸惑わせ、揺さぶろうとしているのかもしれない。

 そう考えさせられたのは、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのジェリー・マクガバン氏の言葉だ。

「TYPE 00は、EVの常識に沿ったものではありませんし、万人に愛されることを望むものでもありません。驚きを与え、シビレさせ、賛否両論を巻き起こすことでしょう。しかし、それはジャガーブランド本来の価値観に立ち返るという、私たちの決意を雄弁に物語っているのです」

「TYPE 00」のデザインについては「クリエイティブリスク」という言葉も聞いた。“時流に沿って、誰からも好かれるだけでは駄目だ。クリエイティブに於いてもリスクを恐れるな”というわけだ。とても刺激的な言葉で、示唆に富んでいる。「TYPE 00」のコンセプトカーは何種類も造られて、マイアミで発表されたものはドアが開いてインテリアも設られていたが、東京に来たものはドアも開かなかった。

 今年後半にはスペックなどが発表され「発売は2026年以降」ということだけしか決まっていない。まだまだ先のクルマなのだが、周到に準備されていることは間違いない。ひとつのプラットフォームから3モデル造られる予定で、最初に登場するのは、4ドアGTで、次が2ドアクーペ、その次は“まだ秘密だ”と昨年、インタビューをしたジャガーのトランスフォーメーションディレクター、サミュエル・ゴールドスミス氏は語っていた。そして、次のように続けていた。

「Reimagine戦略に変わりはありません。発表した時と変わらず、着々と進行しています。ジャガーはプレミアムEV専業メーカーとして再定義され、再出発します」

 造形でここまで驚かせてもらったわけだから、次は中身でも驚かせてくれるのだろう。これほど注目を集めるクルマも、なかなかない。

■関連情報
https://automotive-quantum.jp/special/3281

文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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