アウディは、新しいMHEV plusテクノロジーを採用した初の内燃エンジンを搭載する、PPC(プレミアムプラットフォームコンバッション)をベースとする新型A5およびQ5シリーズを、市場に投入している。
PTG(パワートレインジェネレーター)、BAS(ベルト駆動式オルタネータースターター)、リン酸鉄リチウム電池のユニークな連携により、48ボルトのマイルドハイブリッドシステムは内燃エンジンをサポートし、炭素排出量を削減するとともに、パフォーマンスと軽快感を同時に向上させる。この完全に連結または切り離しが可能なPTGは、統合型パワーエレクトロニクスと電動モーターを備えており、部分的な電動走行を可能にする。このシステムにより、燃料消費が抑えられ、さらにスムーズな運転体験を提供することができる。
AUDI AG 技術開発担当取締役 ジェフリー ブーコ氏は、次のように述べている。
「新しいMHEV plusテクノロジーにより、PPCに基づく内燃エンジンモデルの電動化を、お客さまのニーズに応じて推進しています。これにより、電気自動車、プラグインハイブリッド、高効率な内燃エンジンモデルの製品ポートフォリオが強化されます」
MHEV plusは、部分的な電動走行や電動ブースト、大幅な効率性と快適性の向上といった魅力的な機能を提供する。新型A5およびQ5に搭載されるマイルドハイブリッドシステムは、主に以下の3つの主要コンポーネントで構成される。まず、コンパクトに設計された統合型パワーエレクトロニクスと永久磁石同期モーターを搭載した新しいPTG、そして48ボルトバッテリーとBASです。48ボルトシステムのコンポーネントは液冷方式を採用し、最適な動作条件を実現している。
MHEV plusシステムのアーキテクチャは、PPCをベースとする前輪駆動およびquattro四輪駆動のさまざまなモデルに統合することができる。またパワーエレクトロニクスや電動モーターが、状況に応じた液冷方式をとることにより、すべての運転状況において必要な出力とトルクを発揮して、システムを最適な状態で稼働させることができる。
さらに新しいMHEV plusテクノロジーは、電動のみでの走行や内燃エンジンのサポートすることも可能となっている。そのため、燃料消費量とCO2排出量が削減され、性能と俊敏性を向上させる。例えば、A5 2.0 TDI(150kW、前輪駆動/quattro四輪駆動)の場合、最大で10g/km、また、V6エンジンを搭載した3.0 TFSI(270kW、quattro四輪駆動)では、最大で17g/kmの燃料節約が見込まれる(WLTP走行サイクルにおいて)。
MHEV plusシステムのもう一つの大きな利点は、性能と乗り心地を向上させること。PTG(パワートレインジェネレーター)はこの新しいシステムで採用された、コンパクトでありながら強力な電動駆動モジュール。このコンポーネントは、アウディがこれまで提供してきたMHEV(マイルドハイブリッド)テクノロジーとの大きな違いがある。従来のMHEVテクノロジーは、ベルト式オルタネータースターターのみを使用していたが、PTGはトランスミッションの出力軸に直接取り付けられた統合型パワーエレクトロニクスを備えたコンパクトなユニットとして取り付けられ、最大18kW(24PS)の電力を駆動に供給する。
このモジュールは、トランスミッションの出力で、最大230Nmのトルクを発生させ、車両始動時から駆動トルクとして直接利用することが可能となっている。PTGのコンパクトなトランスミッションは、3.6:1のギア比で動作する。MHEV plusは、最高140km/hの速度までPTGを活用して最大限の効率化を行ない、それ以上の速度域に入ると、PTGは内蔵のドッグクラッチを介して駆動系から切り離される。
このPTGの重量は約21kgで、出力シャフトで最大5,550回転/分に達する。これにより、モデルや駆動バリエーションによって、130~140km/hの速度に対応する。
そしてトランスミッション出力部と電動モーターの統合を、既存モデルの車両トンネル内の制約範囲内で行なうのに必要なスペースを確保するため、周辺部品に最小限の変更を行なった。ギアボックスのすぐ後ろに配置したことで、いくつかのメリットがあり、たとえば、PTGが発揮する18kWの駆動力、最大25kWの回生ブレーキ力は、無駄なく直接車軸の出力に直接利用することができる。この構成により、PTGは前輪駆動とquattro四輪駆動の両モデルで、手を加えることなくモジュラー方式で使用できる。
なお高い快適性の要件を満たすためには、トルク、電流、モーター回転数を正確に制御する必要がある。作動温度範囲はマイナス40度からプラス75度。電動モーターの周りを覆うウォータージャケットが、コンパクトかつ高集積パワーエレクトロニクスも冷却。この共通の冷却回路は、省スペース設計のために電動モーターに直接取り付けられている。高性能パワーモジュールは、パワーエレクトロニクス内のヒートシンクの周辺に配置され、中間回路のコンデンサもヒートシンクに囲まれることで、省スペースかつ熱効率の良い設計となっている。
アウディは、将来の顧客のニーズを見据えてMHEV plusテクノロジーを開発した。従来のドライブトレインは、第1世代のスタートストップ機能やマイルドハイブリッド技術に基づき、停車時のエンジン停止、コースティング、エンジンを停止した状態での惰性走行、12ボルトまたは48ボルトのエネルギー回収といった効率向上を実現してきた。新しい技術による電動化の進展に伴う主な利点には、スタートストップ機能の進化による快適性の向上、排出ガスを出さない惰性走行、エネルギー回生、電動駐車や低速走行時の部分的な電動走行、そして内燃エンジンを電動サポートすることによる性能向上などが挙げられる。
この技術により、完全電動走行が可能になり、例えば、都市内を低速で走行する場合や、郊外での渋滞中、あるいは市街地に近づく際など、内燃エンジンを長い時間停止させたままで済む。さらに、PTGが低速時でも最大230Nmの駆動トルクを発揮するため、車両のスタートアップ時の応答性が大幅に向上し、よりスムーズで俊敏な動きを実現。その結果、特に出発直後の数メートルの加速が顕著に向上する。
なお0km/hから最高140km/hの速度域では、PTGが内燃エンジンをサポートする。これにより、MHEV plusは最大18kWの追加電力を提供し、内燃エンジンが可能な限り効率的に動作できるようになる。この速度域から車両が停止する際には、回生ブレーキを通じてPTGは最大25kWのエネルギーを回生する。
統合型のブレンディング対応ブレーキ制御システムにより、通常は摩擦ブレーキを使用することなく、圧力をかけないブレーキと最適な回生ブレーキを実現。また、電動エアコンプレッサーのおかげで、MHEV plusは信号待ちなど内燃エンジンが停止中でもエアコンシステムを継続的に作動させることが可能となっている。
MHEV plusテクノロジーの一部として、BAS(ベルト駆動式オルタネータースターター)は、エンジンの始動やバッテリーへの電力供給を行なう。ベルト駆動はピニオンスターターに比べて音響面での利点があり、内燃エンジンの始動をより早めることにより、燃費が向上するとともに、快適な始動を実現。また、BASはエンジン停止中にエネルギーを回収し、再始動時に最適なシリンダー位置を確保する役割も果たす。
リチウムイオンバッテリーは、LFP(リン酸鉄リチウム)を使用しており、約1.7 kWh(総容量)に相当する37Ahの容量を持っている。最大放電出力は24kW。供給能力状況や、出力、トルクの要件を鑑みて、このバッテリーは25度から60度の範囲で最適な条件を維持できる低温水冷回路に統合されている。なおアウディが、マイルドハイブリッドシステムにLFPバッテリーを採用するのは、今回が初めてとなる。そしてiBRS(統合ブレーキ制御システム)は、エネルギー回収において重要な役割を果たす。MHEV plusテクノロジーを搭載したモデルでは、iBRSは圧力をかけないブレーキを実現し、機械式ホイールブレーキを使用せずに回生ブレーキによる減速を行なう。ブレーキペダルを強く踏み込んだ場合のみ機械式ブレーキが作動するが、この制御方法により、ブレーキフィールが悪くなることはない。
ハイブリッドシステムでは、バッテリーのSoC(充電率)が50~60%である状態が最も効率的であるとされている。このSoCでは、電動モーターに高い電流を供給するとともに、エネルギー回生中に高い電流を蓄えることが可能となっている。このMHEV plusハイブリッドシステムの目的は、電動走行距離ではなく、バッテリーを素早く放電・充電するサイクルにある。これにより、可能な限り多くのエネルギーを回収し、それを迅速かつ効率的に、駆動用として再利用することが可能になる。
MHEV plusテクノロジーでは、制御ソフトウェアが車両の動作状態をモニタリングし、内燃エンジン、PTG、BASの最適な相互作用を実現。同様の目的のために、2つの電動モーターの最適な使用条件や、駆動またはエネルギー回生のために必要なトルクの最適値が設定されている。さらに、バッテリーの充電状態も考慮に入れられる。目指すのは安定した運用であり、制御システムは状況に応じて作動する。追加された電動駆動装置のオペレーション戦略が、それぞれの内燃エンジンに最適化されているために、ドライビングダイナミクスを損なうことなく、可能な限り低燃費を実現する。
そしてオペレーション戦略は、選択されたトランスミッションモードやアクセルペダルの操作量を考慮している。例えば、走行モード「D」では、PTGによる最大18kWの追加電力が、アクセルペダルの約80%以上、またはキックダウン時にのみ発生する。一方、走行モード「S」では、アクセルペダルの踏み込み量が少ない段階から18kWの追加電力を利用可能。Dモードでは、高速道路や郊外の道路を内燃エンジンで一定速度で走行する際に、PTGの電動モーターでの電力損失を防ぐため、85km/h以上でPTGを切り離すことができる。しかしSモードでは、最大許容回転数が5,550rpmに達するまで、PTGは常に接続された状態を維持し、あらゆる状況に即座に反応する。
DモードとSモードに関するオペレーション戦略は、特に48ボルトバッテリーのターゲットSoCにおいて異なる。Dモードでは、平均SoCが50~55%の際に、内燃エンジンの電動アシストと部分的な電動走行に必要なエネルギーを確保する最適なバランスがとれる。このSoCレベルでは、信号待ちや市街地に入る際の、穏やかで長めのブレーキ操作によって回収されるエネルギーを、多く蓄えることもできる。Sモードでは、ターゲットSoCを約70%に設定し、よりスポーティな走行に必要な電動アシストに必要なより多くのエネルギーを確保する。スポーティな走行では、短くて強いブレーキングが多くなるため、エネルギー回収は少なくなる。
また、PTGを使用することで、より大きなトルクを瞬時に利用でき、走行性能がより上がるとともに、車両は負荷の変化に対してより素早く反応し、コーナーからの加速がより俊敏になる。負荷変動もDモードとSモードで異なり、Dモードでは快適なハンドリングが、Sモードではより反応が高くダイナミックなハンドリングが可能。このMHEV plusを搭載したモデルは、市街地に近づくときなど、完全に電動走行が可能で、PTGを活用して速度を維持できる。そして運転者やACC(アダプティブクルーズコントロール)が必要とする出力が一定の値を超えると、内燃エンジンが始動し、駆動力を引き継ぐ。始動条件は、48ボルトバッテリーのSoCと車両の速度によって決まる。
なおSoCがターゲットSoCを下回った場合は、内燃エンジンがより早く始動する。これは、電動走行によってエネルギー消費を増やし、SoCをさらに低下することを防ぐため。また、内燃エンジンはBASとPTGを組み合わせて、必要に応じてSoCを上げる、すなわち、充電することができる。ただし、渋滞時の低速走行または駐車の場合など、電動操作の際には該当せず、ターゲットSoCよりはるかに低い状態でも維持される。
一方、SoCがターゲットSoCを超えている状態では、内燃エンジンは遅れて始動する。より多くの出力が要求されるタイミングで始動し、48ボルトバッテリーがターゲットSoCレベルまで意図的に放電し、エネルギー回収フェーズで十分なエネルギーを吸収できる状態を確保する。また、車両の速度が上がるにつれて、内燃エンジンが出力を要求する条件が早くなる。つまり、速度が上がるほど、内燃エンジンで走行する割合が増えることになる。そして燃料タンクに入れる燃料の種類にかかわらず、パワートレインの効率向上によって車両の全体的な航続距離が大きく改善される。このように、MHEV plusテクノロジーを搭載したモデルは、長距離走行に非常に適しており、ユーザーのドライブをより快適にする。
なお、このMHEV plusテクノロジーは、顧客ニーズの違いにより、米国市場には提供されない。
関連情報:https://www.audi.co.jp/jp/web/ja.html
構成/土屋嘉久