千葉の会員制ドライビングクラブ「THE MAGARIGAWA CLUB」で開催されたアストン・マーティン“S”モデルの試乗会。スポーツモデルのヴァンテージに加え、現代アストンの屋台骨を支えるSUV「DBX」にも“S”仕様が用意された。果たしてこのハイパフォーマンスSUVは、どのような進化を遂げているのか。同じくチャレンジングなコースで確かめることとなった。試乗に先立つブリーフィングでは、「S」はサブブランドではなく既存モデルの進化版として位置づけられ、ヴァンテージ/DB12/DBXといった各車に展開されることが説明された。とりわけDBXにおいては、この整理が重要な意味を持つ。
DBXは2019年、アストン・マーティン初のSUVとして登場した。ブランドにとって新機軸でありながら、その走行性能は従来のスポーツモデルに通じる資質を備えており、市場からも高い評価を得てきた。現在では日本も世界で5本の指に入る重要なマーケットのひとつとなっており、その販売の多くをDBXが担っている。その流れの中で、2022年には高性能仕様のDBX707が投入される。今回のDBX Sは、この707をベースにさらなる進化を図った位置づけとなる。そしてその変更点は決して小さくない。まずはエンジンマップの見直しと冷却性能の向上により、最高出力は707PSから727PSへと引き上げられた。最大トルク900Nmという数値はそのままに、より高回転域まで力強さが持続する特性へと発生回転がより高回転域へと改められている。
足回りはエアスプリングと電子制御ダンパーの基本構成を踏襲しつつ、専用のチューニングが施される。加えてパノラミックルーフを廃しカーボンルーフ化、さらには23インチのマグネシウムホイール(オプション)などにより、約50kgの軽量化も図られている。実際に走り出してまず感じるのは、その身のこなしの軽さだ。4LV8ツインターボは、ヴァンテージS以上に余裕のあるトルクでぐいぐいと車体を押し出す。ストレートでスロットルを踏み増していくと、回転上昇に伴って一段と力強さが増し、5500rpmを越えたあたりから加速の伸びが明確に変わる。重量級のボディであることを忘れさせる加速感だ。
そしてコーナー手前では、まずブレーキの効きの良さが際立つ。踏力に対して減速がリニアに立ち上がり、重量級のボディを確実に受け止めながら、前輪にしっかりと荷重を乗せていくことができる。その状態からステアリングを切り込むと、車体は過度なロールを伴うことなく自然に向きを変え、姿勢は安定したまま旋回へと移る。ヴァンテージと同じステアリングラックを採用したという説明どおり、手元の入力に対してダイレクトに反応が返ってくる感触がある。
立ち上がりでスロットルを開けていった際のトラクションもしっかりと確保されており、後輪が路面を捉えながら確実に車体を押し出す。結果として、そのサイズを意識させないまとまりのある身のこなしが印象に残る。ドライブモードの切り替えによる性格変化も明確だ。GTモードでは、文字通り落ち着いたグランドツアラーとして振る舞い、スポーツ、スポーツプラスへと移るにつれて応答性が引き締まり、より積極的に車体を動かしていける。
今回のコースではその性能の一端に触れるにとどまったが、印象として強く残るのは、単なる高性能化にとどまらず、操作と挙動の関係がより明快に整理されている点である。707が持っていた圧倒的な力強さに、扱いやすさと応答の精度が加わった、と言い換えてもいい。つまり、DBX Sはアストン・マーティンが考える“S”のあり方を、SUVというかたちで具体化した一台。その意味において、より明確に「S」の世界観を知るにはうってつけの存在と言えるだろう。そんなDBX Sが一般公道ではどのような振る舞いを見せてくれるのか。その時がいまから楽しみで仕方ない。
■関連情報
https://www.astonmartin.com/ja/models/dbx707
文/桐畑恒治 写真/アストン・マーティン