年が明けたと思ったら、早くも2ヶ月が過ぎようとしている。今年の自動車業界も例年どおり多くのニュースが飛び交っているが、クルマという存在そのものの魅力やエネルギーは、まだまだ健在だと感じさせられる。ここでは、年初から話題を集めたトピックのなかから印象的な動きをいくつか拾ってみたい。まず注目したいのは、年明け恒例の東京オートサロンだ。カスタムカーの祭典というイメージが強いイベントだが、近年は自動車メーカーや輸入車ブランドにとって、新しいデザインやブランドの方向性を示す重要な発信の場へと変わりつつある。実際に会場を歩くと、来場者の関心も単なるドレスアップにとどまらず、ライフスタイルとしてクルマをどう楽しむかへと広がっていることが伝わってくる。
ラグジュアリーカーやスーパースポーツの世界でも、その流れは同様だ。カスタムという枠を超え、新しいカーライフのあり方を提案するモデルが増えてきた。そうした動きを手がかりに、いまクルマを取り巻く価値観の変化を見ていきたい。
今回のイベントにおいて、ひときわ大きな注目を集めていたのが、トヨタのスポーツブランドTOYOTA GAZOO Racing(TGR)が手がけるフラッグシップモデル「GR GT」だ。昨年、メディア向けにワールドプレミアされたこのスーパースポーツは、今回が初の一般公開。TGRブースでは常に多くの来場者の視線を集めていたのが印象的だった。初採用となるオールアルミ製骨格を採用し、全長4820×全幅2000×全高1195mmというワイド&ローのスタンスは、まさに近年のレーシングマシンそのもの。そのフロントに搭載される4LV8ツインターボエンジンが後輪を駆動し、さらに1モーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用。システム最高出力は650ps以上、最大トルクは850Nm以上とされ、パフォーマンス面でもトヨタの新たな到達点を示す存在となりそうだ。電動化への移行が加速する現在にあっても、内燃機関を核としたピュアスポーツカーの魅力を次世代へいかに継承していくかというトヨタなりの回答が、このGR GTには込められているように見える。価格や市販時期に関する詳細はまだ明らかにされていないが、日本発のスーパースポーツが世界市場においてどのような位置づけを築くのか、今後の動向を注視したい一台である。
BMWは走りを愛するジェントルマンドライバーに向けたモデル展開を絶やさないブランドのひとつだ。その象徴がMシリーズであり、M3やM4をベースとしたGT3マシンを用意するなど、モータースポーツとの結びつきも強い。一方で、より等身大のスポーツモデルとして存在感を放つのがM2である。M2は上級モデルに比べてコンパクトなボディサイズで扱いやすさに優れ、純粋にドライビングそのものを楽しませてくれるキャラクターが魅力だ。なかでもCSは“Competition Sport”の名が示すとおり、約30kgの軽量化とおよそ50psの出力向上が図られ、走りの純度をさらに高めた仕様となる。今回展示された車両は、そのM2 CSをベースにBMW純正のMパフォーマンスパーツをふんだんに装着した一台。とりわけカーボン製エアロパーツの存在感が際立ち、視覚的なインパクトだけでなく空力性能への効果も期待させる仕立てだった。かつては派手なドレスアップカーが主役だった東京オートサロンも、近年ではメーカー自らが提案する完成度の高い純正カスタマイズを披露する場へと変化している。その象徴的な存在といえるだろう。
EVブランドとして新たな歩みを始めたロータスだが、現実的な選択として内燃機関モデルを継続する方針を打ち出したことは、ブランドの歴史を知るエンスージアストにとって歓迎すべきニュースだった。その文脈のなかで強い存在感を放っていたのが、エミーラの特別仕様車「CLARK EDITION」である。エミーラは、ロータス伝統のDNAを受け継ぐ内燃エンジン搭載車として登場したミッドシップスポーツカー。メルセデスAMG由来の2L直4ターボと、3.5Lスーパーチャージャー付きV6という2種類のパワートレインが用意されるが、本モデルは後者を採用する。往年の名ドライバー、ジム・クラークと、彼が操ったレーシングカー「Type38」へのオマージュとして仕立てられ、グリーンのボディにイエローストライプを組み合わせた外装が印象的だ。赤を基調としたインテリアや木製マニュアルシフトノブも当時のレーシングカーを想起させる仕立て。単なる記念モデルにとどまらず、ロータスらしい軽快な精神性を現代に伝える一台となっていた。
アメリカンスポーツを象徴する存在として、常に強い存在感を放ってきたシボレー・コルベット。最新世代では長年の悲願だったミッドシップレイアウトを採用し、その運動性能を新たな領域へと押し上げた。その背景にはモータースポーツ活動があり、近年ではWECやルマン24時間レースにおいても確かな成果を挙げている。今回披露されたのは、そのハイパフォーマンス版であるZ06の最新仕様だ。車体中央に搭載される5.5LV8 DOHC自然吸気エンジンは646psと623Nmを発生。加えてドライバーインターフェイスやコネクティビティの刷新が図られたほか、ギリシャ・サントリーニ島をイメージしたブルーの内装を採用する「サントリーニエディション」の限定導入も発表された。性能のみならず、情緒的価値をも提案する現代的コルベット像を示していた点が印象に残る。
スポーツカーが主役となりがちな東京オートサロンだが、落ち着いた存在感を放つモデルもまた会場の魅力を構成する重要な要素だ。その代表格といえるのが、DSのプレミアムハッチバック「N°4」である。従来のDS4を進化させたモデルであるが、1.2L直3ターボに電動モーターを組み合わせたハイブリッドパワートレインと、新開発6速デュアルクラッチトランスミッションを採用した点が新しい。実用面での刷新に加え、デザイン面での進化が際立つ。アバンギャルドな外装と上質なレザーインテリアはDセグメントハッチバックの枠を超えた存在感を放ち、シグネチャーライトはグリルまで伸び、エンブレムも発光することでブランドアイデンティティを強く印象付ける仕立てとなった。ステランティス各ブランドの展示からも、このショーがメーカーにとって重要な発信の場となっていることがうかがえた。
会場のなかでも異色の存在として目を引いたのがヒョンデ・インスターだ。日本のコンパクトカー市場にも正面から挑む小型EVとして注目を集めるモデルであり、今回はそのモディファイ仕様「Retro Traveler」が披露された。水色のボディにホワイトアクセントを組み合わせ、ルーフキャリアやチェック柄インテリアを採用することで、どこか懐かしさを感じさせる世界観を表現。小型EVという実用的カテゴリーに“楽しさ”という価値を加えようとする提案が印象的だった。こうした親しみやすいキャラクターのクルマが街に増えていけば、モビリティそのものの印象も変わっていくはずだ。メーカーの新しい視点に触れられる点も、東京オートサロンならではの魅力といえる。
より現実味を伴った未来像として興味深かったのが、フォルクスワーゲンのID. GTI CONCEPTだ。電動化時代におけるGTIのあり方を提示するモデルであり、GTI誕生50周年を背景に開発された。全長4104mmのBセグメントEVをベースに、歴代GTIの文法を踏襲した赤いアクセントを随所に配置。ホットハッチの精神を電動モデルへ継承しようとする試みが読み取れる。ID.BuzzがEVに新たな価値を与えたように、このID. GTIもまた“走りの楽しさ”を電動時代へ接続する存在となるのか。まだコンセプト段階ではあるものの、その熟成の行方を見守りたくなる一台だった。こうして会場を見渡してみると、東京オートサロンはもはや単なるカスタムカーの祭典ではなく、クルマとの関わり方そのものを提案する場へと変化しつつあることが実感できる。極限のパフォーマンスを追求するスーパースポーツから、日常を彩るコンパクトEV、さらにはブランドの歴史や思想を映し出す特別仕様車まで、多様な価値観が同じ空間に並んでいたことが印象的だ。電動化という大きな転換期にあっても、クルマが人の感性を刺激する存在であり続けていることに変わりはない。そうした現在地を確かめられるという意味でも、東京オートサロンは今後ますます重要な役割を担っていくのだろう。
取材・文/桐畑恒治