ひとりの大人として選びたいものとは何か。思うに、それは本物だけがまとう、代えのきかない雰囲気を宿した〝気品〟だろう。たとえ時を経たものでも、内側からにじむ味わいや奥行きが深まっていれば、なお素晴らしい。その好例がワインだ。土地や時代の記憶を含んだ熟成の風味を楽しむ。そんな〝非日常〟に触れることで、人は世界観の広がりや学びを得るのだと思う。
落ち着いたソニッククロムのボディカラーを纏うレクサスLCコンバーティブルを前にしたとき、ふと似た感覚を覚えた。シックで、伸びやかで、そして2ドアコンバーティブルという、日常には決して必要のない存在。それゆえに惹きつけられる。大人が選ぶ理由は、案外こうしたところに宿っている気がする。
LCを一言で表すなら〝優雅なスタイリング〟が一番マッチするが、より正確を期すなら〝優雅さの中に潜む勇猛さ〟を有しているのもこのモデルの本質だと思う。イギリスやイタリアの名門グラントゥーリズモと肩を並べても遜色ない色気をまとう。その佇まいこそがレクサスLCという存在である。
LCはレクサスの新たなフラッグシップクーペ として誕生した。レクサスの2ドアモデルと聞けば、かつてのLFAを思い浮かべる人もいるかもしれない。しかしLFAが純粋に走りを極めたスーパースポーツだったのに対し、こちらは成熟した艶やかさをまとった〝グランドツアラー〟。だからこそ、固定ルーフだけでなくオープントップ仕様が用意されたことは、ごく自然な流れだったと言える。
LCコンバーティブルがラインナップに加わったのは2020年のこと。自動車のライフサイクルが早い今ではもう5年も経ったのかと思えるが、その美しさと印象の深さは初対面のときと変わらない。ワイド&ローのフォルムから描き出されるラインは、まさに優雅。スピンドルグリルの角から伸びるラインはボディサイドやボンネットから、Aピラー、そしてリアへと流れ、風の軌跡を形にしたかのようだ。
クーペとの違いは車体中央のルーフがファブリックのソフトトップへと置き換わる点だが、その曲線の美しさも含め、全体のバランスは驚くほど精緻に整えられている。幌を下ろしても、上げていても破綻がない。この〝二面の美〟が、所有する喜びをいっそう深くしてくれる。
コクピットに収まれば、印象はさらに強まる。外観とともに内装まで造形美を追求したモデルは決して多くないが、LCコンバーティブルはその稀有な一台だ。有機的なラインとレザーのコンビネーション、キルティングとパーフォレーションを効果的に用いたシートデザインなど、細部の仕立てにまで美が行き渡っている。
デザインや機能性は、今のレクサス基準からすれば一世代前の方向性と言えるが、それがむしろ雰囲気として効いている。スイッチ類の配置や動きひとつにも美意識が感じられ、このクルマの味を構成する要素になっている。キャビン全体を包み込む造形は、ラグジュアリークルーザーにも通じる優雅さだ。今回のテスト車が湛えていた深いワインレッドの室内もまた、大人の色気を放っていた。
走りにおいても、その印象は揺るがない。LCコンバーティブルはフラッグシップにふさわしく、5L自然吸気V8のみを搭載する。そして、その振る舞いは“さすが”の一言だ。街中の低速域では豊かなトルクが余裕をもたらし、アクセルに軽く触れただけでクルマがしっとりと前へ出る。そこからの加速、そして高速巡航では、力がみっちりと詰まったような密度の高いパワーに加え、パンチ力と伸びやかな高回転の気持ちよさが一気に押し寄せる。
開口部の大きいコンバーティブルはボディの緩さが出ることもあるが、このモデルにはその印象ほとんど皆無。それもそのはずで、レクサスモデルは年次改良を欠かさず、車両の熟成度を高めているからだ。実際、段差でのボディのねじれ感もなく、サスペンションはしなやかに作動し、路面のショックを丁寧に処理する。高速巡航での直進安定性は高く、乗り心地はしっとりと上質。ワインディングでは、ステアリング入力に対する反応が遅れることなく、意図どおりに動く。その所作は、まるで熟成したワインを静かに味わうような、奥行きのある愉しみ方を与えてくれる。
快適装備も抜かりない。オートエアコンに加え、シートヒーター、ステアリングヒーター、ネックヒーターを備え、レクサス・クライメイトコンシェルジュが乗員をつねに最適な環境へと導いてくれる。走行中でも50km/h以下であれば約15秒で幌を開閉でき、急な雨にも余裕をもって対応可能だ。こうした〝所作の美しさ〟こそ、この種のオープンモデルに欠かせない魅力である。そして、LCコンバーティブルには、振る舞いのひとつひとつに確かな余裕が漂う。造形のみならず、走りや装備の細部にまで意識が行き渡っている。完成された美をまとう一台——そう断じても、決して大げさではないだろう。
そんなコンバーティブルに触れて改めて思ったのは、レクサスLCというモデルが日本に存在していること自体が、ひとつの誇りだということだ。クーペを含めたシリーズ全体が体現する〝美と走りの調和〟は、日常に確かな活力を与え、オーナーのスタイルにも奥行きをもたらす。五感を刺激し、人生の実感を呼び戻す。その体験を、この一台は確かに運んでくれる。美しさを宿すクルマが、どれほど生活を豊かにできるのか。その答えをLCは静かに、しかし揺るぎない確信とともに示してくれる。そして、このモデルが日本の道にあることを、筆者は心から誇らしく感じている。
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文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦