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2025.02.01

ラリードライバーになった気分でアルピーヌ「A110 R TURINI」を爽快に駆る

初めてアルピーヌを所有したのは1980年代のこと。「A110」の後継モデルとして発売された「A310」の4気筒1.6ℓシングルキャブモデルだった。リアエンジンは、非力で常に高回転域を使いながら走っていた。アルピーヌが「A110」を復活させると知ったのは、2016年のこと。2017年には実車が発表され、日本仕様は2018年6月から販売が開始された。

新型は、リアエンジンからミッドシップエンジンに変更され、1.8ℓエンジンは250PS以上を発生。コンパクトなボディーは速くて扱いやすくて、日本ではジムカーナ選手権でチャンピオンマシンになっている。アルピーヌはさらに続々と限定モデルやチューニングモデルを日本市場に投入。2420mmというショートホイールベースとオールアルミのプラットフォームとアンダーボディーを採用。車重は約1t。パワーウエイトレシオも4.3kg/PSという値を達成しているだけに、コーナリングマシンとしてトップレベルの性能を持っている。

その「A110」シリーズに新しいモデルが追加された。その名も「A110R TURINI(チュリニ)」だ。「チュリニ」と言えば、モンテカルロラリーで有名なフランスのチュリニ峠のことを指す。先代の「A110」が1971年にワークスマシンの「A110」で初めてモンテカルロラリーに参戦し、3位でフィニッシュ。それ以降も世界のラリーレースで「A110」のワークスカーは活躍し、1973年には初代のWRC(世界ラリー選手権)チャンピオンマシンとなっている。チュリニ峠はモンテカルロラリーの主戦場のひとつ。ここでの走りが多くの人たちを魅了していた。

車名に、その名勝を付けたということは、アルピーヌにとっても大事な地名であることは間違いない。試乗する前に細部をチェックして驚いた。これはもう、ワークスのラリーカーではないか! およそ公道を走ることなど考えずに、競技に参加し、勝つことを考えて造られたクルマの姿なのだ。

ボディーは、フロントボンネット、ルーフ、サイドスカート、リアフード、リアディフューザーにカーボンを採用。フロントスプリッター、スワンネックリアスポイラーは専用装備だ。シャーシもラディカルシャシーはスプリング、アジャスタブルダンパーや足回りに専用チューンが施されている。さらに前輪のブレーキクーリングダクトは大きく、タイヤはミシュラン「パイロットスポーツカップ2」のセミスリックが標準装備となっている。

でもこのような装備は、セミレーシングモデルにはよくあること。そんな気持ちでドアを開ける。シートはフルカーボンのモノコックバケットシート(これもまあ、あるかも)、そしてシートベルトは何と6点式。それが運転席だけでなく、助手席にも装備されている。ついでに助手席は足元のフットレストが1枚の大きな金属板となっており、これはラリーでコドライバーがワインディングで両足を踏ん張るためのもの。

SABELT製の6点式レーシングハーネスで体を締め上げ、走り出そうと、ドアミラーとルームミラーを見た。あっ、ルームミラーがない! 気がつかなかったが、このクルマ、リアウインドウがなく、代わりにカーボン製のカバーが付いている。軽量化のためにガラスのウインドウを取り去って、カーボンで固定しているのだ。当然、後方視界はゼロ。室内はエンジンルームとの間に天井から床まで仕切りのボードが立っているのだ。見えないのだからミラーは不要、ということなのだろう。

ハーネスに締め付けられ、フルバケットシートに収まると、いつもより1ノッチ、シートを前に出した。ここからハンドルをガッチリつかむポジションをとれば、気分はもうモンテカルロラリーの、決戦の場チュリニ峠に向かうドライバーの気分だ。昔の仲間を呼び出して、かつて練習したターマックに向かう。当時の記憶が蘇ってきた。

私が初めてチュリニ峠を走ったのは、90年代に入ってからのこと。ルノーの代理店が企画した海外試乗会は、まるでWRCに参加しているかのような、タフな走りを体感する試乗会だった。ブラインドコーナーが続く峠道だったので、対向車を気にしながら慎重に走った。すると突然、後ろから白髪の老女が運転する「ルノー5(サンク)」がロールしながら抜いてきた。

ブラインドコーナーなど気にせず、私を抜き去って、黒い煙をまき散らしながら走って行く。「ルノー5」のディーゼルに抜かれるとは驚いた。それもブラインドコーナーのチュリニ峠で。その時のショックは今でも鮮明に覚えている。だが今でもブラインドコーナーの手前で、わざわざ前のクルマを抜こうとは思わない。現地では一般の人もチュリニ峠で抜きつ抜かれつの走りを楽しんでいる。まして、WRCに出てくるようなワークスドライバーの走りは命がいくつあっても足りないぐらいの走りだ。「A110R TURINI」もその走りに応えるだけのポテンシャルを秘めている。

ハンドルスポークに内蔵されている「SPORT」ボタンを押し、ターマックを走り出す。1.8ℓのターボエンジンは7000回転まで回すことを許してくれる。一応5000回転を目安にマニュアルモードで加速してみた。すると1速50、2速70、3速95、4速で125km/hに達する。Sモードは3000回転でシフトアップ、2000回転でバックファイヤーを伴いながらシフトダウンする。

「パイロットスポーツカップ」の接地と、重めの操舵に神経を集中させながら、気分は初代「A110」で73年のWRCを3勝したジャン・リュック・テリエだった。最後まで何度も、何もないルームミラーの位置に視線を動かしていた自分が面白かった。

■関連情報
https://www.alpinecars.jp/model/a110r-turini/

文/石川真禧照 撮影/望月浩彦

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