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2025.01.02

アストンマーティンの世界観を堪能できるスーパーカー「ヴァンキッシュ」

 アストンマーティンの「ヴァンキッシュ」が3代目にフルモデルチェンジしたということで、イタリアのサルディニア島で乗ってきた。V型12気筒エンジンをフロントに搭載し、後輪を駆動するというトラディショナルな構成は初代から変わらない。モーターを付け加えたハイブリッドやモーターだけのEV(電気自動車)ではない、純然たる内燃機関車であるところも大きな特徴となっている。

 新型「ヴァンキッシュ」のV型12気筒エンジンは新開発されたもので、排気量5.2L、ツインターボ、最高出力835馬力、最大トルク1000Nm。性能は0-96km/hの加速は3.2秒、最高速度は345km/hと並外れたものを備えている。

 カーボンファイバー製のエンジンフードを開けると、そのV12はボディーの中心側に寄って搭載されている。ヘッドカバーや排気管などはカバーされていて見えないのは、最近の傾向通りだが、プレートにはイギリスにて手作業によって組み立てられたことと最終検査を行った人物の名前が誇らし気に記されている。

「ヴァンキッシュ」より少し前に発表されたフェラーリの「12チリンドリ」も同じV型12気筒を搭載し、6.5Lの排気量から最高出力830馬力、最大トルク678Nm。性能は0-96km/h加速が2.9秒、最高速度が340km/hと、加速は「ヴァンキッシュ」より0.3秒上回っており、最高速度は5km/h下回っている。エンジンの排気量と出力、その特性が異なっているのは「ヴァンキッシュ」がターボ過給されるのに対し「12チリンドリ」は過給しない自然吸気だという点だ。ただ「ヴァンキッシュ」も「12チリンドリ」も830馬力を超えるような最高出力は途方もなく、340km/h以上を誇る最高速度もほとんどの人にとっては、そのスゴさを想像するだけにとどまることだろう。

速さだけを追求したマシンではない「ヴァンキッシュ」の魅力

 しかし、昨今のスーパーカーの世界は凄まじいことになっていて、最高出力や加速や最高速などのスペックだけに限れば「ヴァンキッシュ」や「12チリンドリ」を超えるクルマは何種類も造られている。それらはエンジンに電気モーターが組み合わされ、4輪駆動化されていたりする。個別の車名やスペックなどは挙げないけれども、エンジンを搭載していない高性能EV(電気自動車)の速さも並外れているのだ。「ヴァンキッシュ」は、そうした電動化をあえて施さず、エンジンだけで後輪を駆動する構成を採っている。速さだけを追い求めるクルマではないのだ。

 でも、実際に運転してみると「ヴァンキッシュ」はとても速い。速さを自分の感覚で体得することもあれば、スピードメーターを確かめて驚くほどの速度が表示されていることもある。主な走行モードは、GT、Sport、Sport+の3種類。あらゆる種類の道に適合して長距離のドライブに向いたGTモードで走り始めた。

 835馬力と345km/hという数字から想像できる猛々しさなど微塵も感じさせない走り出しだ。一般道を他のクルマと走っている限り、重厚で抑制の効いた乗り心地が続いていく。そのぐらいのペースではV12エンジンからの排気音は低く低く抑えれ、路面の舗装によってはタイヤノイズのほうが大きく聞こえるくらいだ。

 いや「ヴァンキッシュ」のエンジン排気音は、もう“ノイズ”とは言えないだろう。徹底的に抑え込んで聞こえないようにしたくなる騒音ではないからだ。クルマが好きで、少しでもアストンマーティンに関心を抱いている人ならば、耳を傾けたくなってくる“サウンド”だ。

ペースを上げて右足に少しづつ力を込めていくと「ヴァンキッシュ」のバリトンは朗々と響き始めていく。山道に入ったところでSportモードに変更すると、変速タイミングが変わり、より高回転域までエンジンを回そうとする。

 ビルシュタインのDTXダンパーも引き締まってくるが、それによってショックが直接的に車内に伝わってくることはない。ロールやピッチングなど車体の姿勢変化が少なくなった分、よりダイレクトに「ヴァンキッシュ」の挙動と路面状況を知ることができる。乗り心地とハンドリングのバランスが非常に高いレベルで保たれているのに感服させられた。ただ速いばかりでなく、かといって安楽なだけでもない。どちらも高い次元で実現されていて、矛盾なく一体化している。「ヴァンキッシュ」の真骨頂のひとつだ。

繊細で極上な走りを体現

 蛇足かもしれないが、ターボ過給によるエンジン回転のレスポンスの遅れのようなものは一切感じられなかった。むしろ、低回転域からの濃厚なトルクをそのメリットとして十分に享受することができた。試乗後に、ビークルパフォーマンスダイレクターのサイモン・ニュートン氏に伝えたら、大きく頷きながら教えてくれた。

「乗り心地とハンドリングのバランスには、特に厳しく注意を払って開発しました。ダンパーの作動する幅が広くなったことで、ドライブモードごとの設定の微調整とコントロールの幅も広くなっています。ダンパー反応は超高速で、GTモードでは素直は乗り心地を保ちながら敏捷性とレスポンスを向上させています」

 Sportモードでも、やはりサスペンション制御とステアリングフィールの両方を念頭に置いていたという。

「路面からの不要なフィードバックを最小限に抑えながら、最適なサスペンションコントロールとステアリングフィールを保つことができます」

 さらに、Sport+モードに切り替えてみても、それはSportの延長線上にあるものだった。よりタイトになるが、快適性が損なわれるものではなかった。ボディの大きさを感じさせない敏捷な身のこなしには、新開発のE-diff(エレクトロニック・リアLSD)も効果を発揮していた。ただし、運転している最中にはっきりと伝わってくるものではなかった。

「電子制御によって瞬時に微細なコントロールを行なっているので、ドライバーにはなかなか感知できないでしょう」

 ゆるやかな直線が続く自動車専用道でも極上の走りっぷりだった。エンジン音のかすかなハミングを聞きながら巡航し、前のクルマに追い付いてしまって加速すれば、一瞬の咆哮ののちに追越しを完了してしまう。他にも、ピレリと共同開発した専用タイヤの効能も小さくないだろう。最高のリソースが投入されて開発が行われ、入念に調律が繰り返された様子が想像できる仕上がりだった。

パフォーマンスとラグジュアリーを追求した唯一無二のスーパーカー

「ヴァンキッシュ」の日本での販売価格はすでに決まっていて、約5000万円。これはベース価格で、さまざまなオプションやオーダーメイドなどは含まれない。10.5kg軽くなってエンジン音もさらに響かせることができるチタン製エキゾーストシステムや、リアシートのあるべき位置に段差のようになっているスペースにピタリと収まるように造られる革製の2個のバッグセットなどはぜひ注文したいけれども、その分どんどん価格に上乗せされていく。ちなみに、そのバッグの革はシートやダッシュボードなど、クルマ本体に用いられる革と同じ素材と色で揃えて造られるのだ。

「インテリアの中核的なテーマはクラフトマンシップと精度です」(チーフデザイナーのジュリアン・ナン氏)

 他にも、夥しい種類のオプションやオーダーメイドが用意されていて、“自分だったら?”と妄想してしまう。ヴァンキッシュそのものが買えなければ、本当に妄想で終わってしまう。妄想は止まず、ヴァンキッシュを買うことになったら、東京のペニンシュラホテルにあるアストンマーティン銀座で注文するのも良いが、せっかくならば本拠地イギリス・ゲイドンの「Q by Aston Martin」ラウンジまで赴いて、Q役のスタッフを相手に自分だけの一台を誂えられたら最高だ。もちろん、ニューヨークのパークアベニューにもある「Q by Aston Martin」でも構わない。

 こうしたオーダーメイド、パーソナライゼーション、ビスポークなどと呼ばれるサービスはアストンマーティンだけではなく、高級車各ブランドがさまざまに実施している。高級であればあるほど、顧客は“自分だけの1台”や“世界に1台”を欲しがるものだから、今後とも重要性は変わらないだろう。むしろ増していく。

「ヴァンキッシュ」の“スーパーカーのパフォーマンスとウルトララグジュアリーな走りという唯一無二の組み合わせ”という開発目標が達成されていることは間違いない。個々のスペックを確認するためには、たった1日の試乗では足りなかったかもしれないが、世界観を受け入れることはできた。「ヴァンキッシュ」で長距離旅行できたら、どんなに素晴らしいだろう。何日も何日も長い時間をともにしながら走り続けるような旅をするのが最もふさわしい乗り方で、最も満足させてくれるのではないか。そんな夢を見させてくれた「ヴァンキッシュ」だった。

■関連情報
https://www.astonmartin.com/ja/models/vanquish

文/金子浩久

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