ランボルギーニが初めて世に送りこんだEVは、発進から数kmだけEV走行するというものではなく、外部充電ができるプラグイン・ハイブリッドだった。今回、試乗中も街中で走行している時は、ほとんどEVでのモーター走行で事は足りた。新開発の6.5L自然吸気エンジンは始動することなく、ランボルギーニらしくない無音の走りを体験することができた。この「レヴェルト」に乗って、走り出す前にEVに関しておさらいしてみよう。
EV用の電池は、リチウムイオンで容量は3.8kWh。これは長距離を走行できるスペックではない。しかし、蓄電量がゼロまで落ちた場合、家庭のAC電源か、7kWまでのEV用充電器を使用して30分でフル充電できるという。さらに前輪の回生ブレーキでの充電や、エンジンからの充電でも6分程度で充電でき、モーターでの走行が可能になるのだ。
最初に書いたように今回の試乗中もクルマを停めて撮影している時は、すべてEV走行だった。その場にいたスタッフは誰もV12の咆哮を聞くことはなかった。撮影が終わり走行中の写真を撮りに出かけた時も、しばらくはEV走行だったが、何度か信号待ちをしている時に充電が切れると突然、V12エンジンが目を覚まし、豪快な雄叫びをあげた。
この時の走行モードは、従来からの「citta(シティ)」に代わって新たに装備された「リチャージ」。これは都市部のゼロエミッション走行向けに用意されたドライビングモードに、電気モーターを駆動するための電池に充電するステーションなどが見つからない時にV12エンジンを介入させて、数分でフル充電させるモードだ。2タイプのモードを組み合わせて「レヴェルト」はEV走行するのだ。
ちなみに従来からのモードは「citta」のほかに「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」の4モードがある。これに「リチャージ」「ハイブリッド」「パフォーマンス」が加わった。モードの切り替えはハンドルに装備された2つのダイヤルで行なう。
EV走行時の「レヴェルト」は、フロントアクスルに搭載された左右1基ずつのモーターによって走行する。モーターの出力は1基150PS、350Nm。モーターはもう1基、車体後部の8速トランスミッションの上に搭載され、ドライビングモードの選択と走行状況に応じて後輪に動力を共有する。EV走行中は前輪駆動のFF車で、エンジンが始動すると4輪に駆動力が伝わるというシステムを開発したのだ。V12、6.5Lの自然吸気エンジンは825PS/9250rpm、725Nm/6750rpmに達する。
V12エンジンの咆哮に慣れたところで改めて「レヴェルト」を見てみる。外観で目につくのは、大きな1枚板のフロントボンネットと空気の流れを極力スムーズに追求した車体、さらに左右とも垂直に開閉するシザードアはクンタッチからのアイデンティティ。ヘッドライトのデイタイムランニングライトやテールライトのY字形ライトシグネチャーは、このモデルが最後になるデザインだ。
シザードアを開けて運転席に座る。低いポジションでしっかり肩から太ももまで支えてくれるセミバケットシートの形状が体にフィットする。手を上に伸ばしてドアを引き下げる。前方視界は短いボンネット、ドアから離れているサイドミラーで見切りはよい。
スタートボタンを被っている赤いカバーを上げてボタンを押す。これまでのランボルギーニのように豪快な咆哮が轟くのかと思ったら、メーターに灯が入り、スタート準備は完了。Dボタンを押し、クルマはスタートした。当然、EV走行なので音はしない。「レヴェルト」はスタートから水やオイルが暖まるまではEV走行するようにプログラムされている。このあたりの制御の巧みさは、さすがアウディグループの一員だけに、徹底している。
EV走行での航続距離は、100%充電状態で約10~12km行けるので、街中でのちょっとした移動はモーターだけで走ることができた。新しいランボの特徴だが、これが魅力かというと微妙なところだ。V12、6.5L自然吸気エンジンも味わってみたくなる。新しいプラットフォームを採用したことで、このエンジンは「アヴェンタドール」のレイアウトから180度回転させて搭載され、4輪を駆動している。
電気残量が20%になると、突然、V12エンジンが目覚めた。背中で聞こえるいつものサウンドだ。新開発されてもランボルギーニのV12エンジンの豪快なサウンドは変わらない。ここからはいつもの世界+モーターの300PSに近いパワーも加わっての走りだ。とくに低回転域でのトルクの太さは、7速60km/hを1500回転で走行できるほど。1500回転でもアクセルレスポンスは結構、俊敏だ。エキゾーストサウンドも勇ましい。そのサウンドがさらにフォルテになるのは3500回転を超えてから。
もうEVモードで走行していたことなんか忘れ、ひたすらV12のサウンドと加速に酔う。やや重めのハンドルを操りながら、ワインディングに向かう。リチウムイオン電池は、センタートンネルの中に格納されているので、クルマの中心部に重量物を搭載していることになる。その低重心の安定感と、新しいプラットフォームの剛性の高さは「レヴェルト」をさらにコーナリングマシンに仕立てている。
8速ATはモードによって、スポーティな変速を楽しませてくれる。一度、0→100km/h加速の計測を試みたが、タイムはメーカー公表値の2.5秒には及ばなかったものの、それでもV12エンジンは9000回転まできれいに回り、3秒台を出した。音と加速Gの凄さは一瞬で体感することができた。
ランボルギーニ初のプラグイン・ハイブリッドは、EV走行中心で街中や住宅地を10km近くも走り回ることができ、充電量が不足したら、走りながらでも5~6分で、再びEV走行ができる実用性の高いスーパー・プラグイン・ハイブリッドモデルだった。「レヴェルト」のベース車両価格は約8500万円。すでに2026年分まで完売しているという。
■ 関連情報
https://www.lamborghini.com/jp-en/%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB
文/石川真禧照 撮影/萩原文博