メルセデスAMG「GTクーペ」の2世代目「GT63 4MATIC+ Coupe」が今年4月にリリースされた。欧州では「GT43」「GT55 4MATIC+」もラインアップしているが、国内には「GT63」が導入された。

「GTクーペ」はレーシングカーのベースにもなるスポーツラグジュアリーモデルで基本は2座席。オプションで超小型の前方可倒式のリヤシートを選択できるが、このリヤシートは身長150cm以下しか座ることはできない。ポルシェ「911」と同様だ。

AMG「GT63 4MATIC+ クーペ」の心臓部は、アファルターバッハでAMGによる「One man One engine」で動き出し、その希少性と所有する満足感を高めてくれるモデルに仕上がっている。

メルセデスにはAMG「SL」もあるが、一方でラグジュアリーの極みを追求する「SL」とは一線を画し、AMG 「GTクーペ」の世界観に浸れる優越感も得られる。また、このクルマはレーシングカーのベースにもなっている。それほどスパルタンなマシンであり、AMG「GT63 4MATIC+ クーペ」の動きの一挙手一投足に、凄みを感じることができる。そんな満足感に浸る喜びが湧いてくるマシンなのだ。

“ロングノーズ＆ショートデッキ”というクラシカルな格好良さは、見ているだけで永遠のものと思わせてくれる。フロントグリルセンターのスリーポインテッドスターと、縦型スリットのパナメリカーナ・グリルが最も似合う面構えだと悦に入りたくなる。また、エッジのないパネルは精度高く組み付けられ、フェンダーの盛り上がりや真うしろからのプロポーションに惚れ惚れさせられる。

クルマに近づくとシームレスなドアハンドルが立ち上がる。クーペの長いドアを明けて、車内に乗り込む。AMG「GT63 4MATIC+」は左ハンドルだけの仕様で、シートはAMG専用のスポーツシートが装備されている。座り込むとガッチリ体がホールドされる。新しいボディーアーキテクチャーで作られた第2世代は、乗り込んだ瞬間、守られている安心感が全身に行き渡る。

極太のステアリングを握り、エンジンをスタートさせるるとV8ツインターボエンジンが目を覚ます。「これだよ、これ」と思わず独り言をこぼしたくなる瞬間だ。この585PS/800Nmのエンジンをほんのわずかだけアクセルを開いて、街中の喧騒に紛れるように走ると一般のエコカーとは違った運転の楽しみ方ができる。

コーナーを侵入する時は、どんな速度からでも止まれるとストッピングパワー、そして9速のAMGスピードシフトMCT（多板クラッチ技術）のギヤがシンクロするかのようにダウンシフトする。吠えるM177型。ゲインの立ち上がりをビシビシと感じながら旋回し、Gとグリップを得て再びコーナーへアプローチ。アペックスを過ぎれば、V8ツインターボが作り出す炸裂したパワーを4MATICによって冷静に加速させることができる。

コーナーリングでは、あのロングノーズが面白いように回頭し、グングンとコーナーを駆け抜けていく。ダイアゴナルロールすら感じることなく、常にフラットに旋回し車体の中心を串刺しにしたかのようなGを感じることができるのだ。市街地に戻れば、超扁平極太タイヤからイメージされる乗り心地とは、かけ離れたラグジュアリーな世界を想起させてくれる。

AMG「GT63 Coupe 4MATIC+」には油圧式のAMG ACTIVE RIDE CONTROLサスペンションが装備されている。これにより、電子制御されるスタビライザーと連続可変ダンパーにより車両姿勢が制御され、無駄なロールやタイヤの接地感を損なうことなくコーナーを攻めることができる。

じつは、リヤ・アクスルステアリングも装備し、100km/h以下は前後輪が逆方向に最大2.5度操舵される。それ以上の速度では同位相に操舵される。コーナーでの回頭性の高さやストレートでのスタビリティを感じさせる秘密のひとつがこのシステムというわけだ。

サーキットが視野に入るAMG「GT63 4MATIC+クーペ」。高いスポーツ性能と低重心が追求され、フロント・ミッドレイアウトのM177型エンジンユニット。そしてアクスルの接続部位を低い位置にし、剛性面で重要なコンポーネントをボディー構造内部に格納。そうしたレーシングカーノウハウを持つAMG「GT63 4MATIC+クーペ」を市街地で、高速道路で、そしてサーキットで走らせる愉しさがメルセデスAMGのスポーツカーには備わっている。

■関連情報
https://www.mercedes-benz.co.jp/passengercars/models/coupe/amg-gt-2-door/overview.html

文／高橋アキラ　撮影／望月浩彦