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2026.09.18

マセラティ「GT2ストラダーレ」の研ぎ澄まされた色気

滑らかなドア面に穿たれたオープナーに手をかける。カチッという電磁ラッチの解除音とともに跳ね上がったドアは、思った以上にこちら側へせり出してきた。反射的に一歩下がる。同じイタリアン・エキゾチックでも、シザースドアのように真上へ持ち上がるのとは少し違う。このモデナ謹製のスーパースポーツは、まさに羽を広げるようにドアを開いた。

マセラティ「GT2ストラダーレ」。今回の相棒は、低くワイドに構えた好戦的なスタイルからして、これまでのマセラティのロードカーとは明らかに雰囲気が異なる。その出自が2020年に登場した「MC20」にあるのはご存じのとおり。現在は進化版である「MCプーラへ」とバトンを渡したが、「MC20」は新開発のカーボンモノコックに、自社開発の3LV6ツインターボ「ネットゥーノ」をミッドシップした、新世代マセラティの象徴だった。そして、その「MC20」をベースにGT2カテゴリーを戦うレーシングカーとして生まれたのが「GT2」。さらにそこで得た知見を再び公道へ持ち帰ったのが、この「GT2ストラダーレ」というわけである。

レーシングカーの緊張感と、マセラティの艶

このマシーン、見た目からして、かなり戦闘的だ。ボディ各所にはカーボン製の空力パーツが配され、フロントには大型スプリッター、ボンネットやフェンダー上にはエアアウトレットが設けられている。なかでも目を奪うのがスワンネック型ステーで支えられた大型リアウィング。どれも高速域で車体を安定させるための機能パーツである。「MC20」にあったフロントのラゲージスペースがなくなったのも、この空力性能と引き換えなら致し方ない。

大きく羽を広げたドアの向こうも、マセラティが得意とするグラントゥーリズモ的な耽美の世界とは趣が違う。まず目に入るのは、鮮やかなブルーのアルカンターラを纏ったカーボン製バケットシート。上下をフラットにした専用ステアリング、蛍光イエローで縁取られたカーボンパネルと操作スイッチ。ダッシュ上面のアルカンターラはフロントウィンドウへの映り込みを抑えるためのものだし、後方視界を補うデジタルルームミラーも、このクルマでは必要性の高い装備だ。

機能を優先した仕立てなのに、室内が殺伐として見えないのが面白い。ブルー、イエロー、カーボンという色と素材の組み合わせには、コンペティション由来の緊張感がある一方で、どこか艶っぽさも残っている。このあたりはやはり、マセラティである。

低いシートに身体を沈め、スタートボタンを押す。背後で目を覚ます3LV6ツインターボは基本こそ「MC20」と同様だが、「GT2ストラダーレ」用に厳選されたユニットで、最高出力は640PSまで高められている。始動時の音量は大きめだが、アイドリングに落ち着けば意外なほど大人しい。しかも残暑厳しい日でもエアコンはあっという間にキャビンを冷やし、しばらくすると肌寒いくらいになった。これだけレーシングカー然とした格好をしているだけに、こんなところで妙に感心させられる。

見た目ほど気難しくない

走り始めて、もうひとつ拍子抜けした。思っていたよりも乗り心地が悪くないのである。もちろん足回りは締まっているし、路面の細かな情報もかなり濃密に伝わってくる。ただ、硬いものをそのまま身体へぶつけてくる感じではない。入力を一度しっかりと受け止めて、きちんと収束させる余裕がある。「GT2ストラダーレ」の根幹にあるカーボンモノコックは、レーシングカー・コンストラクターとして名高いダラーラとの共同開発によるもの。軽量かつ高剛性の骨格に、「GT2」で得たサスペンションや空力の知見が重ねられている。足をただ硬くしただけのクルマとは、やはり感触が違う。

ドライブモードはWET/GT/SPORT/CORSAの4種類。今回は市街地、高速道路、ワインディングとひと通り走ったが、街中ではGT、高速道路やワインディングではSPORTが自分にはしっくりきた。GTのまま高速道路を走っても、もちろん何の問題もない。ただ、路面によっては車体がわずかに上下へ煽られるように感じる場面があった。そこでSPORTに切り替えると、車体の動きがひと締まりして、ステアリングの手応えも増す。この状態のほうが高速域では落ち着きがあり、むしろこちらの気持ちまで楽になった。

「GT2ストラダーレ」のキャラクターがいちばんよく見えたのは、やはりワインディングだった。ミッドシップらしく鼻先の入りは鋭い。ブレーキングで前荷重を作り、ステアリングを切り込むと、フロントはスッと向きを変える。一方でリアの振る舞いはこちらが身構えるほど神経質でもない。アクセルを踏み始めるタイミングも読みやすい。

この種のクルマは、速さ以上に「こちらがどこまで踏み込んでいいのか」がわかるかどうかが重要だと思う。その点、「GT2ストラダーレ」はかなりフレンドリーだ。ドライバーの操作に対する反応が明快で、クルマが今どういう状態にあるのかがつかみやすい。だから、もう少し先まで試してみようという気にもなる。

そこへ、ネットゥーノV6が加わる。かつての自然吸気V8のように、音でこちらを酔わせる官能とは少し方向性が違うこのユニットは、街中では低回転から従順に扱え、高速道路でも余裕十分。それがワインディングに入って回転を上げると、また違った表情を見せる。640psという数字だけを見ればかなり身構えるが、実際に印象に残ったのは、パワーそのものよりも、その扱いやすさだった。

途切れないレーシングの血統

2004年に登場した「MC12」もまた、マセラティが国際GTレースへ復帰するために生み出されたクルマであり、その開発にはダラーラの知見が生かされていた。「MC12」と「MC20/GT2ストラダーレ」では時代も成り立ちも違う。それでも、ともにロードカーとレーシングフィールドをつないでいるところには、やはり共通するものがある。

「GT2ストラダーレ」を目の前にすると、確かに最初は多少たじろぐ。大きなリアウィングにカーボンの空力デバイス、低く構えたバケットシート。どう見ても「普通のマセラティ」ではない。ところが、しばらく走らせていると、その印象は少しずつ変わっていった。サーキット由来のクルマだから扱いにくい、という単純な話ではない。むしろ車体の動きが明快だから、こちらも合わせやすい。そんな振る舞いも含めて、このクルマは紛れもなく新しい世代のマセラティなのである。

その一方で、ステアリングを握っていると、ずっと昔からこのメーカーの根底にある、速さを求め、競うことへの情熱に触れているような気もしてくる。それはファン・マヌエル・ファンジオが250Fを駆り、F1世界選手権を制した時代であったり、あるいは「MC12」がGTレースで見せた圧倒的なパフォーマンスだったりするのかもしれない。背負っているものは驚くほど深く、濃く、マセラティに脈々と受け継がれてきたレーシングの血筋を、これほど濃密に味わわせてくれるロードカーはそう多くない。そのステアリングを握り、アクセルを踏み込んで感じるのはやはり、情熱的なドライビングファン。その意味でも、「GT2ストラダーレ」は現代のマセラティにおける正統な継承者なのである。

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■関連情報
https://www.maserati.com/jp/ja/models/gt2-stradale

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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