それは徳さんと試乗会場に向かうときだった。
「キミは自分のファッションで大切にしていることは何かね?」と聞かれた。いつものように問いかけから始まる会話は、言わばルーティンのようなモノ。だが、チノパンにポロシャツが定番の自分にしてみれば、いかようにも回答しづらい質問であった。
「えぇと、無頓着なモノで……」と、いつものように笑って済ませていると、徳さんは「無頓着でけっこう、ただしセンスは必要だ。人はそこを見るんだよ」と。
さすがは徳さん、ごもっともだ、と感心し、そして反省しつつ「徳さんが大切にしていることは?」と切り返した。すると「働く男としてかっこいいことだね」と即答。「僕は収入のことを気にしながら働かなくてはいけない人間だ。だから働く男のファッションとしてカッコいいことを大切にする」と続け、さらに「高級と言われるファッションの中には、収入のことなど考えなくていい人のためのモノも多い。だが、それは労働者の私にはふさわしくない」と重ねてきた。
おぼろげな記憶をたどりながら思い出したやり取りの内容は大体そんなところだった。その中で「働く男としてカッコいいこと」という言葉は、いまもしっかりと心に残っている。この徳さんの言葉に従いながら、アルピナ社が創り上げるモデルは、いかなる存在だろうか? をXB7を走らせながら考えていたのだ。
多分、BMWは完全なる働く男のためにある「ドライビングカー」の筆頭だろう。そのBMWをベースに誕生してくるBMWアルピナ車も当然ながら「働く男をカッコ良く見せる存在」だ。その上で「アルピナならではの価値」を考えると、なにを置いても「エレガンス」と言う表現がすぐに見つかった。
XB7に採用された最先端のサスペンション・テクノロジーによって生み出されるハイパフォーマンスとラグジュアリーを両立させ走り。アルピナのブランド・アイデンティティであるクリスタル仕様( Crafted Clarity)を取り入れた操作系や、ディテールまで徹底的にこだわり、手作業で丁寧に仕上げた最高品質のインテリアに包まれながらの走りに、力任せの走りはやはり似合わない。鍛え上げたたくましさや力をスーツに包み込んで潜め、いざというときにだけ、本質を見せる。これこそ働く男がカッコ良く見える瞬間であり、そこには一流だけが知るエレガンスが潜めてあるのだ。BMWアルピナは、そんなエレガントさがかもしれない。
これはBMWに存在しているスポーツモデル「M」の立ち位置とは明確に違う。Mはその強さをストレートに表現していい純粋なモデルである。一見して分かる赤とブルーのストライプも問題なく許される。
一方アルピナは、XB7に限らず、すべてのモデルは、エレガンスというスーツをまとった「秘めた強さ」に魅力を感じる人のためのブランドだと思う。そう考えると25年末にBMWの中の一ブランドとなって以降も、十分に存在価値を発揮する。いや、これまでに醸成してきたアルピナのエレガンスは決してなくしてはいけない、と長年のファンとしても思うのだ。
(価格)
28,700,000 円~(XB7/税込み)
(スペック)
全長×全幅×全高=5,180×2,000×1,835mm
ホイールベース:3,105mm
車重:2,660kg
最小回転半径:未公表
最低地上高:未公表
トランスミッション:8速AT
駆動方式:4WD
エンジン:V型8直列ツインターボエンジン 4,394cc
最高出力:457kW(621PS)/5,500~6,500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/1,800~5,400rpm
燃費:7.3km/L(WLTPモード・ヨーロッパ参考値)
問い合わせ先BMW ALPINA: https://alpina.co.jp/contact/
TEXT:佐藤篤司
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。