ロールス・ロイスは、オーナーの妻へのオマージュとして製作された「Phantom Hummingbird(ファントム・ハミングバード)」を発表した。同モデルは、ファントム・エクステンデッドをベースとするプライベート・コミッションであり、ロールス・ロイス・プライベート・オフィス・ドバイを通じて具現化されたビスポーク作品。喜びやしなやかな強さ、そしてあらゆる瞬間の中に美を見出す力を象徴するハチドリにちなみ名付けられたこの1台は、自然界が織りなす精緻で繊細な美を讃えるために構想された。
このプライベート・コミッションには、ロールス・ロイス史上初めての試みとなるアバロンシェルを用いたマルケトリーが採用されている。アバロンシェルは、その自然な虹彩色の輝きで知られる素材であり、貝殻の内側にある真珠層が光を受けて特徴的な青緑色の光沢を放つ。この素材をマザー・オブ・パールと組み合わせることで、特に鮮やかな色彩で知られるハチドリのきらめく羽を表現している。ハチドリの鮮やかな色彩は、羽毛内部に存在する微細な構造が小さなプリズムのように光を分散・反射することで生まれ、見る角度によってさまざまな色の輝きを見せる。エクステリアのコーチラインには手描きのハチドリがあしらわれ、自然界の優美さに着想を得たこの特別なビスポーク作品を象徴的に完成させている。ロールス・ロイス・モーター・カーズ ヘッド・オブ・ビスポークのフィル・ファーブル・ドゥ・ラ・グランジュ氏は、次のように語っている。
「自然界は常に、ロールス・ロイスのビスポークに尽きることのないインスピレーションを与えてきました。そこに息づく美しい造形や豊かな色彩は、デザイナーや職人たちの想像力をかき立て、新たな表現へと導いています。お客様は絶えず、そうした自然からのインスピレーションを、これまでにない意外性に満ちた方法で探求する機会を私たちに与えてくださいます。この特別なプライベート・コミッションは、まさにその好例です。アバロンシェルをロールス・ロイスのマルケトリーに初めて取り入れる試みは、デザイナーや職人たちに新たな芸術面・技術面での挑戦をもたらしました。その成果が、見る者を魅了するハチドリの姿を優雅に表現した1台です」
この繊細なマルケトリーは、2つの異なるデザインで表現されている。左右のピクニック・テーブルには、飛翔するハチドリが描かれ、それぞれ53片のアバロンシェルとマザー・オブ・パールのパーツで構成され、そのうち翼部分だけで18片のパーツが使用されている。また、2つのリアシートの間に位置するリア・ウォーターフォール・パネルには、84片から成る植物モチーフが優雅に広がる。このデザインの開発には、構想から完成まで9か月以上を要した。アバロンシェルは非常に薄く繊細で、割れやすい特性を持つため、この素材を扱うことは職人たちにとって大きな挑戦となった。ビスポーク・コレクティブのデザイナー、エンジニア、そして職人たちは開発期間の大半を費やして、各パーツの切り出し、仕上げ、そしてベニヤへのはめ込み方法を追求した。
この繊細な素材を扱うための適切な技法を確立するまでには、6回に及ぶ試作が必要だった。最終的に採用された工程では、まずマザー・オブ・パールとアバロンシェルの厚みを慎重に薄く加工し、それぞれの断片をベニヤの中に確実かつ繊細に埋め込めるようにしている。その後ラッカー仕上げを施すことで、素材本来の美しさを最大限に引き出すとともに、世代を超えて受け継がれるロールス・ロイスに求められる耐久性との両立を実現した。
アバロンシェルおよびマザー・オブ・パールの各パーツは、レーザー加工時に生じる微細な焼損分を考慮し、完成寸法より0.06mm大きくレーザーカットされた後、職人の手作業によって正確な形状へと仕上げられる。各パーツの縁は、隣接するパーツとの継ぎ目が見えなくなるまで、丹念に仕上げられる。これは、とりわけハチドリの翼のように極めて精緻な組み付けが求められる部分において、欠かすことのできない工程。こうした綿密な仕上がりは、熟練した職人の手によってのみ実現できる。こうしてすべてのパーツを切り出して組み付けた後、ピクニック・テーブルとリア・ウォーターフォール・パネルの仕上げにはさらに8時間を要した。3つのパネル全体の制作時間は合計45時間に及び、卓越したクラフツマンシップによってこの唯一無二のマルケトリーが完成した。
インテリア・スイートのカラーパレットは、先駆的なアバロンシェル・マルケトリーを美しく引き立てるよう、細部まで丹念に選び抜かれている。3つのマルケトリー・パネルすべてのベースには「アッシュ・バール」を採用している。また、ピクニック・テーブルのモチーフには、デザインを構成する重要な要素として「シルバー・バーチ」が用いられている。シルバー・バーチは、木目の表情がデザイン全体と美しく調和するよう、厳選された一本の原木を入念に確認したうえで、すべてのパーツを同じ原木から切り出している。
シートには「クリーム・ライト」のレザーを採用し、「モカシン」および「タン」のディテールを組み合わせている。足元には「シーシェル」カラーのカーペットを配し、スターライト・ヘッドライナーを組み合わせ、優雅かつ洗練された室内空間を創出する。
インテリアのテーマと呼応するように、ボディ下部には「ワイルドベリー」、上部には「ホワイト・サンズ」を配したツートーン仕上げを採用した。2色の境界を彩るホワイト・サンズのコーチライン上には、車体に沿って飛翔するハチドリが描かれ、この1台を貫く自然のテーマを印象的に表現している。
関連情報:https://www.rolls-roycemotorcars.com/ja_JP/bespoke/discover.html
構成/土屋嘉久