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2026.06.21

ポルシェ「911カレラGTSカブリオレ」で味わうオープントップスポーツの歓び

ルーフのスイッチを押すと、わずか12秒ほどでソフトトップが後方へと収まった。頭上を覆っていたものが消えただけなのに、すっかり景色まで変わったように感じる。視界が広がり、風が流れ込む。周囲の環境がぐっと近く感じられる。

スポーツカーを語るとき、私たちはつい加速性能やコーナリング性能、あるいは最高速度といった数字に目を向けがちだ。もちろんそれらは重要である。しかし、クルマとの時間をどれだけ豊かに過ごせるかという視点もまた、スポーツカーを評価するうえで欠かせない要素ではないだろうか。今回試乗したポルシェ「911カレラGTSカブリオレ」は、そんなことを改めて考えさせてくれるモデルだった。

これは「992」後期型で導入された新世代のGTSであり、ポルシェが〝t-Hybrid〟と呼ぶ高性能ハイブリッドシステムを搭載するモデルである。そして駆動方式は「911」の伝統ともいえるRR(Rear Engine Rear Drive)。後輪のみを駆動する「カレラGTSカブリオレ」は「911」というスポーツカーの個性をよりストレートに感じ取ることができる一台でもある。

開放感だけでは語れないカブリオレの魅力

「911」にカブリオレが加わったのは1983年。正確には82年に発表され、83年モデルとして登場した「911SCカブリオレ」がその始まりだ。それ以来40年以上にわたり、カブリオレは911の重要なラインアップとして存在し続けている。

オープンモデルというと、クーペから派生した趣味性の高い仕様と受け取られることがほとんどだ。しかし「911」の場合は少々事情が異なるように思う。カブリオレは単なる派生モデルではなく、「911」というスポーツカーを異なる角度から味わうための選択肢として育てられてきたからだ。

その点で興味深いのがタルガとの違いである。タルガは独特のスタイルと安心感を備えながら開放感も享受できる「911」だが、カブリオレはさらに一歩踏み込んだ存在だ。屋根を開けた瞬間、クルマと周囲の環境との距離が一気に縮まる。

ルーフを閉じているときの静粛性は高く、高速巡航も快適そのもの。しかしルーフを開けると、その印象は大きく変わる。遠くの山並みが視界に飛び込み、街路樹の香りが風とともに流れ込んでくる。トンネルでは水平対向6気筒のサウンドが壁面に反響し、海沿いでは潮の気配を感じる。クーペやタルガでも景色は見えるが、カブリオレではその景色の中へ入り込んでいく感覚がある。

電動化によって磨かれた911

この「カレラGTSカブリオレ」のトピックのひとつはやはり、新たなt-Hybridシステムの採用だろう。搭載される3.6L水平対向6気筒ユニットには電動ターボチャージャーが組み合わされる。さらにエンジンと8速PDKの間にはモーターを内蔵。システム全体では541PS、610Nmを発生する。数字だけを見ると圧倒されるが、実際に走らせて印象的なのは扱いやすさだ。

そのパワー感は発進直後から力強く、それでいて唐突さがない。アクセルを踏み込めば即座に反応するが、神経質さは皆無である。電動ターボの効果も大きく、過給の立ち上がりやターボラグを意識する場面はほとんどない。ドライバーが求めた分だけ速度が自然に積み上がっていく。ハイブリッド化によって「911」らしさが薄れたかと問われれば、その答えは明確に否である。むしろレスポンスの良さや扱いやすさという点では、従来以上に磨き上げられた印象すら受ける。ポルシェは環境対応のためだけではなく、スポーツカーとしての完成度を高める手段として電動化を選んだ。その狙いは確実に成果として表れている。

そして今回の試乗で改めて印象に残ったのは、RRならではの身のこなしだった。前回試乗した「911タルガ4 GTS」は4WDらしい高い安定感が魅力だった。路面状況を問わず力強く加速し、どっしりとした安心感があった。

一方、この後輪駆動の「カレラGTSカブリオレ」は少し性格が異なる。ステアリングを切り始めた瞬間からクルマの動きが軽やかだ。ノーズは自然に向きを変え、リアタイヤは路面をしっかりと蹴りながら車体を前へ押し出していく。ワインディングロードではクルマ全体がひと回りコンパクトになったかのような感覚さえ覚える。

もちろん現代の「911」だけに挙動は極めて洗練されている。しかし、その奥にはリアエンジン・リアドライブならではの個性が確かに息づいている。もちろん絶対的な安定感では4WDに魅力がある。だがドライバーがクルマとの対話を楽しむという観点では、このRRならではの軽快さと力強さに惹かれる人も少なくないだろう。

PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)による乗り心地も見事だった。街中ではしなやかで、高速道路では落ち着きがあり、ワインディングでは高いボディコントロール性を見せる。オープンモデルだからといって快適性や剛性感に不満を感じる場面はほとんどない。

また、現代の「911カブリオレ」は風の巻き込みもよく抑えられている。エアコンやシートヒーター、シートベンチレーションなどの快適装備も充実しており、オープン走行は決して特別なイベントではない。季節や時間帯に合わせて気軽にルーフを開けられる日常性も、このクルマの大きな魅力である。加えていえば、かつての「901」や「930」時代のような垂直に切り立ったシンプルなインストルメントパネルの形状が、陽光の反射の影響をあまり受けず、屋根を開けていても視認性に優れるのがいい。

走る時間そのものを楽しむ「911」

近年のクルマは静粛性や快適性を高める一方で、外界との距離を少しずつ遠ざけてきた。しかし「911カレラGTSカブリオレ」は違う。風を感じながら走り、景色の変化を楽しみ、土地ごとの匂いや空気を取り込んでいく。目的地へ向かう移動時間そのものが、豊かな体験へと変わっていくのである。

「911」にはクーペがあり、タルガがあり、そしてカブリオレがある。どれを選ぶかは、それぞれの価値観によって変わるだろう。もし、速さだけを求めるならさらに別の選択肢もあるかもしれない。しかし、走ることそのものを楽しみたいのであれば、このカブリオレは実に魅力的だ。

水平対向6気筒のサウンドを聞きながら走る海沿いの道。山間部で感じる木々の香り。夕暮れとともに変化していく空の色。そんな何気ない瞬間が、このクルマでは少し特別なものになる。季節を感じながら走ること。風景を味わいながら走ること。そしてポルシェというスポーツカーを心ゆくまで楽しむこと。そのための〝最良の911〟が「カレラGTSカブリオレ」だと思う。

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■関連情報
https://www.porsche.com/japan/jp/models/911/carrera-cabriolet-models/911-carrera-gts-cabriolet/

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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