いまのSUVブームの流れを語るとき欠かせないブランド、それがランドローバーだ。この英国の四駆の老舗は今、さらに自身のヘリテージと価値を強固なものにすべく、各モデルのキャラクターを明確化する〝ハウス・オブ・ブランズ〟戦略を打ち出している。すなわち、タフネスを核とする「ディフェンダー」、ラグジュアリー性を極めた「レンジローバー」、日常と冒険を繋ぐ多用途な「ディスカバリー」という3本柱を、それぞれ独立したブランドとして展開しているのである。今回は、その流れを象徴するモデルを試す機会を得た。なかでも印象的だったのがディフェンダー「OCTA(オクタ)」である。
ランドローバーの核となるのは、言うまでもなく卓越したオフロード性能であり、その体現者がディフェンダーである。前身モデルであるランドローバー「シリーズI」の誕生は1948年。それまでサルーン等を製造していた英国の中堅自動車メーカーのローバー社が、「大地を駆けるローバー=ランドローバー」として送り出したのが始まりだった。四角張ったボディにパートタイム4WDを組み合わせたそれは、本格的なクロスカントリー四駆として、多彩なボディバリエーションとともに長きにわたり愛された。「シリーズI」は「II」「III」へと発展し、1990年には「ディフェンダー」と改称され、2000年代まで連綿と続いていく。
ハードな使用にも根をあげない、無骨な造りが特徴だった「ディフェンダー」が現行型に生まれ変わったのは2019年。基本骨格は従来のラダーフレームからモノコック構造「D7x」へと大刷新を遂げ、ショート(90)/ミドル(110)/ロング(130)の3種類のホイールベースを用意し、伝統の4WDシステムも電子制御で武装した最新世代へと進化。結果、それまで一部の愛好者に向けられたクロスカントリー四駆は、自身の殻を破り、オフロード性能と高級感を兼ね備えたSUVとして、激戦区の市場で確固たる人気を得るに至った。
そして今回、現行型の「ディフェンダー」の最強仕様として市場に投入されたのが「OCTA(オクタ)」である。モデル名は正八面体の結晶構造を持つダイヤモンドに由来し、その堅牢性と希少性を象徴する称号として与えられた。「ディフェンダー」のキャラクターに重ねるなら、磨き上げられた原石というのがふさわしいだろうか。
注目は新搭載のパワーユニットだ。トップモデルに用意されるV8ユニットは従来の5Lスーパーチャージャーではなく、BMW由来の4.4Lツインターボを採用。最高出力は635PS、最大トルクは通常時で750Nmを発生し、モード切り替えによって800Nmまで引き上げられる。これに8速ATと常時4WDを組み合わせ、路面状況に応じて出力やトランスファー等を最適制御する「テレインレスポンス2」も搭載。そしてさらに、オフロードを速く駆け抜けるための専用セッティングとして「OCTAモード」が用意されているのが特徴だ。
強大なパワーを受け止めるシャシーも当然強化されている。具体的にはトレッド拡大とサスペンションの刷新で、油圧回路で各ダンパーを結んで最適制御する「6Dダイナミクスサスペンション」を採用。渡河性能も従来比で100mm向上し、最大渡河水深は1000mmを実現した。すなわち、動力性能の強化とともに足まわりの自由度と追従性を飛躍的に高め、オンロードとオフロード双方での走りのレベルを一段と引き上げているのである。
今回試乗したのは軽井沢近郊の一般道と特設オフロードコースで、まずはオンロードで「OCTA」のパフォーマンスを確かめた。試乗車がまとう鈍色のボディカラーは静かな迫力を放ち、前後バンパー下のプロテクションや大型化されたラジエター、ワイドトレッド対応のホイールアーチなどのディテールが、トップモデルならではの力強さを際立たせていた。
走り出すと、その圧倒的なパワーとコントロール性の高さに驚かされる。もともと「ディフェンダー」は剛性の高いボディと足回りを備えており、十分に操りやすい性能を有しているが「OCTA」ではさらにメリハリがつけられて、ボディコントロールの精度が一段と高まっているように感じた。2.6トンを超える巨体をハイパワーで走らせているにもかかわらず、一体感は揺るぎなく、軽快さすら感じられるほどだ。6Dサスペンションが常に路面を捉え、不要な揺れを抑えることが効いているようで、その挙動は驚くほど安定していた。
特設ダート路では、ステアリングのセンターパッド下に配置された「OCTA」スイッチをオンにする。半透明のスイッチが赤く点灯し、専用モードが起動したことを知らせる。パフォーマンスを最大化するこのモードでは、エンジン出力やトラクションコントロール、ABS制御が最適化され、サスペンションはより追従性を高めた設定に切り替わる。その効果は明確で、インストラクターによる先導車の速いペースにも難なく着いていける。「OCTA」の巨体は滑るようにダートを駆け抜け、ステアリングやスロットル、ブレーキ操作に対する反応はリニアでありながら過敏すぎないのがいい。クルマが常にドライバーのコントロール下にある安心感があった。そのうえで凹凸を鮮やかにいなし、乗員には不要なショックを伝えない。まるで魔法の絨毯のような乗り心地だった。
当初、筆者はこのクルマの存在に疑念を抱いていた。SUVとしてすでに高いレベルの完成度にある「ディフェンダー」に、さらにハイパフォーマンス仕様が必要なのかと。スポーツカーならまだしも、その力を存分に発揮できる舞台はかなり限られるのが明白だからだ。しかし実際に走らせてみると、その圧倒的な走破性と存在感はブランドの象徴そのものと強く感じた。オンロードでは軽快に、オフロードでは悪路をものともしない洗練されたフットワークを披露。その最強のパフォーマンスを与えられたことで「ディフェンダー」の核は際立ち、シリーズ全体の輪郭も一層鮮明になった。華美に主張することなく、しかし力強く輝く宝石が、「ディフェンダーOCTA」である。80年近い歴史の中で連綿と培われてきたランドローバーの魂を宿した一台であることは間違いない。
■関連情報
https://www.landrover.co.jp/defender/defender-octa/index.html
取材・文/桐畑恒治