ロールス・ロイスは、V12エンジンを搭載するクーペ「レイス」の生産終了を記念し、限定モデル「ブラック・バッジ・レイス・ブラック・アロー」を発表した。このモデルは、世界でわずか12台限定で、ロールス・ロイスが電動化の時代に乗り出す最後のV12クーペとなる。
2013年に発表されたレイスは、グッドウッドで設計・製造されたモデルの中でも、特に重要で影響力のあったモデル。レイスは、先代のファントムやゴーストよりもパフォーマンス重視のモデルで、ロールス・ロイスに対する認識を根本的に変え、新たな若い顧客層をブランドに取り込むこととなった。そのカルチャー分野への幅広い影響力は、音楽、映画、アート、ファッション業界でレイスが幾度となく取り上げられていることによって証明されている。
レイスのドラマチックな「ファストバック」シルエットは、この車のダイナミックさを表すもので、これは2016年のブラック・バッジ・レイスの導入によっていっそう強められた。そのブラック・バッジ・レイスは、V12エンジン搭載のハイパフォーマンスを発揮する革新的なモデルであった。
レイスの終焉にあたり最後のモデルを構想することになったグッドウッドのデザイナーとエンジニアは、ブラック・バッジ・レイス・ブラック・アロー・コレクションのおけるインスピレーションを、ロールス・ロイスの波瀾万丈の長い歴史におけるV12エンジンの存在から得ている。
1938年、ブラック・バッジの精神を体現していたジョージ・エイストン大尉は、ロールス・ロイスV12「R」シリーズの航空エンジンを2基搭載した7トン、8輪の巨大なマシン「サンダーボルト」により、357.497mph(575.335km/h)という最高速度の世界記録を樹立した。翌年の第二次世界大戦の勃発により、エイストンの挑戦は終わりを告げたが、その後の記録は、すべて異なるタイプと構成のエンジンによって樹立され、「サンダーボルト」は史上最速のV12エンジン搭載車として永遠に語り継がれることになる。
この「サンダーボルト」の記録挑戦は、ユタ州の伝説的なボンネビル・ソルト・フラッツで行われた。白い地面が眩しく輝き、砂漠の太陽が照りつける環境下では、この車のポリッシュ仕上げのアルミニウムボディが反射し、タイム計測を正確に行なうことが不可能であった。
そこで、シンプルながら独創的な解決策として、エイストンは車の側面に大きな黒い矢印(ブラック・アロー)を描き、その中央に黄色の円を描くことで、高速走行中でもはっきりと確認できるようにした。これが今日のブラック・バッジ・レイス・ブラック・アロー・コレクションという名前の由来となった。
ブラック・バッジ・レイス・ブラック・アロー専用のビスポーク仕上げは、セレブレーション・シルバーとブラック・ダイヤモンドの2つのトーンをフル・カラーでグラデーションしている。この2つのカラーを引き立たせるために、ブラック・ダイヤモンドの層の上に、ガラスを注入した「クリスタル」塗装を施しており、フロントからリアまで印象的なモーション・ブラー効果を生み出している。
このビスポーク独自の技法により、外殻に覆われたようなボンネビル・ソルト・フラッツの地面に着想を得た、繊細な触感が備わり、さらにハイグロス・ラッカーが塗布される。そして、ガラスのような仕上がりを実現するために、12時間以上かけて研磨される。
この並外れた仕上げを実現するために、ロールス・ロイスのエンジニア、職人、デザイナーからなるビスポーク・コレクティブは、1年半に及ぶ表面テストと開発を行い、ロールス・ロイスの基準に相応しいクオリティを実現した。材料、塗布技法、表面仕上げの開発に多くの時間をかけた結果、グラディエント・ペイントはロールス・ロイスがこれまでにつくり出した塗料の中でも最も技術的に精巧なペイントとなった。
このグラディエント・ペイントとコントラストをなすのは、バンパー・インサートとビスポーク・ホイール・ピンストライプのブライト・イエローで、これは「サンダーボルト」の黒い矢印の中の黄色い円を連想させる。
また、ロールス・ロイス初の試みとして、ブラック・アローのラジエーターグリルの背後、エンジンの前にあるVストラットもブライト・イエローで仕上げられ、これがブラック・バッジのダーク・クローム・グリル・サラウンドの背後にあるV12エンジンを際立たせている。
ブライト・イエローは、この車にあしらわれたカーボンファイバー製スピリット・オブ・エクスタシーのベースにも採用されており、ここには同色のリングディテールが組み込まれ、コレクション名が刻印されている。
ロールス・ロイス最後のV12クーペを記念し、デザイナー、職人、エンジニアからなるビスポーク・コレクティブが一丸となって、ブラック・バッジ・レイス・ブラック・アローのフェイシアのためにユニークな芸術作品を製作した。
この触感に優れた複雑なデザインは、レイスの現代的なV12エンジンを巧みに表現。ブラック・バッジ・ファミリーのノワール・アンビエンスにマッチした、きわめて複雑なデザインは、2か月にわたる開発の成果となる。一枚のブラック・コーティング・アルミニウム・シートに彫られ、下の輝く金属が見えるようになっており、「サンダーボルト」のポリッシュ仕上げアルミニウム・ボディとの大胆な視覚的つながりが生まれています。
ブラック・アローのコーチ・ドアに張られたオープン・ポア仕上げのブラック・ウッドは、ボンネビル・ソルト・フラッツのひび割れた不規則な地面を模した、レーザー加工による320ピース以上の多方向の寄木細工からなる複雑なデザインでできている。この特別な装備は、左右のリア・シートを仕切るリア・「ウォーターフォール」・パネルにも及んでいる。
「サンダーボルト」は、発売以来、何度もデザインが見直されてきた。その記録を樹立したモデルの形は、ブラック・バッジ・レイス・ブラック・アローでも垣間見ることができ、フロント・コンソールのガラスの背後に収められた照明付きのポリッシュ仕上げアルミニウム製スピードフォームによって永遠の存在となっている。
ブラック・アローのインテリアでは、このコレクションのために特別に開発された新素材「クラブ・レザー」が採用されている。アームレスト、シート・ガセット、トランスミッション・トンネル、ドア・ディテール、ドア・パニア、ロア・ダッシュボード・パネルは、いずれも「クラブ・レザー」で仕上げられ、そのひときわ強い光沢と深みを増したブラックのカラーは、マットなロールス・ロイス・ナチュラル・グレイン・ブラック・レザーと繊細なコントラストを形成している。
レザーのナチュラルな質感を強調することで、インテリアの「生命線」がいっそう可視化され、「ジョージ・エイストンが何よりも好むクラブ・アームチェア風のドライビング・シート」と記した当時の記者の表現に近いものとなっている。
シートレザーには、ブラック・バッジ・シリーズでの大胆な調子の色使いにならい、ブライト・イエローが採用されている。シート上部では、ヘッドレスト外側に矢印のモチーフの刺繍が施され、触感に富んだディテールとなっている。これは、フル・スピードで走る車をタイム計測できるよう、「サンダーボルト」のアルミニウムボディに描かれた矢印のマークを表現したものである。
ステアリングホイールを直進位置にすると、12時位置にあるダークカラーのマークが、シート同様のパターンと一致する。これは、エイストンのチームが時速350マイルを超えるスピードの中でも方向感覚を保てるよう、唯一の目印とするためにソルト・フラッツの白い地面に描いた黒いラインを表したもの。この象徴的なマークの意味を込め、トラック・ガイドは、ステアリングホイールから運転席、リアシートへと意図的に非対称なラインを描いている。
「サンダーボルト」が新記録を樹立したのと同様に、ブラック・アローも独自の記録を樹立している。夜空のようなドラマチックな雰囲気を車内空間で演出するために、ブラック・バッジ・レイス・ブラック・アローのビスポーク・スターライト・ヘッドライナーには、光ファイバー製の「星」が2,117個も組み込まれている。
これは、これまでのロールス・ロイスの車には見られない、過去最高の数となる。「星」はすべて手作業で配置され、さえぎるもののない広大な土地から眺めた天の川と、エイストンの最後の不滅の記録が樹立された1938年9月16日にユタ州の上空に現れた星座が正確に描かれている。
1930年代のアナログ計器にインスピレーションを得たフェイシア・クロックのベゼルは、「サンダーボルト」のインテリアの未加工の技術的な美しさを意識しており、オリジナルの車の側面の矢印を模したブラックの針の先端によって引き立てられている。周囲には、伝説の「ボンネビル」の文字と、「サンダーボルト」のV12エンジン車としての永遠不滅の記録速度である「357.497mph」の文字が刻まれている。さらに、車のビスポーク・トレッド・プレートにも「矢印」のディテールがあしらわれている。
エンジン・カバーには、ロールス・ロイスのクーペに搭載される最後のV12エンジンであることを示す、ビスポーク専用プレートが取り付けられている。研磨したシングルピースの金属から削り出されたこのプレートには、ブライト・イエローの「V12」のモノグラムと、ブラックの「Final Coupé Collection」(最後のクーペ・コレクション)という文字が刻まれている。
なお、このブラック・バッジ・レイス・ブラック・アロー・コレクションの12台は、すべて世界中のオーナーに割り当てられている。