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2026.09.11

ベントレー「コンチネンタルGTスピード」に乗ると遠くへ行きたくなるのはなぜか

ベントレーと暮らすということ。それは単に高価なクルマを所有することとは、少し意味が違うのだと思う。1919年の創業から100年以上、ベントレーはモータースポーツとラグジュアリーという、ともすれば相反するふたつの世界を行き来しながら、その名を磨いてきた。なかでも外せないのがグランドツーリングという考え方だろう。速く、遠くへ。しかも乗る人に余計な我慢を強いない。その思想を現代的な形で具現化しているのが「コンチネンタルGT」である。

仕立てのいい、英国流の色気

薄暮の光を受けると、ボディの稜線がくっきりと浮かび上がる。今回の相棒、「コンチネンタルGTスピード」を眺めていると、端正なジャケットにクリースの利いたスラックスを合わせた英国紳士の姿が頭に浮かんだ。折り目正しく、隙がない。けれど、その仕立てのいい服の下には、相当に鍛えられた身体がある。そんな気配を、このクルマはまとっている。

このクルマにはベントレーのビスポーク部門、マリナーの手が入っている。サテン仕上げのボディカラーは、いわゆるマット塗装とは少し趣が異なり、光を完全に吸収するのではなく、見る角度によって微細な輝きを返す。そのためフェンダーの膨らみや、ボンネット、ボディサイドを走るキャラクターラインの陰影が鮮明になり、もともと「コンチネンタルGT」が備える力強さに、より繊細なエレガンスが加わって見える。

大きなドアを開けると、今度は内側の仕立てに目がいく。路面にで投影されるウェルカムランプの“フライングB”がきらめき、ステアリングやシフトまわりにもマリナーならではの丁寧な意匠が見える。ブルー系のパイピングやステッチがアクセントになっているが、決してカジュアルに傾きすぎない。むしろ落ち着いたボディカラーとの組み合わせによって、英国流の洒脱さが際立っている。

スイッチやダイヤルには細かなダイヤモンドカットが施され、指先に残る感触もいい。こういう部分は写真だけでは伝わらない。何度か操作するうちに、ああ、ここまでやるのかと思わされる。見せつける豪華さではなく、触れるたびに効いてくる贅沢だ。

キルティングを施したレザーシートは身体を柔らかく受け止めるが、沈み込みすぎない。走り出しても、外から入る音や振動もきれいに処理され、車内には独特の静けさが漂う。それでもクルマの動きはちゃんと伝わってくる。この加減が絶妙だ。

プラグインハイブリッドがもたらすラグジュアリー

そんなクラフトマンシップをまといながら、中身はかなり現代的である。スピードが搭載する“ウルトラ・パフォーマンス・ハイブリッド”は、4LV8ツインターボに電気モーターを組み合わせ、システム最高出力782PS、最大トルク1000Nmを発生する。

もっとも、だからといってスターターボタンを押した瞬間からその数字を意識させられるわけではない。基本的には電動駆動で静かに目を覚まし、V8は黙ったまま。主人が声を掛けるまで一歩後ろに控える執事、という比喩は出来すぎかもしれないが、実際そんな感じなのである。やや重めのアクセルを踏み込むと、約2.5トンのボディがするすると動き出す。電気モーターらしい滑らかさ以上に印象に残るのは、その大きさや重さを必要以上に意識させないことだった。踏んだ分だけ、きちんと前へ出る。巨体を御しているという気負いがいらない。

そこへV8が加わると、景色が変わる。右足に少し力を込めるだけで、4輪が路面を掴み、大きなボディを押し出していく。速い。けれど加速は荒々しくない。8速デュアルクラッチトランスミッションも変速を主張せず、気づけば次のギアに入っている。音や振動が抑えられているぶん速度感まで希薄で、メーターを見て思った以上にスピードが出ていることに気づく場面も少なくなかった。高速道路を流していると、このまま何時間でも走り続けられそうな感覚になる。目的地までの距離は変わらないのに、移動そのものが短く感じる。グランドツアラーという言葉は、こういう感覚のためにあるのかもしれない。

濃密な時間

その一方で、「コンチネンタルGTスピード」は長距離巡航だけのクルマでもない。ワインディングへ持ち込むと、このサイズから想像するよりずっと素直に向きを変える。4輪駆動や4輪操舵、eLSDなど、電子制御されたシャシーが働いているのは頭ではわかっていても、運転中に個々の装置を意識することはない。ステアリングを切れば、その通りに大きなノーズが入っていく。もちろん小さなスポーツカーのように身軽ではないが、それでも、この重量とサイズを思えば十分すぎるほど扱いやすく、狙ったラインへきちんと運べること自体が楽しい。重量級GTにありがちな「乗せられている感じ」が薄いのだ。

その感覚は街中でも同じだ。荒れた舗装や段差を通過するときには、エアサスペンションが入力の角を丸めながら、車体そのものの動きはきちんと抑える。快適だからといって曖昧ではなく、スポーティだからといって硬くもない。その絶妙な落としどころが、「コンチネンタルGT」というクルマの完成度を物語っている。

走りながら思ったのは、ベントレーのラグジュアリーは、素材や装飾の豪華さだけでは説明しきれないということだった。静かな室内も、手に触れる部分の仕立ても、踏めばすぐ応えるパワートレインも、すべては移動の時間をどう過ごすかにつながっている。ライトウェイトスポーツの「一体感」は、ドライバーと機械の距離を限界まで縮めることで生まれるが、ベントレーのそれは少し違う。外の世界を必要なだけ遠ざけながら、ドライバーとクルマの間にはちゃんと情報が残る。だから、この大きく重いGTを運転していても、時間は思いのほか濃密だ。自分好みの一台へ仕立て、それを自らの手で走らせ、好きな場所へ向かう。「コンチネンタルGT」と暮らすことの贅沢は、案外そんなところにあるのかもしれない。

速さだけなら、もっと刺激的なクルマはある。豪華さだけを競えば、別の答えもあるだろう。けれど、長い距離を速く、快適に、しかも自分で運転して楽しむ。その一点では、「コンチネンタルGT」は今もかなり特別だ。目的地へ到着するためだけではなく、ただ走るためにドアを開け、ステアリングを握りたくなる。そのこと自体が、「コンチネンタルGT」というグランドツアラーの価値なのだと思う。

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■関連情報
https://www.bentleymotors.com/jp/ja/models/continental-gt/continental-gt-speed.html

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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