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2026.08.16

最高のスペックを与えられたマセラティ「トロフェオ」シリーズは上質な男に似合うクルマ

トリエステ。イタリア王国による併合は第一次世界大戦後のことで、それ以前はオーストリアのハプスブルグ家が支配する港町であった。海に突き出た突堤、モロ・アウダーチェからその街並を眺めると、ほぼ正面に大きな建物に囲まれたイタリア統一広場がみえる。イタリアといえば“広場”だが、これほど大きな広場(その昔はまさにグランデ、大きな広場と呼ばれていた)で海に面する場所は、地中海に突き出たイタリアにあっても、こちらが唯一であるという。

トリエステがイタリアとなったころ、マセラティは三叉の槍=トライデントをロゴとして使いはじめている。今年でちょうど100年。実は彼らはこの地に浅からぬ因縁を持っている。1911年から71年まで開催された伝説のヒルクライムレース「トリエステ=オピチーナ」において、マセラティは三度の勝利を挙げているのだ。そんな場所でマセラティの最新モデル、グラントゥーリズモとグランカブリオ、そしてミッドサイズSUVのグレカーレを試すことになった。まずはフォーリセリエと呼ばれる特別注文であつらえられたマットグリーンのグランカブリオ・トロフェオをテストする。ソフトトップ全面に大きなトライデントが描かれており、半分グレーで残りがグリーンという凝った図案である。今回からホロの色や柄まで特注できるようになったのだ。

エクステリアデザインが、ブランド最新モデルであるMCプーラやGT2ストラダーレといったアイコニックなスーパーカーと同様のテイストにリファインされた。マスクはブランド共通のテイスト、シャークノーズデザインとなり、全体的に空力性能を引き上げた点が新型グラントゥーリズモとグランカブリオの見た目の変化ポイントだ。

パワートレイン系でいえば、V6ツインターボを積むトロフェオの最高出力が40ps引き上げられて590psとなった。スポーツエグゾーストシステムも採用されており、マセラティというブランドに顧客はラウドなサウンドを求めていると、彼らもようやく認識を改めたようだ。

エクステリア以上にインテリアデザインの進化も印象的だった。ステアリングホイールの形状が天地を押しつぶしたスクエアタイプとなり、スポーティなイメージを強めている。ダッシュボードセンターの時計を八角形のデジタル式とし、時刻以外にもさまざまな情報を映し出せるようになった。

PRNDのギアシフトセレクターボタンは立体的となって、より扱いやすくなっている。もっとも、切り返しの必要な駐車時なでは、ハンドルからいちいち手を離さずともDとRを切り替えることができるよう、パドルシフトで微速の前後進を可能とした。混雑した駐車スポットではいちいちボタンでギア変更することが煩わしいものだし、何より気忙しい。パドルで前後の切り替えはとても便利な機能だと思う。

凝った意匠のトップを畳むのは惜しい。けれどもオープンにして走り出す。フル4シーターのオープンGTは今やとても貴重だ。トリエステの狭い市街地にV6サウンドを響かせ、丘を登っていく。建物にこだまするサウンドシャワーが心地よい。

“しなやか”という表現がしっくりくるライドフィールで、シャシーが引き締まっているにもかかわらず、乗り心地はまるで悪くならない。オートマチックの制御マッピングも変わっており、サウンドと共にエンジンフィールをより楽しめるようになった。

前が空いた。アクセルを踏み込む。弾けるように加速する。サウンドは以前より明らかにラウドだ。しかも高回転域で高音を響かせてくれる。40psプラスの恩恵を実感するには正直、もっと交通量の少ないオープンロードが必要だったが、十分な加速と伸びのあるエグゾーストノートがドライバーの気分をいっそう盛り上げてくれたことは確かだ。以前からよくできたGTであると同時に、ハンドリングの優れたスポーツカーでもあった。そこは全く変わらない。AWDでありながら、身のこなしはリズムカルで切れ味も良い。前後の重量バランスがよく、ドライバーの腰を中心に車体が常に動いている。

ふたたびアドリア海沿岸まで降りてきた。クルージング中の風の巻き込みは最小限に抑えられているが、それでいて頭の周りではその存在を心地よく感じることができる。グランカブリオ・トロフェオは確かによくできたGTであり、スポーツカーでもあるけれど、選ばれた舞台での優雅なクルージングもまたお似合いだ。否、舞台を選ぶのではなく、どんな道でも最高の舞台に変えてくれる。だから女性にもぜひ乗ってほしいと思う。

イタリア統一広場に戻ると、クーペのグラントゥーリズモ・トロフェオの用意もあった。少しの時間だったが、こちらも味見する。ルーフのあるぶん、グランカブリオより骨格ががっしりしている。ゆえに乗り味はさらにスパルタンだった。路面からの反応も硬く、ダイレクト。速度を上げていけばそれもだんだん和らぐ。よりスポーツ志向、長距離ドライブ志向の強い方にオススメだ。

アドリア海で獲れた新鮮な魚介を楽しんだランチブレークののち、午後からはグレカーレの最高グレード、トロフェオに乗り換える。こちらもマスクの表情を最新テイストのシャークノーズに改めた。以前に比べて見た目にかなり勇壮だ。

インテリアも大幅に手を入れた。中央のデジタル時計は八角形で、ステアリングホイールも同じくオクタゴンスタイル。ギアセレクターはメタルの鍵盤タイプに。全体的にインテリアの見栄え質感が大きくグレードアップしたという印象だ。トリエステ=オプチーナヒルクライムのコースとなった市街地を抜けていく。どんなレースだったのだろうか、と興味が湧く。このまま走っていけばスロベニアとの国境だ。ひょっとしてこのままスロベニアに入ってしまうのだろうか、と思案していたら、もうスロベニアだった。いきなり道路標識の町名が読めなくなったのだ(看板の地色も違う)。交通量も目立って少なくなり、快適なドライブを楽しむ。

グレカーレはというと、そのサイズ感が相変わらず秀逸だ。530psのV6パワーを存分に使いつつ、まるでスポーツカーのようなハンドリングでワインディングを思う存分に駆け巡る。そのぶん、街中の低速域では硬めの乗り心地。本当は新グレードのモデナV6(390ps仕様で、従来の4気筒モデナとV6トロフェオの間を埋めるグレード)を試したかった。そちらならタイヤも少し小さいし、乗り心地もきっと良さそうだ。

■関連情報
https://automotive-quantum.jp/21786

文/西川 淳 写真/マセラティ

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