「パイプ・ドリーム」という言葉が英国紳士の間にはある。夕食を終え、書斎に仲間たちが集まり、パイプを燻らせながら自分の趣味などを語り合うことをさす。英国紳士の趣味だからクリケット、ゴルフ、乗馬といったスポーツもあるが、その中に当然クルマも入ってくる。
クルマ好きたちが集まり、好きな車のことを話す。今欲しいクルマのこと、一度は乗ってみたいクルマのこと。時間も忘れて会話に夢中になる。パイプドリームのひとつに、自分の好きなクルマを自分のサーキットで、好きなときに走らせてみたい、というまさに夢のような話しがある。でも、すでにそんな夢をかなえた人たちもいる。
その一人がオランダの富豪だ。彼はスペイン南部にある「アスカリ・サーキット」というところを所有していた。私も数年前、ベントレーの海外試乗で「アスカリサーキット」を訪れたことがある。
そのサーキットは、平坦な地にコースとクラブハウス、ピットなどがあった。ふつうのサーキットにある観客席やスターティンググリッドなどはなかった。理由は、レースを開催するためのサーキットではないから。オーナーや友人たちが、好きなときに集まり、好きなクルマで、自由に走る。家族はクラブハウスでのんびりと時間を過ごす。気が向けば、コースを走ることもあるそんな場所だった。
前置きが長くなったが、この「アスカリサーキット」を、コーンズ・アンド・カンパニーの渡社長が訪れたときから、今回のプロジェクトはスタートしたという。2015年のことだった。気軽にクルマ好きやその家族が集い、走ったり、語り合ったり、リラックスした時間を過ごす。「アスカリ・サーキット」もそういうサーキットだった。土地探しは、羽田や成田の空港から1~2時間以内、ということで千葉県南房総の巛が選ばれた。巛は漢字で、「まがりがわ」と読む。
館山道富津ICから約10分、里山を走り、「MAGARIGAWA CLUB」の入口に到着。そこから里山の山間部を約5分走り、山頂付近にこのクラブ施設はある。約100万㎡の山間部にサーキット、クラブハウス、レストラン、屋外温水プール、サウナ、トレーニングジム、宿泊施設(オーナーズパドック)、ファミリールームなどで構成されている。
サーキットは1周3.5kmのアップダウンの大きなテクニカルコース。(解説は動画で)特徴はまずピットが完全冷暖房の建屋であること。合計30台ほどが停まれる。コースは観客席も、スターティンググリッドもない。さらにコーナーなどでフラッグを振るコースマーシャルもいない。すべて集中制御されている。
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このクラブを利用できるのは会員だけ。すでに募集は行なわれている。会員は正会員とアソシエイト会員に分かれている。正会員は500名。入会金は3500万円(23年6月まで)。アソシエイト会員は750名まで。入会金は400万円(23年6月まで)となっている。ちなみに正会員、アソシエイト会員ともに、残り枠は少ないという。
宿泊施設は、分譲のオーナーズパドックは9棟だが、価格は3.5億から8億円で、完売。なので、もう14棟を建設予定という。国内だけでなく海外からの問い合わせも多いという。その需要は高そうだ。
フェラーリ、ランボルギーニ、ベントレーなどのハイエンドモデルを販売しているコーンズ・アンド・カンパニーがはじめた新しいクルマの楽しみ方を提案するこのプロジェクトは、いま、国内・外のクルマ好きから注目されている。
■関連情報
https://www.magarigawa.com/
文/石川真禧照