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2024.09.22

アストンマーティン「DB12 ヴォランテ」を英国流に乗りこなす

 2023年8月、英国ゲイドンのアストンマーティンは「DB12ヴォランテ」を発表した。あれから約10か月。ようやく日本に実車がやってきた。「DB12ヴォレンテ」がこれまでの「ヴォランテ」と同様に美しく、優雅な気品溢れる姿で現われたその時、僕は15年前に、ゲイドンで試乗した「DBSヴォランテ」のことを思い出した。

ロンドンから北西へ約200km。ゲイドンにアストンマーティンの本社がある。近郊の古い民家を改装したホテルに着き、すでに用意されていた「DBSヴォランテ」が足代わりとして渡された。翌日の早朝、早速「ヴォランテ」の試乗に出かけた。9月の英国の早朝は朝もやも濃く、立っていると細かい水滴が体に付着した。それでも幌を開けて、ホテルの裏庭から街へと走り出した。目指すはコッツウルズ。世界で最も美しい村々が点在する丘陸地帯だ。ビートルズの「Long a Winding Road」(P.マッカートニーはスコットランドの道をイメージしていたというが)のイメージどおり、低く連なる丘陸地帯に時々、句読点のように美しく、小さな村が現われる。

いくつかの村を過ぎて、ある村の中心にある信号で停まっていると、隣に1930年代のクラシックスポーツカーがやってきた。初老の男性2人が乗っている。目と目が合うと、助手席の彼が、手でウインドウを降ろせというジェスチャーをした。言われた通りに降ろすと、今度は「若いの、幌を降ろしているのになぜウインドウは降ろさないのか」「オープンモータリングは風を感じて走ること。ウインドウも全開にして走れ!」みたいなことを言い放ち、青信号になってダッシュで走り去った。

その日は、週末の土曜日。こういうときは各地でコンクールデレガンスや、ジムカーナなど車のイベントが開かれる。あの初老組もそうしたイベントに向かう途中だったのだろう。もちろん彼らのクラシックスポーツもホロとウインドは全開にしていた。

ホロは降ろしたがウインドは立て、エアコンを効かしていたが、ボクもウインドを全開にして、走りはじめた。朝のまだ暖まっていない新鮮な風が室内に入ってきた。それまで遠くで聞こえていたV8のエキゾーストサウンドが急に身近になった。ガラスを隔てていたカントリーロードと一体感が生まれたような気がした。DBSヴォランテも生き生きと走っているようだった。

あれから約15年、最新のDBシリーズがDB12。あの時のDBSからDB9、DB11と続き、今回もヴォランテをシリーズに加え、登場した。2年という短命で終わったDB11よりもボディ剛性、パワーユニット、サスペンション、インフォテイメントシステムなどあらゆる面で上回っての登場だ。

ボディ剛性はアンダーボディコンポーネントの変更で、全体的なねじれ剛性は3.7%向上、フロントの車軸剛性は140%も向上している。パフォーマンスは最高出力はクラス最強の680ps、最大トルクは従来より34%アップの800Nmを発生、8速ATと電子制御デファレンシャルと前275/35ZR21、後325/30ZR21+ミシュランパイロットスポーツ5の専用タイヤで、バランスのよいコーナリングを楽しませてくれる。足回りでは従来型より可変幅が500%も増加した新世代のインテリジェント・アダプティブダンパーが、しなやかな働きで、コーナリングを助けている。

ダイナミックドライビングモードはコンソールのスイッチでコントロールする。後席はクッションは硬く、薄く、長時間の使用には適しているとは言えない。ホロを閉めれば、身長150cmクラスなら、なんとか耐えられそうだが、足元のスペースはミニマム。ホロは8層遮音素材を採用したファブリック製で、静粛性も改善され、325km/hの最高速にも耐えられるはずだ。しかも2段階で折り畳まれ、リアのトランクに収納される。

DB12ヴォランテを走らせる。もちろんルーフは開ける。サイドウインドも全開だ。熱帯化した東京は、オープンエアモータリングにはかなり厳しい環境になっている。以前なら、夏場でも夜になれば、オープンにしての走りを都会でも楽しめた。いまでは、夜中でも熱中症になりそうだ。あの朝もやの中のDBSヴォランテがなつかしい。

でもまだ早朝なら都会でもオープンエアモータリングが楽しめそうだ。朝焼けの町はまだ気温も温度も高くなく、走れる。元気があるなら、そのまま早朝のゴルフ場にプレイしに行くのもよいかもしれない。「Kフォールド」ルーフと名付けられたキャンバストップは小さく折り畳まれるので、トノカバー下にゴルフバッグ1組を収納しても、ホロを開けることができるのだ。ブリティッシュハイエンドオープンスポーツは、ゴルファーも満足させてくれるスーパーモデルなのである。

■関連情報

https://www.astonmartin.com/ja/models/db12-volante

文/石川真禧照 撮影/望月浩彦 

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