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2026.03.16

クルマの現在地を探る、2026年自動車業界の新潮流【前編】

東京オートサロンの会場で強く感じたのは、クルマを取り巻く価値観が確実に広がりを見せているという事実だった。では、その変化は実際のプロダクトとしてどこまで具現化されているのだろうか。舞台を毎年2月に開催されるJAIA輸入車合同試乗会へ移し、最新モデルのステアリングを握りながら、“走り”という体験を通して2026年という現在地を確かめてみた。そこで見えてきたのは、パワートレインの違い以上に、各ブランドが自らの「らしさ」を改めて問い直している姿でもあった。

Alfa Romeo「Junior Ibrida Premium」

アルファ・ロメオが送り出した久々の新作は、Bセグメントに属するエントリーモデルのクロスオーバーSUVである。サイズ感としては、かつてのミトとジュリエッタの中間といえばイメージしやすいだろう。兄貴分であるトナーレが4.5m級のCセグメントSUVとしてプレミアム性を担うのに対し、ジュニアはより身近な存在として位置づけられている。

基本骨格はトナーレよりも新しく、ステランティスグループのコンパクト向けプラットフォームを採用。電動化を前提とした設計で、ハイブリッドとEVの双方が用意される。今回試したハイブリッド仕様は、なかなかどうして軽快だ。印象としてはSUVというより背の高いハッチバックに近く、扱いやすさのなかにアルファらしい小気味よい身のこなしが息づいている。

新解釈のスクデットや灯火類の造形も含め、均質化が進む市場のなかで個性を打ち出そうとする姿勢が印象的だったジュニア。ブランドが原点に立ち返りながら新しい入口を探しているかのような、そんな一台に思える。EV版にも自然と期待が高まる。

Maserati「GranCabrio Trofeo」

挑戦という意味では、マセラティもまた独自の歩みを続けているブランドだ。レーシング由来の技術をGTへと昇華してきた歴史は長く、その系譜を受け継ぐ存在がグラントゥーリズモ、そしてオープントップのグランカブリオである。

この世代では新開発V6ツインターボ「ネットゥーノ」の採用が象徴的だった。電動化の流れが加速するなかでも内燃機関の価値を信じ続けた判断は、いま振り返ると興味深い。結果としてエンジンは依然として魅力的な選択肢として生き続けている。

排気系の見直しによって与えられたという艶やかなサウンドを味わいながら春の空気のなかを走らせていると、速さ以上に“時間の質”が変わる感覚がある。こうした余白の豊かさこそ、マセラティというブランドが長年守り続けてきた価値なのだろう。

Mercedes-Benz「G 580 with EQ Technology Edition 1」

伝統からの転換として象徴的なのが、Gクラス初のEVモデルであるG 580 with EQ Technologyだ。外観は従来の無骨なイメージをしっかりと保ちながら、走り出すと静かに滑るように進む。そのギャップは想像以上に新鮮である。

重厚なスタイルと静粛な走行フィールとの対比は違和感ではなく、新たな魅力として成立しているように感じられる。4輪独立制御による駆動システムは本来のオフロード性能にも寄与するというが、今回の公道試乗でもその完成度の高さは十分に伝わってきた。

興味深いのは、こうした変化が単なる電動化への適応にとどまっていない点だ。伝統を守ることと、新しい技術を受け入れること。その両立を模索する姿勢こそ、いま多くのブランドに共通して見られる動きなのかもしれない。

Porsche「Macan Turbo Electric」

ポルシェの経営を支える柱がカイエンとマカンであることは周知の事実だ。そのマカンが第2世代で完全EVへと移行したことはブランドにとって大きな決断だった。

しかし走り出した瞬間、その不安は消える。電動化されてもポルシェはポルシェである。ステアリングを通じて伝わる情報量、車体の一体感、正確な応答性。いずれもブランドが積み重ねてきたスポーツ性そのものだ。

これより少し前に試したマカン4と比べ、ターボはシャシーの引き締まりが明確で、ロードインフォメーションの解像度が高い。SUVでありEVであっても、ポルシェらしさはむしろ輪郭を増しているように感じられた。

Volkswagen「ID.Buzz Pro」

昨年のEV市場を象徴する存在といえば、このID.Buzzを挙げないわけにはいかない。往年のワーゲンバスの精神を現代的に再解釈した一台であり、デザインと実用性が高い次元で融合している。

今回は標準ホイールベース仕様を試す機会を得た。ロング仕様より250mm短く、車重も170kg軽い。その差は走り出した瞬間にはっきりと感じられ、軽快で親しみやすい挙動が印象に残る。

移動そのものを楽しみに変えてくれる感覚があり、単なるEVミニバンという枠では語りきれない。クルマが生活のなかで担う役割そのものを更新しようとしているようにも映った。

Cadillac「Lyriq Sport」

今回もっとも楽しみにしていたのがキャデラック初のEV、リリックである。アメリカンラグジュアリーと電動化の相性は以前から良いはずだと感じていたが、実車はその期待を裏切らなかった。

縦型ランプや往年のテールフィンを想起させる造形など、ブランドの歴史を現代へ翻訳したデザインが印象的だ。キャビンではデジタルと物理スイッチが自然に共存し、独自の世界観を築いている。

走りは滑らかで余裕に満ち、減速制御をパドルで調整できる操作系も含め快適性への配慮が行き届く。静けさとゆとりによってもてなす——それがいまキャデラックが提示するラグジュアリーなのだろう。

今回試したモデルはいずれも、内燃機関であれ電動パワートレインであれ、それぞれのブランドが長年培ってきた価値観を手放すことなく次の時代へ踏み出していた。技術の変化が個性を均してしまうどころか、むしろ「何を自分たちらしさとするのか」を改めて問い直す契機になっているようにも見える。

クルマはいま、大きな転換点にあると言われる。しかし実際にステアリングを握って感じたのは、変わっているというより、それぞれが自分の立ち位置を確かめ直している過程にあるということだった。だからこそ、いまのクルマは面白い。次に現れる一台がどんな答えを示してくれるのか、その現在地を引き続き見届けていきたい。

取材・文/桐畑恒治

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