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2025.04.18

伝統と革新の狭間でロータス「エメヤ」が切り開く新時代

変革のスピードが極めて速い昨今、特に自動車業界においては、情報の流通だけでなく、技術革新も光速で進んでいる。それがまた、自動車というプロダクトに新たな面白さや魅力をもたらしているのは言うまでもない。その最前線にいるのが、ロータスである。電動化に大きく舵を切ったこの老舗ブランドの現在地を、最新モデルを通じて確認してみたい。

車好きにとってロータスといえば、「走り」のクルマというイメージを思い浮かべる人が多いはずだ。一般的には、伝説のF1ドライバー、アイルトン・セナが最初に名を馳せたチームとして記憶する向きもあるだろう。黒地に金のロゴとストライプを配したF1マシーンは、それだけで得も言われぬ存在感を放っていたし、キャメルイエローの車体に胸を躍らせた人も少なくない。

よりエンスージアスティックな視点では、小型ライトウェイトスポーツカーの開発で知られた存在でもある。葉巻型のフォーミュラカーに保安部品を装着しただけのような「セブン」や、バックボーンフレームにFRPボディを被せた小型軽量スポーツカー「エラン」などは、象徴的な存在といえるだろう。スーパーカーブームで注目を浴びた「ヨーロッパ」や、映画『007』に登場した「エスプリ」もまた、ロータスの歴史を彩るモデル群だ。

こうして長年にわたりロータスは「走りのクルマ」を手がけるブランドとして、多くのファンから愛されてきた。その背景には創業者コーリン・チャプマンの理念がある。「シンプルかつ軽量であること」という彼の哲学は近年までモデルの根底に流れていた。

進化の軌跡

そんなロータスが大きな転換点を迎えたのが2017年。中国の吉利(ジーリー)グループ傘下となり、サステナブルかつラグジュアリーなブランドへの再構築を図る。方向性を大きく変えたうえでの電動化戦略が進行し、最初のプロダクションモデルとして登場したのが大型EV SUVの「エレトレ」、そして昨年、第2弾として登場したのが大型セダン「エメヤ」である。

実車を目の当たりにすると、このエメヤは従来のロータスのイメージを根底から覆す一台だった。全長5m、全幅2mという堂々たるボディサイズに、大人4人が快適に過ごせるキャビンを備え、グランツーリスモと呼ぶにふさわしいラグジュアリーな装備を搭載。〝ハイパーGT〟という立ち位置で、まったく新しい顧客層の獲得を目指す。ベースとなるのは新開発のEV専用プラットフォームで、車体底部に敷き詰められたリチウムイオンバッテリーを中心に、前後にモーターを搭載。車両重心を下げる設計は、近年のEVでは常道ともいえる手法だが、ロータスもそこに倣っている。圧巻なのはその動力性能だ。トップグレードの「エメヤR」では、最高出力918ps、最大トルク985Nmというとてつもない数値を叩き出す。まさに〝電動ハイパーGT〟の名にふさわしいスペックであり、この圧倒的なパワーをもってロータスは次のステージを目指している。

デザインも強い主張を感じさせる。とりわけフロントマスクは、隈取りを施した歌舞伎役者のような迫力。中央に配されたロータスのバッジこそ見覚えがあるが、従来のロータス像とのギャップに戸惑う向きもあるかもしれない。しかし、その既成概念こそ脱ぎ捨てるべきだ。エメヤは、もはや過去のロータスではない。ボディデザインはワンモーションのスリークなラインが印象的で、空力性能の高さを視覚的に訴える。フロントからリアまでひと筆書きのようにつながるルーフライン、バンパーからボディサイドへ、さらにはリアディフューザーまで抜けるエアの導線も設計上の見どころだ。

先進運転支援技術の搭載も注目に値する。4基のLiDAR、18基のレーダー、12基のカメラによる高度なセンサー構成は、レベル4の自動運転にも対応可能な設計だ。これは新世代ロータスの大きな特徴のひとつである。

〝ロータスらしさ〟は健在か?

自動開閉のドアで車内に乗り込めば、質感の高い空間が広がる。特徴的なヘキサゴン様のステアリングの先にメーター類はなく、必要な情報はヘッドアップディスプレイに投影される。操作系は15.1インチのセンターディスプレイに集約され、最低限の物理スイッチがセンターコンソールに配置されているため、操作性も悪くない。

一方で、車幅感覚にはやや慣れが必要だ。ドアミラーの代わりに配置されたカメラの映像は、サイドのモニターに表示されるが、実像と結びつけるには多少の時間を要する。ただし、映像は常に明るくクリアであり、安全面では有効な装備といえる。

それでも、そうした些細な違和感を吹き飛ばすほどに「エメヤ」の走りは圧巻だった。918ps、985Nmという出力は、SF映画で描かれるワープを現実にしたような感覚だ。ただし、それは決して荒々しい加速ではない。しっかりと制御されたナチュラルな加速フィールで、常に安心感がある。そしてその感覚は、この大柄な車体の軽快な挙動にも通じている。3m超のホイールベースは直進安定性に寄与し、エアサスペンションは路面の衝撃を巧みに吸収。小舟のようなこれまでのロータスとは対照的な、まるで豪華客船のような乗り味で外乱の影響も受けにくい。

一方で、ドライビングモードをスポーツに切り替えると、その走りは一変する。サスペンションが引き締まり、車体の姿勢変化は極小に。フラットなコーナリングフォームは、かつてのロータスを想起させる。電子制御アンチロールバーやリアアクスルステアの効果も高く、旋回性は非常に高い。車体サイズを忘れさせる軽快なハンドリングは、まさしくロータスの流儀である。

この伸びやかなフォルムで街を駆け抜ける姿は実に優雅でありながら、その中には1948年の創業以来、連綿と受け継がれてきた〝FOR THE DRIVER〟の精神が息づいている。方向性こそ大きく変わったものの、ロータスらしさは、確かに息づいていた。殻を破るには、相応の覚悟と努力が求められる。それでも挑戦を恐れず、変革に踏み出すことでこそ、未来は開ける。かつてチャプマンがそうしたように、いまのロータスもまた、常識を打ち破り新しい道を切り拓いている。「エメヤ」はまさにその象徴。時代の先を行く、現代の〝傾奇者〟といえるだろう。

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https://www.lotuscars.com/ja-JP/emeya

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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