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2024.12.25

サーキットで鍛えられた〝心躍るクルマ〟BMW「M4クーペ」

BMW

「BMW M」と聞けば、多くのクルマ好きは心を踊らせるだろう。その文字が示すとおりMはモータースポーツを起源としたBMWの一翼を担うブランドであり、これまで数多くのスポーツカーや高性能パーツがリリースされてきた(現在の正式社名はBMW M Motorsport GmbH)。そして、その歴史においてMの名を世界的に広めたのが、BMW製スーパースポーツカーの先駆けともいえる「M1」であり、そして幅広いユーザーにMの魅力を知らしめたのが「M3」である。

特に初代M3は、BMWの屋台骨を支えていたE30型「3シリーズ」をベースに、モータースポーツの技術を注ぎ込んだ高性能仕様として登場し、大きな人気を博した。ワイドなフェンダーや空力性能を高めるウィングを備えながらも、パッと見は普通の「3シリーズ」と大差ない姿が話題を呼び、“羊の皮を被った狼”と称されたのをご記憶の方も多いだろう。その一方で、サーキットでは圧倒的な実力を発揮し、ドイツツーリングカー選手権(DTM)をはじめ数々のレースで栄光を掴んだ。日本でも、E30型やその後継となるE36、E46型が全日本GT選手権などで活躍し、モータースポーツファンを魅了した。

そんな「M3」は2013年に大きな転機を迎える。従来、セダンを中心にクーペやカブリオレ、ツーリング(ワゴン)を展開していた3シリーズから、クーペとカブリオレが「4シリーズ」として独立。これに伴いM3はセダン(とワゴン)に限定され、クーペ版は新たに「M4」として誕生することとなった。BMWは偶数シリーズ(2/4/6/8)はパーソナル志向、奇数シリーズ(3/5/7)ではフォーマリティを重視するという明確な棲み分けを図ったのだ。

「M4」の名を初めて冠したモデルが発表されたのは2014年。この初代モデルは個人的にも思い出深い。なぜなら、発売直後に同世代の「M3」とともに、ポルトガルのアルガルヴェ・サーキットで試乗する機会に恵まれたからだ。ポルトガル南端の丘陵地に広がるこのコースは、世界耐久選手権(WEC)やF1、MotoGPなども行われる国際格式のサーキットでありつつ、急激なアップダウンや複雑なコーナーが連続するチャレンジングなレイアウトを特徴とする。それだけに、新型「M4」のポテンシャルを測るにはうってつけの場所だった。

リリースされたばかりの初代「M4」でサーキットを攻めたとき、最も印象に残ったのは自分の手足のように動く自在な走りっぷりだった。3ℓ直6ツインターボエンジンは鋭く反応し、ハンドリングはシャープ。空に向かって駆け上がるようなコーナーや奈落の底へ落ちるダウンヒルなどでは、とびきりのスリルを味わいながらも決してコースから外れることのないジェットコースターに乗っているような安定感で、レコードラインを正確にトレースできた。初めてのサーキットでここまで楽しく走れると感じたのは、この車の完成度の高さによるものだろう。その時の興奮はいまでも鮮明に記憶に残っている。

セダンの「M3」と比較しても、低重心でコントロール性の高い「M4」は特に魅力的だった。その性能はモータースポーツの世界でも証明されており、2015年のDTMでは「M4」ベースのマシーンがマニュファクチャラーズタイトルを獲得。BMW Mがモータースポーツで培った技術をいかに市販車に還元しているかを示す好例と言えるだろう。

4WD化がもたらす走りの革新と伝統の融合

そんな「M4」は2020年に2代目へと進化。車体はF型からG型へと移行し、全長が伸び、BMWの伝統的なキドニーグリルは大幅に拡大された。Mモデルの肝とも言えるエンジンは先代の3ℓ直列6気筒ツインターボを継承しながら、出力は510ps、トルクは650Nmへと大幅に強化。後に4WDシステムが追加設定された点も注目だ。

FR(フロントエンジン後輪駆動)をアイデンティティとしてきたBMW、そしてMが4WD化することに対する懐疑的な声も一部にあった。しかし、今回、その最新型である「M4 Competition M xDrive」を試してみると、この選択がMモデルに求められる走行性能をさらに高める策であったことを証明した。

まず特筆すべきはエンジンの回転フィールの気持ちよさと圧倒的なパワーである。BMWが誇る直6の洗練されたキャラクターを受け継ぎつつ、2基のターボで武装したS58B型ユニットは、この最新型コンペティション仕様では最高出力がさらに20psアップの530psに増強され、低速から高速域までスムーズかつ力強い加速を実現。どの回転域からでも十分以上のパワーを引き出し、電光石火のMステップトロニックATとの組み合わせによる爽快感は格別だ。

さらに、前後の駆動力配分を最適化する4WDシステムが、安定感と操作性を向上させているのも見逃せない。ワインディングロードでの走りは特に印象的だった。適切に配分された駆動力が、路面温度の低い状況でも高いトラクションを確保。ペースを上げてもアンダーステアが顔を出すことはなく、かつてのFR特有の鋭いハンドリングをそのままに、4WDによるプラスアルファの安定感を加えている。

そのうえで電子制御デバイスのセッティングが細かく調整可能であるところも嬉しいポイントだ。トラクションコントロールをオフにし駆動力配分を後輪のみに設定すると、荒々しいドリフトマシーンと化すことも容易い。そのセッティングの多彩さはすなわちハンドリングの懐の深さを表現するものであり、BMW Mの良心とも言えるだろう。

いまやスポーツカーは電子制御なしでは成り立たない時代だが、その中でも「M4」は高度にチューニングされたエンジンや緻密に制御されたデバイスが、ドライバーの意図を忠実に再現して、純粋なスポーツカーとしてのドライブフィールを見事に保っている。その上で狼のような“野生”も秘めた一台であり、初めてのドライバーでもそのソリッドで精緻な操作感を存分に楽しめる。そんなBMW Mの精神性を見事に体現したスポーツカーに再び出合えたことが、いまは何よりも嬉しい。

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■ 関連情報
https://www.bmw.co.jp/ja/all-models/m-series/bmw-4er-m-modelle/bmw-4-series-m-models.html

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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