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2024.07.16

アウトバーンを疾走したくなる恍惚のスポーツクーペ、AMG「GTクーペ」

新型車が発表され、初めて実車を見たとき、ずっと昔に出会ったクルマがオーバーラップすることがある。2024年4月に予約注文を受け付け、同時に4月下旬にはデリバリーが開始されたメルセデスAMGの最新モデル「GTクーペ」。メルセデスAMGの完全独自開発によるスポーツカーは、4.0L、V8ツインターボエンジンを搭載し、前後トルク配分の連続可変が可能なAMG 4MATICを初めて搭載するなど、最新のメルセデスAMGスポーツカーのノウハウが全身にとり入れられている。

そして、美しく、ボリューム感のある2ドアクーペスタイル。実車を見た瞬間、1台のクルマを思い出した。「メルセデス・ベンツ300SLR」。メルセデスの「SLR」というと「SLRマクラーレン」を思い浮かべる人もいる。メルセデスがマクラーレンと組んでF1に出場したのが縁で、マクラーレンがメルセデスブランドの市販スーパースポーツカーを生産したモデルで、2003年から2009年にかけて6バリエーションのモデルが市販された。

だが、私が思い浮かべた「SLR」は1955年にスポーツカー選手権を獲得するだめだけに9台だけつくられた「SLR」。しかもクーペは2台だけという、貴重なクーペのことだ。この2台は実戦には出場しなかったが、1台はナンバーを付けて公道で乗られていた。「SLR」をはじめ1930年代から1950年代にかけて、数々の名レーシングマシンを設計したルドルフ・ウーレンハウトが、レースに出場しなかったクーペを自身の足として乗り回したという。その「SLRクーペ」と、新型のAMG「GTクーペ」がなぜか、頭の中でオーバーラップしたのだ。ガルウイングの市販スポーツカーではなく、レーシングマシンを公道用に手を加えた「300SLR」。その姿も実に機能美にあふれ、美しかった。

現在、「SLR」クーペの実車は、ドイツ・シュトゥトガルトのメルセデスベンツ博物館に展示されているが、一度だけ日本に来たことがある。そのときに実車を見たショックは今も覚えている。1968年、東京・晴海で開催された「第10回東京オートショー」に、メルセデス・ベンツが展示車両として持ちこんだのだ。柵に囲まれてはいたが、シルバーのボディは大迫力だった。今回、最新のAMG「GTクーペ」は、マットなブルーにペイントされていたが、その美しさは、最近のスポーツカーの中でも1、2を争う。とくに斜め後方からの姿は、惚れ惚れするほどに美しく、セクシーだ。

最近のメルセデス系のクルマには珍しく左ハンドルのみの設定の運転席に座る。目の前には360km/hスケールのスピードメーターと7000回転からレッドゾーンのエンジン回転計の2つの大径のメーターが目に入ってくる。スターターボタンを押してイグニッション・オンした瞬間にAMGチューンのV8、4.0Lツインターボエンジンが目を覚ます。

室内は、オプション設定のプラス2シートがリアに備わっていたが、基本は2シーター。リアシートも身長140cmまでなら、ヘッドスペースは確保されるものの、ここは冬場ならコート置き場だろう。9速AMGスピードシフトMCTをDレンジにシフトする。このシフトがコラムから生えているレバーなのは、ちょっと興ざめ。「Cクラス」をはじめとするメルセデス全車に共通するシフトレバーなのだ。それでもDレンジ/コンフォートモードで走り出した「GTクーペ」のV8ツインターボは3000回転以下では、まったくジェントルなパワーユニットとしての働きをまっとうしてくれる。

インプレッション記事風に書けば、100km/h高速巡航のV8、4.0LツインターボはDレンジ9速1400回転、8速1700回転で、ユルユルと回っているにすぎない。しかし、Dレンジのままで、アクセルペダルを踏みつければ、V8、4.0Lのツインターボはレッドゾーン手前の6300回転まで上昇し、シフトアップ。手持ちのストップウォッチでも0→100km/hを4秒台前半で走り切った。

この速さも「300SLR」に通じる。「GTクーペ」を生産しているAMG社ももともとはメルセデスのクルマをベースにチューニングを施し、サーキットで大活躍をしていた。今でもそのレーシングスピリットは市販車に生きている。「GTクーペ」にとって、街中や高速道路(少なくとも我が国の)を走ることは、かなり退屈なことなのだろう。それを実感したのは、ワインディングに入ってからだった。

車速を上げて、コーナーをクリアする毎にクルマが生き生きとしてくるように感じたのだ。コーナーをクリアし、次のコーナーを目指し、短いストレートをフルスロットル。コーナー手前で減速し、ハンドルを切り込んでいく。この動作を繰り返していくうちに「GTクーペ」は吃咾をあげ、ドライバーのアドレナリンは沸点に達する。そのような感覚にとらわれた。「GTクーペ」に採用されている専用チューンは限界を知らないかのように懐の深さを見せてくれるのだ。

このような「GTクーペ」を操るのにふさわしいオーナーはどのような人なのだろうか。ふと、冒頭の「300SLR」をオンロードで愛用していたウーレンハウトが語った記事の一文を思い出した。超一級のレーシングカー設計者であった彼は、操るほうも超一流と言われていた。あるレースで予選への走りこみが不足していたとき、ドライバーの代役を務めた。そのとき出場していたF1ドライバーよりも、速いタイムを出したが、その時の彼は背広にネクタイ姿だったという。

確かな腕を持ち、V8、4.0Lツインターボの高性能を御することもできるが、日常はスーツにネクタイ(それも超一流の仕立ての)で、行動する男の姿が浮かんだ。ミュンヘンからシュトゥトガルトまでのアウトバーンを約1時間で走りきる。もし、現在の速度規制がなければ、この記録に並べるぐらいの腕前の紳士に操られれば「AMG GTクーペ」も望むところだろう。ちなみに、ミュンヘン~シュトゥガルト間は約240kmである。

■関連情報
https://www.mercedes-benz.co.jp/passengercars/models/coupe/amg-gt-2-door/overview.html

文/石川真禧照 撮影/望月浩彦

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