フェラーリは、2022年のスパ・フランコルシャン24時間レースでの発表から3年、GTカレンダーで最も重要な同レースで新型296 GT3 EVOを公開した。

この車両は、2024年シーズンからFIA世界耐久選手権（WEC）に参戦している296 LMGT3と、デビュー以来5つのタイトルを獲得した296 GT3での経験を基に開発された。これには、GT3カーにおけるベンチマーク的存在であるGTワールドチャレンジエンデュランスカップのドライバーズおよびチームタイトルの獲得に加え、ニュルブルクリンク24時間やデイトナ24時間での勝利も含まれる。統計すると343戦のレースで140勝、405回の表彰台、56回のポールポジションという成績を収めている。

296 GT3 EVOは、顧客からのフィードバックやレース経験をもとに開発され、あらゆる条件下でより競争力のあるマシンとなることを目指した具体的施策が採られた。「モジュール性」というコンセプトも維持されており、特にメンテナンス性やセットアップのしやすさで真のベンチマークとなる。

搭載されるV6エンジンは、前バージョンからの変更はない。ターボチャージャーは、120度V型のバンク内に配置され、高いコンパクト性と軽量化をもたらし、極めて高い出力特性を実現。エンジンは、口ードバージョンより前方かつ低い位置に搭載され、これによって重心が下がり、ねじり剛性も向上した。さらに2度傾けることで、リアディフューザーのスペースも確保している。さらにギアボックスは、過去2年間のデータ分析をもとにギア比の見直しが行われ、低速・高速どちらでもトルク特性が向上している。

今回の296 GT3 EVOは、従来の極端な空力性能やサーキットでの扱いやすさを維持しつつ、あらゆるレース状況において予測可能かつ安定したレスポンスを実現することが目標。技術規則で定められた最大値まで押し上げたスタンダード版のダウンフォースや効率を維持しつつ、特に前方ダウンフォースの安定性や空力感度向上に重点を置いている。

そしてスプリッターやフロントフロアの形状を改良し、膨張容積やボルテックスジェネレーターも最適化された。フロントバンパーのウイングレットも見直され、リアディフューザーは膨張容積やチャンネル数の改良がされた。フロントフェンダー上部のルーバー類も開発され、走行中の乱流下でも後方のインテークの空気を最適化する。

さらにCFDによる計算と風洞試験の併用によって、乱気流の中での車両挙動が追及され、実走でも検証した結果、交通量の多い耐久レース特有の「乱れた空気」の中でも垂直荷重が安定し、競争力と精密な挙動が保たれる。

外観・機能面では、フロントボンネットの2つのエアインテーク（ブレーキおよびコクピット冷却向上）や、新しいリアウイングが特徴的。サイドパネルやサポート構造も新設計され、LMGT3で導入されたクイック調整機構も装備する。また内部空力面でも進化しており、特にフロントブレーキ冷却のダクト最適化やボンネット上の2本のエアインテークで、空気流量が先代比20%以上増加した。ステアリングポンプも新たなNACAダクトでより高効率な冷却が実現されている。

LMGT3からのフィードバック

リアホイールアーチ回りのボディワークは、LMGT3版のものを流用しており、様々なタイヤサプライヤーの製品適応性を高めるため、より垂直なカーブ形状となっている。さらにドアミラーも様々な解析で改良され、設置角や視認性、振動抑制が向上している。さらに前後サスペンションのジオメトリも変更し、部品への負荷低減と頼性が向上した。新設計によって前後で一体感あるダイナミックな応答性となり、ピットでのセットアップもしやすくなっている。

そしてコックピットは、直感的操作性、良好な視界、容易なアクセスを軸に、安全と快適性も重視し、基本コンセプトを維持しつつ空調システムを追加するなど大幅に強化している。なお、296 GT3 EVOは、2026年シーズンにレースデビューを予定している。さらに、現行296 GT3向けにアップグレードキットも用意される。

関連情報：https://www.ferrari.com/en-EN/competizioni-gt/ferrari-296-gt3-evo

構成／土屋嘉久