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2025.05.19

人生一度は乗ってみるべきクルマ、ベントレー「フライングスパー スピード」

1919年、有能な技術者であり、経営者だったウォルター・オーウェン・ベントレーは、英ロンドンでベントレーモーターズを設立した。ベントレーは当初から高級かつ高性能でスポーティーなクルマの製造を会社の目標にしていた。それを証明するため、モータースポーツの世界に参入し、数々の優れたマシンを造りあげた。1924年と1927年~1930年まで、ル・マン24時間レースで優勝したことがそれは証明している。と同時に、この時マシンを操っていたドライバーが貴族、医師、富豪など裕福なクルマ好きたちだったことから、ベントレーは世界中の上級階級たちに認められるようになり、高級で高性能を誇るスポーツカーの代名詞となった。

ところが、良い時代は続かなかった。1929年の世界大恐慌により、パトロンが倒産。その余波もあり1931年にベントレーも倒産したのだが、なぜか同年に復活を遂げる。この時、復活に手を貸したのが、ロールス・ロイス社だった。それまで高級で高性能なスポーツカーを生産していたベントレーは、ロールス・ロイスの管理下で、ロールスより多少、スポーティーな味付けをした〝ロールスの皮を被った〟クルマの製造に甘んじることになった。このロールス・ロイスによるベントレーの買収は有名な話だが、じつはベントレーが手強いライバルになることを恐れたロールス・ロイスの陰謀だったということも話題になった。

そして、ロールスによる支配は、1998年、ベントレーがフォルクスワーゲングループの傘下に入るまで実に67年にも及んだ。もちろんベントレーはその間、じっと我慢のクルマ造りをしていたわけではなかった。ロールス・ロイスの皮を被ってはいたが、マークⅡ、S1、S2、S3と1940~1950年代にかけて次々とヒット作を開発した。

いずれもベントレーがそれまで得意としてきた高級かつ高性能なスポーツカーではなく、4ドアサルーンだったが、クラス最高の速いクルマ、優れたクルマを生み出すというW.O.ベントレーのクルマ造りの精神が根付いたクルマばかりだった。ベントレーは4ドアサルーンで密かに復活していたのだ。ベントレーの速くて、静かな高級で、高性能なクルマ、それは「サイレントスポーツ」とも呼ばれ、ベントレーファンはこの復活に歓喜した。今回、試乗した「フライングスパー」の最新モデルも「サイレントスポーツ」の血を受け継いでいる。

かつて、英国で「ロールス・ロイスは自分で運転するクルマではない。ベントレーは他人に運転してもらうクルマではない」という不文律が貴族や富豪の間で語られていた時代があったが、近年は、ロールス・ロイスでも、たとえばリムジンのような「ファントムV」でもワインディングを活発に走ることができるように仕立てられている。しかし、「フライングスパー スピード」のハンドルを握って走ってみるとW.O.ベントレーが目指したスポーツカー造りの精神が脈々と受け継がれていることを感じる。まさに「他人に運転してもらうクルマ」ではないということがよくわかった。

分厚いドアガラスに囲まれた運転席に座る。クロームを多用したインパネと左右の丸い空気吹き出し口は、何十年前も前に登場した初代「フライングスパー」と同じ。短い期間だったが筆者が所有していた1991年式の4ドアサルーン「エイト」の吹き出し口と同じデザインだった。

さすがに、本木目のパネルは自然環境保護の観点から採用されることはなくなったが、やや小径で太めのハンドルも送りハンドルができるように造られている。ここにもベントレーのクルマ造りの伝統が根付いているといえる。

英国では、ロールスの皮を被った時代からベントレーを乗り継いでいる富裕層がいるため、その人たちが戸惑うようなクルマ造りは許されないのだろう。伝統のある高級車とはそういうものだ。もちろん、インパネ中央にはナビ画面と3種類のメーターが反転して出現するようなギミックが取り入れられているがレイアウト自体は変わっていない。

最も大きな進化はパワーユニットだ。2021年7月に登場した「フライングスパー」初のプラグイン・ハイブリッドはV6,2.9ℓのガソリンターボにモーターを組み合わせており、エンジンは416PS/550Nm、モーターは14.1kWh、136PS/400Nmというスペックを誇る。

モーターのみで40km以上の走行が可能だった。2024年9月に発売された4代目は、ガソリンエンジンがV8,4.0ℓツインターボで600PS/800Nm、モーターは25.9kWhの容量で190PS/450Nm。モーターのみでの走行可能距離は76kmまで伸びた。

「フライングスパー」が走り出す前の儀式はセンターコンソールのドライビングモードダイヤルを動かすことから始まる。SPORT//BENTLEY/COMFORT/CUSTOMの5つのモードから選択する。まずはBENTLEYモードを選択した。こちらは全てに平均的な仕様となっている。

プラグイン・ハイブリッドではもうひとつ儀式がある。それが「Eモード」だ。EVドライブ/ハイブリッド/ホールドの3モードが設定されており、「EV」ドライブモードでスタート。アイドリング時はわずかな振動がシートから伝わっていたが、アクセルを踏み込むと、間髪いれず「フライングスパー」の巨体はダッシュをし軽快に走り出した。8速ATのシフトショックも無く、無音でモーター走行を開始。

ワインディングに入っても、その走りは2.7トンという巨体ではなく、まるでライトウエイトスポーツカーのように思い通りにコーナーをトレースする。それも無音で。もちろん途中でV8を覚醒させながらの走りも十分楽しい。

100年にわたるベントレー史上最もパワフルでサイレントな4ドアスーパースポーツサルーンと一緒に過ごした時間は、わずか数日だったが至福の時間だった。その間に感じたのは「人に運転をまかせて乗るクルマではない」というベントレーの伝統が今でも健在だったということ。そして、W.O.ベントレーが目指したスポーツカーの精神も「フライングスパー」には受け継がれていたという事実。人生一度は乗ってみる価値のあるクルマだ。

■関連情報
https://www.bentleymotors.jp/models/flying-spur/new-flying-spur-speed/

文/石川真禧照 撮影/尾形和美

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