今や街中で姿を見ない日はなく、まるで一家に一台はあるかのように感じるほど人気を博しているSUV。かつてのプリミティブなクロスカントリー・ヴィークルとは異なり、最近のSUVは実用性やデザイン性に優れ、どんなシーンに連れ出してもしっくりと馴染む万能選手へと成長したことがその理由だろう。同時にそれが“売れる商品”としてメーカーの利益を支える重要な存在となったことも大きい。このジャンルを遠まきに見ていたラグジュアリーメーカーもこぞってSUVをリリースしてきたことが、何よりその事実を物語っている。
スポーツカーメーカーとして名を馳せてきたポルシェも同様に、独自のSUVを開発・発売して大きな話題を読んだ。それが「カイエン」である。2002年に登場した初代モデルは、当時のフォルクスワーゲン・グループの共用プラットフォームをベースに開発された。その内外装の仕立てや走りの良さはまさにポルシェのDNAを受け継ぐもので、動的/静的質感が高いSUVとして大きな支持を得た。
もっとも、だからといって最初から完成度が高かったかといえば、そうでもなく、初代はまだその造りに手探り感が残っていたように感じたのも事実だ。2代目は動力性能の向上を図るとともに、量産車としては同社初となるハイブリッド仕様をラインナップに加えたりと「カイエン」としての個性や自信が強まったように見えた。また「カイエン」の成功により弟分として「マカン」が追加され、SUVラインナップの強化も図られている。
3代目「カイエン」が登場したのは2017年のこと。先代で確立した方向性を継承しつつ、さらに商品力を高める施策が取られた。そのひとつがクーペモデルの追加である。ポルシェは初代の導入時から「カイエン」は「新しい形のスポーツカー」と主張しており、実際にその運動性能は他のSUVから抜きん出ていたが、そのパフォーマンスにさらに磨きを掛けたのがクーペと言える。またそれまでのハイブリッドモデルが、外部充電も可能なプラグインハイブリッド(PHEV)となったことも大きな進化である。
昨年のマイナーチェンジでは、ヘッドライト周りがレーシングカーを含めた最近のシグネチャーとなっている4眼タイプに変更され、インテリアでもダッシュボード周りがタイカンらと同様のレイアウトとなった。この世代では特に車両のデジタル化が進んだのもトピックのひとつであり、先進安全運転支援機能(ADAS)等も強化されてますます商品力が高まった。今回はそんな装備等も最大限に盛り込まれたPHEVモデルの「カイエンEハイブリッド」を連れ出した。
従来型と同様、最新型「カイエン」もフォルクスワーゲン・グループのプラットフォームが用いられた。現行型に採用されるのはMLB Evoと呼ばれるそれで「カイエン」以外にもランボルギーニ「ウルス」やベントレー「ベンテイガ」に用いられるなど、実に汎用性が高い。加えてアウディの電動SUV「Q8 e-tron」も同じ車台を使用することからもわかるように、もともと電動化を視野に入れた設計だったため「カイエン」のPHEV化も順当な流れにあったと言えるだろう。
先述のように試乗車は3代目から設定されたプラグインハイブリッドモデルである。基本となるのは3LのV6ターボで、これに駆動用モーターとバッテリーを組み合わせたシステム合計での出力は471PS/650Nmという、同社の2ドアスポーツカーたちにもまったく引けを取らない値を標榜する。そのうえで外部充電が可能なバッテリーを搭載しており、モーター駆動のみの電動走行では最長90kmの航続距離を誇るというから、万能選手としての完成度が一層高まっている。
実際、その最新型「カイエン」を目の当たりにすると、全長4.9m超、全幅1.9m超の堂々としたサイズで、頼もしさに溢れる一台だと感じる。先のマイナーチェンジの際に行われた化粧直しによって、ヘッドライトやグリルがそれまでの丸みを帯びたものからしっかりと角のついたデザインに改められており、フラッグシップSUVらしい迫力が増した。
フロントシートに着いて室内を眺めると、多くの機能が配された特徴的な横長のモニターに目がいくいっぽうで、エアコンのオン・オフや温度調整、オーディオ、ハザードなど、使用頻度の多いものは物理スイッチを残すなど、これまでと変わらずドライバーオリエンデットな仕立てとなっているのが、“らしく”て嬉しい。
新しいレイアウトとなったダッシュパネルのメーター横のスタートスイッチを押すと「カイエン」は静かに目覚め、モニター横の小さなレバーを押し下げDレンジにいれてアクセルを踏み込めば静かに動きだす。つまりこのPHEVはeパワー(電動)でのスタートがデフォルトということ。モーター駆動の静けさのなかでの十二分の力強さ、頼もしさが感じられるのが実に「カイエン」らしい。その間、余計な上下動を伝えてこず、視線が一定のまましずしずと歩みを進められるのは、この新型から設定された2チャンバーのエアサスペンションのおかげに他ならない。
この新しい足が実にいい仕事をしてくれて、路面からの入力の大小にかかわらず、すべてを良い塩梅で丸め込んでくれる。つまりはそのラクシュリー性に磨きがかけられたということであり、速度を上げても様子は変わらず、フラットな姿勢を保ったまま矢のように突き進むことも「カイエン」にとっては容易い。
装備面でいえば、新しい“目”に内蔵されたHDマトリクスLEDヘッドライトが暗い夜道での見事な配光で不安を最小限に抑えてくれたし、アダプティブクルーズコントロールを始めとするADASのマナーも上々だった。これならば数百キロ先のアウトドアに出かけたとしても、まったく疲れ知れずのまま存分にアクティビティを楽しめるはずだ。
もちろんクルマそのもので楽しむことができるのが「カイエン」の真骨頂とも言える。先述のように、フラットな姿勢はどんなシチュエーションでも保たれているから、たとえばワインディングロードでも安心感のあるなかでこの巨体を自在に操れるのが楽しい。正確なステアリングと乱れぬ姿勢、どこからでも淀みなく湧き出してくるパワー、そしてそれを受け止める強力無比なブレーキ。それらすべてを最新型カイエンは兼ね備えているのだ。
もちろんSUVとしての備えも万全であり、ドライブモードをオフロードに設定し、その自在な足の動きを駆使してラフロードでの踏破性を体感してみるのもいい。しっかりと大地を踏みしめて確実に歩む所作と頼もしさに惚れ直すはずである。そんなオールマイティに使える安心感を備えるのが「カイエン」であり、ひいては全方位でポルシェらしさが味わえる一台なのだ。SUVブームに新風を吹き込んだ初代と同様、アクティブさに磨きを掛けた最新型もまた、間違いない選択のひとつといえる。
■AQ MOVIE
■関連情報
https://www.porsche.com/japan/jp/models/cayenne/cayenne-models/cayenne-e-hybrid/
文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦