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2024.09.02

電動化時代を軽やかに駆け抜けるハイブリッド・スーパースポーツ、マクラーレン「アルトゥーラ」

F1スピリッツを受け継ぐクルマ

現代の自動車開発における最優先事項は車両の電動化だ。その主な目的が二酸化炭素の削減にあるのは言うまでもなく、高性能を追求するスーパースポーツカーのカテゴリーにおいても避けられない流れである。実際、10年ほど前にいくつかのメーカーからハイブリッドシステムを搭載したハイパースポーツカーが限定的な形で発売され、2020年頃からは量産型プラグイン・ハイブリッド・スーパースポーツが現実のものとなり始めている。その中で注目すべき一台が、マクラーレン「アルトゥーラ」である。

マクラーレンといえば〝理論的〟や〝完璧主義〟といった言葉を思い浮かべるクルマ好きが多いだろう。その背景には、長きに渡るF1グランプリでの戦いぶりがある。可能な限り無駄を排除し、走りや速さの向上に全力を尽くす姿勢は、ライバルよりも顕著に現れているように見えた。象徴的なのは、1980年代末から90年代初頭にかけてのシーズンに、ホンダ・エンジンやアイルトン・セナとの強力なタッグで、F1での黄金期を築いたことだろう。

1992年に登場したスーパーカー、マクラーレン「F1」もまた、ブランドのアイコン的存在である。6LV型12気筒エンジン車体中央にバランス良く配置するための独創的な3シーターレイアウトは、レーシングカーとしての「F1」からインスパイアされたものであり、なによりドライビングパフォーマンスを追求した理想型と言えるだろう。そんな「マクラーレンF1」ロードカーが世界的に高い評価を得たことが、現在のロードカー部門、マクラーレン・オートモーティブの設立の足掛かりになったのは間違いない。つまりマクラーレンのクルマ作りは「F1」とともにあり、その伝統を受け継いで登場したのが「アルトゥーラ」である。

脱炭素に向けての取り組みはモーターレーシングの最高峰であるF1も例外ではなく、それまでずっと内燃機関のみを使ってきたF1マシーンは、2014年シーズンから1.6LV6ターボ+ハイブリッドのパワーユニットを採用。その流れを汲んだ「アルトゥーラ」は3LV6ツインターボに電気モーターを組み合わせたプラグイン・ハイブリッドを用いるのが特徴だ。このパワーユニットは最高出力680ps(500kW)、最大トルク720Nmを発生し、0-100km/h加速に要する時間は3.0秒、最高速は330km/hを標榜する。極限まで速さを追求するF1には及ばないものの、スーパースポーツカーと呼ぶにふさわしいハイパフォーマーである。

車体構成も間違いなくスーパースポーツのそれだ。〝マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー(MCLA)〟と呼ばれる基本骨格はもちろん、アウターパネルももちろんカーボンで構成される。フロントからリアにかけての流れるようなラインは、空力を極限まで追求して描かれたもの。車体を真横から見ると、運転席がホイールベースのほぼ中央に位置していることがわかるが、このことからも「アルトゥーラ」がバランスを最大限に考慮してデザインされたことが一目瞭然である。

至高のドライビングマシーン

マクラーレン独自の〝ディヘドラル〟ドアを跳ね上げると、シートが車体中央寄りに配置され、運転席と助手席のカップルディスタンスが近いことに気づく。それもやはり車体の中心部に重量物を配置しようという設計思想によるもの。室内に収まって感心するのは、コクピット周りがすっきりと機能的にデザインされているところだ。ステアリングには余計なスイッチが備わらず、純粋にクルマを操るためのホイールが備わるのみ。電子デバイスの切り替えスイッチはメーターフードに配され、ステアリングを握ったままでも操作が可能。運転に集中できる環境が整っているのが、ドライビング好きにはたまらない。

機能的なコクピットのセンターコンソールにある赤いスターターを押せば、ほとんど音もなくREADY状態となり、「アルトゥーラ」はいつでも出撃可能だ。そんな静かな立ち上がりが、新しいハイブリッド・マクラーレンの世界の始まりを告げる。「アルトゥーラ」はデフォルトが電動駆動モードとなっており、つまり始動時はエンジンの轟音は聞こえない。そのままアクセルを踏み込んでいっても、聞こえるのはワイドなピレリの「P ZERO」タイヤが小石を踏みつけ、巻き上げられたそれがインナーフェンダーにパチパチと当る音だけ。その静けさが却って凄みを感じさせる。

しかし、そこからの「アルトゥーラ」のマナーは実に洗練されている。一般的なEVと同様に、電動駆動時はアクセル操作に対するモーターの反応がリニアであり、ドライバーの意志どおりにパワーをコントロールできる。ピュアEVほど大量のバッテリーを積んでいないプラグイン・ハイブリッドであり、カーボンを多用した車体のおかげで車重は約1.4トンと電動車としては軽量なため、身のこなしが軽快なのが嬉しい。街中でも高速の追い越し加速でも、パワーフィールやフットワークが軽やかで滑らかゆえ、無理をする必要がなく自然と運転もスマートになる。

EVやハイブリッドの静かな電動走行モードとは対照的に、ドライブモードをエンジンメインに切り替えると、よりスーパースポーツらしい異次元の感覚が味わえる。決して派手な空力パーツが装着されているわけではないが、高速走行に入ればまさに路面に吸い付くような安定感が得られるのが良い。100km/h巡航くらいでも矢のように突き進んで気持ち良いことこのうえないが、夢中になってアクセルを踏み続けないように注意が必要だ。

路面追従性の高さはワインディングロードでも健在で、「アルトゥーラ」はべたっと路面に貼りついたままスイスイと向きが変えられる。重心が低いことが後押しとなっているは間違いないが、何より操舵やそれに合わせたサスペンションの動きなど、シャシー全般の無駄のない動きが、「アルトゥーラ」の正確無比なハンドリングに寄与している。これはマクラーレン全般に共通する美点であり、F1で培われてきた技術の結晶が走りのキャラクターに反映されている証左だろう。

プラグイン・ハイブリッドと言えども、電動や内燃機駆動の別なくパワーの湧出は力強く滑らかで、重心は低く、接地性は高く、もちろん空力も味方につけている。この絶妙なバランスが「アルトゥーラ」という次世代のハイブリッド・スーパースポーツを支えている。その卓越したパフォーマンスと極上のドライビングファンは、ステージを問わずに存分に楽しめるはずだ。

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https://cars.mclaren.com/jp-ja/artura

取材・文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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