ラグジュアリーカーブランドの代表格として、ベントレーは欠かせない存在だ。戦前からスポーツカーを手がけ、モータースポーツの世界でも華々しい戦績を収めて、世のクルマ好きを魅了してきた。〝ベントレーボーイズ〟と呼ばれるレーシングドライバーたちの活躍もあり、特にブランド草創期から戦後すぐにかけては、この世の春を謳歌していたと言っていいだろう。
そんなベントレーが改めて脚光を浴びたのは2003年のこと。新世代ベントレーを象徴するグランドツーリングカー「コンチネンタルGT」の登場である。豪奢かつスポーティーでマッシブなスタイルを備えたこのモデルは、フォルクスワーゲン・グループ傘下で技術・生産面において大きな飛躍を遂げ、往年のイメージを継承しつつ、現代的に再構築された。こうしてブランドは確固たる地位を築くこととなる。
2ドア4シーターのグランドツアラー「コンチネンタルGT」は、往年の名車「Rタイプ・コンチネンタル」を想起させるデザインを纏って生まれた。特にリアフェンダー周辺の造形には、その精神が色濃く息づいている。インテリアは、職人技が冴える大胆かつ繊細な仕上がりで、〝これぞラグジュアリーカー〟と評されるにふさわしい設えとなっている。
そんな印象的な「コンチネンタルGT」は、これまで3世代にわたりプロダクトコンセプトを継承しつつ、着実に進化。そして2024年、第4世代となる最新型の「コンチネンタルGT」が登場したのである。
最も目を引くのは、そのフロントフェイスだ。従来の丸目2灯から、1眼タイプのヘッドライトへと刷新され、さらにライト上部に一本のアイラインが入ることで、よりモダンな印象を醸し出している。この新しい顔つきは、2020年に発表された世界限定12台の特注モデル「バカラル」に通じるものであり、さらに遡れば2019年のブランド創業100周年を記念したコンセプトカー「EXP 100 GT」のデザインを具体化したものと言える。「EXP 100 GT」は、当時のベントレーが描いた近未来のグランドツアラー像であり、電動パワートレインやAIを活用したラグジュアリーカーとして発表された。そのビジョンの一端が、今回の新型に投影されたといういわけだ。
新型のボディサイズは全長4895×全幅1966×全高1397mm。先代とほぼ同等の寸法で、威風堂々たるプロポーションは健在である。ボディタイプは伝統的なクーペとオープントップの「GTC」の2種を用意、今回は後者の高性能モデル「コンチネンタルGTCスピード」を試した。
エクステリアは、ルーフの有無にかかわらず力強い造形が保たれており、フェンダーやテール部分には「Rタイプ・コンチネンタル」や「EXP 100 GT」の面影が色濃く残る。LEDによるマトリックスヘッドライトの3Dディテールや、精緻に仕立てられたグリルの格子、ダークティントのアクセントやバッジなど、細部からもベントレーの上質感が漂う。
今回の試乗が初見であるにも関わらず、操作系の把握に戸惑いは生まれなかった。その理由は、先代モデルのインテリアデザインが踏襲されていからだ。シンメトリーなダッシュボード中央には、回転式のローテーションディスプレイ・ユニットが収まり、ナビなどのインフォテインメントのほか、3連アナログダイヤルへの切り替えも可能。金属の塊から削り出したようなダイヤルやスイッチ類の質感も変わらず秀逸で、その精緻さにベントレーの美学が宿っているように思う。上質さや扱いやすい設えはドライバーを主役とした設計思想の証であり、グランドツアラーとしての矜持を感じさせる。
いよいよ、この新しいベントレーを走らせるときが来た。せっかくのハレのクルマだ。当然、ルーフは開け放ちたい。センターコンソールのルーフ開閉ボタンを引き続けると「コンチネンタルGTC」は約19秒でフルオープンへと姿を変えた。オープンカーに不慣れな者にとっては気恥ずかしさが生まれる時間かもしれないが、スタイリングの完成度の高さや開閉の丁寧な所作のおかげでドライバーにも自然と自信が宿り、クルマとの一体感が生まれる。グレーレザーにオレンジのパイピングを施した内装もまた、気分を高揚させる。
従来モデルであれば、この時点で響くのは、迫力のあるビートの効いたV8サウンドだった。しかし新型では、風の音や街のざわめきがダイレクトに耳に届いてくる。なぜなら、新型「コンチネンタルGT」シリーズは4ℓ V8ツインターボに高出力の電動モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムを採用しているから。つまり、スタート時は電動モーターのみで駆動するEVモードが基本となる。
音もなく滑るように動き出す様子こそ、現代のラグジュアリーカーにふさわしい所作。EVモードでは最高140km/hまで走行可能で、満充電でのEV走行距離は81kmを標榜する。市街地の一般道走行だけであれば、ほぼ電気のみで走行を完結できるだろう。そのうえで標準仕様は680PS/930Nm、高性能仕様の「スピード」に搭載される“ウルトラ パフォーマンス ハイブリッド”では、最高出力は782PS、最大トルクは1000Nmを発生するというから驚くよりほかない。そこにあるのは圧倒的余裕だけである。
新しいパワートレインを得た「コンチネンタルGTC」の底知れぬパワーを感じながら市街地を流すと、このクルマがただ者ではないことがすぐに伝わってくる。分厚い絨毯の上を往くような、滑らかさを伴う乗り心地が素晴らしい。それは何より、このモデルから備わった2チャンバーエアスプリングとデュアルバルブダンパーの組み合わせによるところが大きいはずだ。さらに48Vシステムを活用したアンチロール制御によって、絶妙なボディコントロールも実現。心地よい浮遊感を伴う極上の快適性を提供してくれる。
そんな見事な足さばきに感心しながらペースを上げて行っても、キャビン内の平穏は終始保たれたままだった。スポーツモードに切り替えれば、パワーユニットのレスポンスは鋭くなり、足回りは引き締まった印象へと変わっていくが、硬質かつ鋭いマナーは徹底的に排除されていて、ジェントルな振る舞いは一切崩れない。大柄な車体でありながら、ステアリング操作に対して俊敏に反応し、ドライバーとの一体感が増すばかりである。
さらに、高速道路を100km/h程度で巡航していても、キャビンでは心地よい風を感じながら落ち着いた時間を楽しめ、また一方では、ルーフを閉じれば7層構造のソフトトップがクーペと遜色ない遮音性を実現してくれるのも嬉しいところだ。静粛性や快適性において、この「コンチネンタルGTCスピード」に並ぶオープンモデルを見つけることはなかなか難しいかもしれない。それほどまでに高い完成度を誇る。
このクルマと接している間、パワー、乗り心地、走行性能、そして所作のすべてに、計り知れない余裕が息づいていると感じた。それこそが、新型「コンチネンタルGTCスピード」というドライバーズカーの真価と言えるだろう。旧き佳きベントレーの世界観を存分に味わいながら、未来のラグジュアリーを体感するに、これほどふさわしい一台は見当たらない。
■AQ MOVIE
■関連情報
https://www.bentleymotors.jp/models/continental-gtc/new-continental-gtc-speed/
文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦