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2024.06.29

比類なき威厳。ロールス・ロイス「スペクター」が体現するもの

そのクルマが音もなくスッと目の前に現れたとき、一歩二歩と思わず後ずさりしてしまった。車体の大きさはもちろん、これまで出合ったどのクルマにもなかったオーラのようなものを感じたからだ。そんな圧倒的な存在感を放つのがロールス・ロイス「スペクター」である。

1904年に創業したロールス・ロイスは、誰もが知る超高級車ブランド。いつの時代も真のセレブリティに向けて最高の素材と技術力を駆使し、高い信頼性を誇るモデルを展開してきた。そのクオリティは、自らのブランド力を知らしめるに十分で、絶えず最高品質を維持してきたことより、唯一無二の存在となった。

その最新作である「スペクター」の最大のトピックは、ロールス・ロイス初の市販ピュアEVであること。創業の頃から電動パワートレインの可能性は探られていたが、明確な形となったのが2011年に登場したコンセプトモデル「102EX」だ。当時の最新モデルである「ファントム」をベースとした「102EX」は結局のところ市販には至らなかったものの、その後、「103EX」といった新しい時代を担う動力源と独創性が融合したエクスペリメンタル(EX)モデルが登場している。だからこそ、この流れから発展した「スペクター」が市販されたことは驚きではなく、むしろ現実のものとなったことでロールス・ロイスの新たなチャプターの始まりである。

「スペクター」はロールス・ロイスの最新プラットフォーム〝アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー〟を基に作られている。これは現行型「ファントム」に用いられていることからもわかるとおり、大型サルーンにも対応可能なプラットフォームであり、動力源が内燃機から電動モーターとバッテリーに変わっても何ら問題はない。むしろ全長5.5m、全幅2mの2ドアクーペのベースとなったことで、その拡張性の高さが窺えるだろう。

内外装の仕立ても贅が尽くされている。とろりとした艶と深みを湛える塗装、深みのあるめっきの輝き、インテリアにふんだんに用いられるしっとりとしたレザーの質感とウッドの温もり、星空を想起させる〝スターライト・ヘッドライナー〟など、卓越した仕立ては他の高級車を凌駕する。ロールス・ロイスのほとんどのモデルが注文主の嗜好を反映させたビスポークの世界を体現しているから、その設えで他を圧倒するのも納得である。

そんな「スペクター」は独特の世界観を持つ。まず、ドアの開け方からして通常とは異なる。ドアノブは車体の前方、一般的なAピラーの付け根付近に配置され、センターピラー側を軸にドアが開くようになっている。スイッチによる自動開閉も可能で、その開口部から吸い込まれるようにシートに収まり、ことりとドアが閉まった瞬間からロールス・ロイスの世界が始まる。

運転席の眼前に広がるのはシンプルかつ繊細さを表現したメーターを映し出すモニター。スイッチ類は従来からのロールス・ロイスのレイアウトを踏襲し、伝統的に用いられてきたコラムシフトはレザー巻きの小ぶりなレバーのセレクターとなった。スターターを押せば、システムが立ち上がったことを示す電子音がかすかに聞こえるだけで、心地よい静寂が続く。レバーをDに入れてアクセラレーターを踏み込むと、3トン近くの巨体はこともなげに、静やかに動き出す。

現代のロールス・ロイス・モデルはパワースペックが公表されており、この「スペクター」もスーパースポーツカー並みの数値を叩き出していることに気づくが、実際はその圧倒的なパフォーマンスを殊更にアピールするわけではない。ドライビングのシチュエーションに応じて必要十分なパワーを粛々と発揮するに留まる。その電動モーターの特性は長年、ロールス・ロイスが内燃機関として用いてきた6.75ℓV型12気筒エンジンを彷彿とさせるもので、濃密でリッチなトルクがペダルひとつで自在に操れて、この巨体を自由に動かすことができる。その走りは同じようなスペックを誇るスーパースポーツカーとは異なり、独特の浮遊感をもって滑空するような印象だ。

指にしっとりと吸い付く握り心地のいいステアリングホイールを左右に切っても、車体が遅れて動くような鈍重さを覚えないのは、確実に制御されたエアスプリングとダンピング、そして後輪操舵のセッティングが適切に行なわれているから。そんなふうに思うままに操れるドライバビリティの高さを知るにつけ、〝人車一体〟という言葉が頭をよぎる。このクルマにはまったく似つかわしくない言葉だが、ステアリングもアクセルも、思いのままに動いてくれて操れるのが楽しい。

楽しさと同時に、「スペクター」には常に底の知れなさが漂い、クルマの手の内でドライバーが操られているような感覚も覚える。それは他のロールス・ロイス・モデルにも共通していることなのだが、特に「スペクター」ではその印象が強い。電動モーターという新しい動力源を得たことによって、ロールス・ロイスが表現するラグジュアリーの次元がまた新しいフェーズに入ったことが大きく影響しているに違いない。それを目の当たりにしたい向きは、ぜひとも「スペクター」のステアリングを握り、新たな次元を体感してほしい。ロールス・ロイスに対する畏怖の念はますます深まるだろう。

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■関連情報
https://www.rolls-roycemotorcars.com/ja_JP/showroom/spectre.html

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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