スポーツカーの代表的ブランドとして「エンジンの世紀」を駆け抜けてきたロータス。1970年代のスーパーカーブームを知る年代の人にとって、まさかそのロータスが近い将来、電動車専業メーカーの道を歩むことを宣言するとは……。だが世は「カーボンニュートラル」に向けて待ったなしの状態。世界中のメーカーがその新時代への橋渡し役となるモデルを考える中、ロータスが送り込んできたのは「ロータス最後のエンジン車」と言われる「エミーラ」だった。ロータスの最新のテクノロジーで熟成を極めたエンジンを搭載したスーパースポーツはどんな味わいだろうか?
世の中にスーパーカーという種類の自動車が存在することを知ったのは、1975年に発表された漫画『サーキットの狼』(作:池沢さとし/現:池沢早人師)からだった。性能もデザインも、そして価格までもが常識を超越した数々のスーパーカーを、ひと癖もふた癖もある登場人物たちが自在に乗り回す。そんなストーリーに、当時の子供達はもちろん、社会まで巻き込んで夢中になり、50年経過した今も語り継がれている「スーパーカーブーム」という社会現象を生み出した。
舞台は「公道グランプリ」。今では完全にアウトな状況設定を縦横無尽に駆け抜けていたのがランボルギーニ・カウンタックにフェラーリ512BB、ポルシェ911ターボやランチア・ストラトス……。そして主人公である風吹裕矢が愛機としてステアリングを握っていたのが「ロータス・ヨーロッパ(以下、ヨーロッパ)」だった。ライバルに比べれば、非力であり、価格も安く、車格も下。「ロータス・ヨーロッパはスーパーカーにあらず」という意見も一部にあった。確かにイギリスのスポーツカーメーカーだったロータス・カーズが自身初の“リーズナブルなミッドシップスポーツカー”として、1966年に発表した市販車がヨーロッパ。エンジンをミッドシップ搭載し、軽さとハンドリングを武器とした戦闘力は決して侮ってはいけなかった。同時にそのヨーロッパに主人公が乗ることで、スーパーカーブームを牽引する存在までになった。以来、日本でもロータスというブランドは間違いなく、スーパースポーツカーのひとつであり、確固たる地位にいる。
そんなロータスがここに来て、バッテリーEV(BEV)である「エレトレ」と言うクロスオーバーSUVを発表し、電動車専業メーカーの道を歩むことも宣言。そしてそれに先立ち「ロータス最後のエンジン車」と言われる「エミーラ」まで発表していた。いくら時代の流れとは言え「ついにこんな時代になったか」と、中年以上になったスーパーカー世代は思ったかもしれない。あのエグゾーストノートも、エンジンならでの心地いい加速フィールも、なによりも軽快なライトウエイスポーツの味わいも、これで終わりか……。多くのスポーツカーファン達は、こうしたノスタルジーを抱くかもしれない。
ところが、ロータスはこの車に「司令官」とか「リーダー」を意味する名称「Emira(エミーラ)」を与え、ロータスを変革するための「新世代製品群の旗手を担う第1弾」として投入。そこには「ロータスのエンジン搭載車としては最後のモデル」というショッキングなサブタイトルまで付いていた。
軽量を是とし、軽さこそ正義というライトウエイトスポーツを、電動化シフトの時代にどのように表現するのか? 果たしてエミーラはロータスの正義に適うのか? その答えを探すため、ドライブを開始した。
エンジンの世紀をスポーツカーの代表的ブランドとして駆け抜けてきたロータスが新時代への橋渡し役として開発した最新のエンジン車が「エミーラ」。イエローのペイントを纏ったボディ、その佇まいを見てまずは安心した。エキゾチックなスーパーカールックは確実に人目を引くだろう。細部に目をやれば、大幅なダウンフォースの発生させるようなパーツがしっかりと奢られていて、素直にすべてがかっこいい。
さっそく「エミーラV6ファーストエディション」に乗り込む。路面に手が届くほどのドライビングポジションはまごうことなきスーパースポーツだけの風景だ。後ろを振り向けば背後にはトヨタの遺伝子を受け継いだ3.5Lのスーパーチャージャー付きV型6気筒エンジン。その出力は405馬力で、十分に強烈なスペックだ。ちなみにこのエンジンの他にもエミーラには「メルセデスAMG A45」の365馬力、4気筒ターボエンジンと8速デュアルクラッチミッションを組み合わせた仕様もあり、価格は1661万円。
さっそくエンジンをスタートさせると思いの外、エンジン音はジェントリー。一呼吸置いて6速マニュアルミッションの1速にシフトして走り出す。まったく神経質な素振りも見せず、スッと走り出す。ここまでは何もかもが平穏で過激な素振りは見えない。
しかし徐々に速度を上げ、街角を回り、中速コーナーを駆け抜けると、ミッドシップミドエンジンスポーツカーらしく、ドライバーを中心にしてクルマの鼻先の方向が決まる心地いい感覚が全身に伝わってくる。もちろん前後のダブルウイッシュボーンサスペンションがワインディングで威力を発揮し、バターの表面を温めたナイフで切り込むような気持ち良さを伴って路面をなぞっていく感覚は快感そのもの。ロータスの特徴であるダイナミックなコーナリング性能はまったく失われていない。
1.4t少々というボディは「できればもう少し軽かったら」と、思いつつも、それでもモーターを使った電動車の力任せの走りとは違った、軽やかさを実現してくれる。なにより慣性重量が軽いと言うことは車の挙動でプラスに働く。加速も軽々、コーナリングはより安定し、ブレーキングもペダルタッチは抜群でスッと速度を制御可能だ。最近、重量級のBEVに乗る機会が増えたが、この軽々とした感覚を味わうと「軽さは正義」という車の本質について改めて考えさせられた。
この軽快感をサポートしてくれるのは、コクコクと心地よく決まっていく操作感の6速マニュアルミッションだ。モーターのシームレスな加速感にはない味わいシフトフィール。ノスタルジーと言われるだろうが、そこにはドライバーにとっての心地よい操作感が確実に存在していた。ロータス伝統の走りは、新世代モデル、エミーラにしっかりと継承されていたのだ。
そんな走りを楽しんだ後、エミーラのコンセプトのひとつ「これまでのどのモデルよりも日常的な使用に適している」という要件を思い出した。確かに走りだけに徹した車はもはや“前時代的”と言われるかもしれない。走りに快感とは別に、常に付き合う車としての気持ち良さを求める人は多いはずだ。その点においてもシート後方には208L、エンジンの後方には、ロータスには珍しいほど広めの151L、合わせて359Lの荷室スペースが用意されている。カップルでの一泊ドライブにも十分な実用性を備えているわけだ。
ひょっとするとこの日常生活にも寄り添ってくれる実用性とアグレッシブな走りの融合こそが、新世代のロータスらしさにとって重要な要素なのかもしれない。エミーラによってスーパースポーツカーのある新世代の生活を明確に見せ、そしてより時代性を持ったBEVモデル「エレトレ」などの電動モデルへと繋げていく。そんな流れが見えてきたわけだが、最後にエクスキューズをひとつ。実は「エミーラV6ファーストエディション」と「エミーラファーストエディション」は、新規オーダー受付を終了。「在庫車両については販売店へお問い合わせください」となっている。
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文/佐藤篤司