アメリカで乗用車が量産されるようになったのが、1900年代に入ってからなので、まだ120年ほどだが、その短い歴史の中で、唯一スポーツカーとして生き残っているのが、シボレー「コルベット」だ。GMの1ブランドであるシボレーが、初めて「コルベット」を発売したのが1953年。以来、モデルチェンジを受けながらも「コルベット」は2人乗りのスポーツカーとして生き続けてきた。今回試乗したのは、2020年に発表された8代目にあたるモデル。このモデルから「コルベット」は新しい時代へと突入した。
まず、ハンドルの位置が右になった。日本での販売台数は少ないが、右ハンドルを用意してくれた。エンジンがミッドシップになった。いずれも「コルベット」史上、初めてのことだ。とくにミッドシップ化は「コルベット」が本格的にモータースポーツの世界での活躍を目指していることを意味する。リアルスポーツカーへと変化した、と言ってよいだろう。
ミッドシップパワーユニットは、V型8気筒、OHV、6.15Lという、古きアメリカンマッスルを思い浮かべてしまいそうなガソリンエンジンを新たに設計し搭載している。最高出力502PS、最大トルク637Nmという数字だ。このエンジンが運転席の直後にある。変速機は8速ATで、後輪を駆動する。500馬力以上のミッドシップ、後輪駆動のスポーツカーは、どのような走りをするのだろうか。
ドアを開けて着座する。全高は1225mmしかない。国産車ではマツダ「ロードスター」が1245mmだが、それより低い。試乗車はクーペだったが、ルーフが開くコンバーチブルもある。着座位置は低いが、室内はヘッドスペースは狭くはなく、閉所感もない。しかも、右フェンダーの峰が見えるので、車幅感覚もつかみやすい。世界中のミッドシップスーパーカーの中で最も視界の良いクルマかもしれない。
8速ATのシフトは、センターコンソールのスイッチを押して、選択する。Dレンジボタンを押してからスタート。自然給気、6.15Lのエンジンは、1000回転あたりから太いトルクを体感させてくれる。街中では6速1300回転、60km/hなので、OHVエンジンは音も振動も皆無と言ってもいいほどだった。
高速道路に入っての100km/hの巡航も平穏そのもの。8速は1300回転、7速1500回転、6速でも2000回転でOHVエンジンはユルユルと回っている。車重は1.7t近いスポーツカーではあるが、太いトルクで走破するので迫力はある。EVのようにいきなりトルク全開で加速でするのではなく、アクセルを踏んでいくと、徐々に加速していく運転感覚の自然さに安心感のようなものをを感じた。
もちろん「コルベット」の実力は、まだ半分も発揮されてはいない。マニュアルモードを選択し、パドルレバーで1速から加速してみる。エンジン回転は5500回転からレッドゾーン表示なので、5000回転を目安に各ギアで引っぱってみた。1速40km/h、2速70km/h、3速100km/h、4速まで使うと140km/hに達する。エンジン音も4000回転を超えると爆音を周囲に轟かせるスーパースポーツの世界が待っている。