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2025.07.18

名門の系譜を再定義したアウディ「A5」進化の本質

老舗ブランドに共通するのは、ブランドを印象づけるスタイルを踏襲することにある。とりわけ自動車業界では、モデル名やクルマそのもののフェイスデザインがブランドの個性を語る。こうした〝様式美〟を強く印象づけてきたのが、ドイツのプレミアム御三家、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツだろう。いずれもアルファベットと数字を組み合わせたネーミングルールを採用し、車種のボディ形状やセグメントを体系的に表してきた。

アウディはそのスタイルの導入という意味では後発と言えるかもしれないが、モデル構成においては一貫したロジックを貫いてきた。その代表格が「A4」だろう。この中核車種は、かつての「80」の後継モデルとして1994年に登場して以来、30年近く同社の屋台骨を支え続けてきた。そしてこれを軸に、スポーツ志向の「S」や「RS」、SUVの「Q」、電動化を象徴する「e-tron」など多彩なシリーズを展開しつつ、数字でサイズやクラスを明快に示す手法を徹底してきた。

ブランドを形作る様式美

そんなアウディが、さらに深まっていくであろう電動化時代を見据えたラインナップ再編の一環として、A4とA5シリーズを統合し、新たに「A5」シリーズとして再出発させた。先代ではA4が4ドアセダン、A5が5ドアハッチバックという棲み分けだったが、今回の新型では両者が一本化され、セダンボディは3ボックスではなく、ノッチバックの5ドアへと刷新された。これに加え、従来どおりアバント(ワゴン)も用意される。

上級移行を後押しする要素

このモデルの骨格を成すのが、新開発の内燃エンジン車用プラットフォーム「PPC(プレミアム・プラットフォーム・コンバッション)」だ。アウディはすでに「Q4 e-tron」などBEVを積極展開する一方で、内燃機関の高度化にも手を抜かない。この柔軟性は、同社の技術哲学〝Vorsprung durch Technik(技術による先進)〟の具現といえるだろう。新型A5は先代比でホイールベースが延長され、ボディサイズもひと回り拡大。より広く、安全で快適な車内空間を実現している点からも、このモデルが明らかに上級移行したことがうかがえる。

装備面もその進化を裏付ける。とりわけ注目すべきは、デジタル装備の充実ぶりだ。運転席まわりでは11.9インチの「バーチャルコックピットプラス」に加え、センターコンソールには14.5インチの有機EL(OLED)MMIタッチディスプレイを配置。さらに助手席前にも10.9インチのMMIパッセンジャーディスプレイを備え、車内全体がパノラミックなデジタル空間と化している。加えて、Bang & Olufsen製3Dプレミアムサウンドシステムや、新採用のスマートパノラマガラスルーフ(液晶フィルムにより透過率を可変)など、ラグジュアリーセグメント顔負けの装備が与えられた。

安全・快適性の面では、マトリクスLEDヘッドライトやデジタルデイタイムランニングライト、ダイナミックターンインディケーター、リアのLEDコンビネーションライトなどが標準化され、照射範囲の拡大によって被視認性を向上。点灯パターンのカスタマイズも可能となっており、機能と個性を両立している。もちろん、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を中心とした先進運転支援システム群も網羅される。

パワートレインは多彩で、2L直4ガソリンターボ(150PS/280Nm)を搭載したベーシックな「A5 TFSI 110kW」を筆頭に、204PS/340Nmの「A5 TFSI quattro 150kW」、204PS/400Nmを発生する2Lディーゼルターボ「A5 TDI quattro 150kW」、さらに3LV6ガソリンターボ(367PS/550Nm)を積む「S5」まで、計4種がラインナップされる。ドライブトレインはベースモデルのみ前輪駆動(FWD)+7速Sトロニックで、それ以外はすべて7速Sトロニック+クワトロ(4WD)の組み合わせ。なお、ディーゼルのTDIモデルおよびS5/S5アバントにはマイルドハイブリッドシステムも搭載される。

軽快と重厚の両立

今回試乗できたのは、2L直4ガソリンターボを搭載した「A5 TFSI quattro 150kW」のセダンだ。数値上でも進化は明白だが、実車に接してまず感じたのは、堂々たる佇まいだ。先代A5もクーペスタイルのセダンとして完成度が高かったが、新型ではよりワイド&ローのプロポーションが際立つ。Dセグメントに分類されるが、そのサイズ感や雰囲気は、もはやEセグメントの「A6」に近い。A6が正統派セダンとして存在感を放つ一方、弟分のA5が5ドアクーペ的なカジュアルさとスタイリッシュさを手に入れたのは、時代の流れにも合致するのではないだろうか。

コクピットに収まってみると、3枚のモニターが横一列に並ぶレイアウトは未来的で視認性も高い。昨今の流行ではあるが、アウディの設計はとりわけシームレスで操作系も洗練されている。助手席前のモニターも含め、メルセデス・ベンツCクラスやBMW 3シリーズより先進的と感じられるのは確かで、ブランドが掲げる技術優位の哲学が形になっている。

ドライバビリティも注目すべきポイントだ。今回試乗した150kW仕様の2LTFSIエンジンは基本的にキャリーオーバーながら、十分なトルクとスムーズなレスポンスを発揮。加速時には7速Sトロニックとの組み合わせで軽快なダッシュを見せる。一方で、乗り味は想像以上に重厚だ。新プラットフォームによってさらにトレッドが広がり、スタンスも安定しているうえ、クワトロが路面を確実に捉えることで、上級車に近い乗り心地を実現している。

とはいえ、すべてが手放しで絶賛というわけではない。試乗車はオプションの20インチタイヤを装着しており、これが思いのほか足元に影響を与えており、段差や轍の乗り越えでは多少の突き上げを感じた点は否めない。タイヤの外径や重量の差はその走りっぷりには少なからぬ影響を及ぼすから、ベーシック仕様の標準である17インチではまた印象が異なるだろう。

ともあれ、新型A5の全体としての印象は、“4”から“5”へと格上げされたことに確かな説得力を持っていた、というところである。装備、質感、走り、そしてユーティリティのすべてが進化し、ブランドの新たな基幹車種としてふさわしい完成度を誇っていたからだ。マーケティング的なラインナップの整理を超えた、真のプロダクトシフトがここにある。アウディの新章は、確実に始まったと言えるだろう。

■関連情報
https://www.audi.co.jp/ja/models/a5/a5_sedan/

取材・文/桐畑恒治 撮影/編集部 写真提供/アウディジャパン

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