Menu
  • Top
  • Cars
  • SUV全盛の時代に抗う清廉なワゴン、フォルクスワーゲン「パサート」の進化
Cars
2025.04.30

SUV全盛の時代に抗う清廉なワゴン、フォルクスワーゲン「パサート」の進化

 
世の中の潮流がSUVへと移る一方、かつて花形だったステーションワゴンは、今や市場の片隅へと追いやられている。しかし、すべてが消えたわけではない。むしろ、本当に必要なものが選ばれる今だからこそ、ワゴンの真価が際立つはずだ。フォルクスワーゲン「パサート」はその象徴と言えるだろう。新型ではセダンを排してワゴン専用ボディのみに絞り込まれた。SUVの波に背を向け、独自の道を歩む。その決断に、確かな矜持を感じる。

ワゴンの伸びやかさを極める

新型「パサート」は2024年、9代目へとフルモデルチェンジを果たした。プラットフォームは、フォルクスワーゲンの最新内燃車用「MQB evo」をチョイス。ボディサイズは全長4915mm、全幅1850mm、全高1500mmと、ひと回り大きくなった。とはいえ、メルセデス・ベンツなら「Cクラス」と「Eクラス」、BMWであれば「3シリーズ」と「5シリーズ」の中間程度という絶妙なスケール感で、持て余す心配はない。何より、ワゴン専用となったことで、伸びやかかつ優雅なスタイリングが際立った。装飾を極力排したクリーンな造形も好印象で、パサートらしい方正さに華やかさが加わった。

インテリアも同様に、清潔感と先進性にあふれている。ダッシュボード中央には存在感たっぷりの15インチ大型ディスプレイを配置。ここにほぼすべての機能が集約され、ミニマルな操作性と視認性を実現している。その右隣にはメーター用の10.25インチのTFT液晶ディスプレイが備わり、メーター情報を任意にカスタマイズできる。シートはサイズやホールド感も十分だ。新しいプラットフォームを得てホイールベースが50mm延長された恩恵で、後席足元スペースは余裕が増した。センターコンソールや前後席周りの収納も充実しており、実用車として一切の手抜きがない。

荷室は驚くほど広く、690L(通常時)から最大1920L(後席格納時)へと拡張可能。床面はフラットで、側壁も直立しているため、キャリーバッグやクーラーボックスが無理なくきっちり積み込める。床面にはアタッチメント用の固定ポイントがあり、キャンプギアや自転車の積載・固定も容易だ。荷物の出し入れのしやすさという点においても、SUVに比べてワゴンが優位に立つだろう。

基本ラインナップは、ガソリンエンジンをベースとしたマイルドハイブリッドとプラグインハイブリッド、そしてディーゼルターボの合計3種で、それぞれ装備違いのグレードが用意される。駆動方式はディーゼルのみ4WD、他はすべてFWDとなる。

清廉なる走りの質感

今回試乗したのは、1.5L直列4気筒ターボ+マイルドハイブリッドの「eTSI」。最高出力150PS、最大トルク250Nmと控えめなスペックにも思えるが、いざ走り出すと、そのフットワークは実に軽やかだった。新型「パサート」に触れて最初に気づくのは、この大きさでも十分に扱いやすいということ。運転席からの見晴らしは良好で、前方向はもちろん、Dピラーまで目一杯広げられたサイドガラスのおかげで、左右後方の視界も広く死角が少ない。巻き込み確認や車線変更も自然にでき、追い越しもストレスフリーだ。先進運転支援システム(ADAS)も充実しており、その制御は緻密で安心感が高い。車間維持も、車線補正も、自動ブレーキも、あくまで自然な介入にとどまり、ドライバーの感覚を邪魔しない。

特に高速道路での振る舞いは、新型のパサートらしさが際立つ。長いホイールベースとワイドなスタンス、そして低重心による直進安定性は抜群で、重厚なドイツ車の質感を湛えながら、軽快感が備わっているのが新しい。たとえば横風などに対しても、背の高いSUVのように影響を受けにくいのもいい。

舞台をワインディグや街中に移しても、ステアリング操作に対する応答性はナチュラルで、ラゲッジスペースを背負っているとは思えないほど、ボディの動きに無駄がない。どこまでも走って行きたくなるような、そんな一体感が得られるのだ。

軽やかに吹け上がるエンジン特性、マイルドハイブリッドシステムによるモーターアシストの利きのよさ、ツインクラッチギアボックスの小気味よい変速が、爽快な走りを後押ししている。1.5Lモデルでこうなのだから、ディーゼルやプラグインハイブリッドなら、さらにトルキーなフィールを楽しめるだろう。

乗り心地もまた秀逸だ。可変ダンパー付きの足回りは新型でさらに進化し、入力の吸収や姿勢制御の緻密さが際立っていた。路面の細かな凹凸をしなやかに受け止め、ボディを無駄なくフラットに保つ。余計な衝撃を乗員に伝えないその落ち着いた乗り味は、プレミアムブランドのモデルと比しても遜色ないレベルに達している。

かつて「パサート」は、「ゴルフ」からの乗り換えを想定した“あがりの一台”として中高年層に支持されてきたが、新型はその印象を大きく覆す仕上がりだった。実用性の高さはそのままに、フラッグシップに求められる品格を保ちながら、アクティブなライフスタイルにも応える柔軟性を獲得した。それが、新型パサートの本質と言えるだろう。セダンともSUVとも異なる、このフォーマルかつ自由なスタイルの新型パサートに身を委ねれば、きっと新たな世界が見えてくるはずだ。

■関連情報
https://www.volkswagen.co.jp/ja/models/passat.html

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

Share

Recommended

Ranking

AQ Lounge

『AQ』は、ラグジュアリーなクルマのある暮らしを愉しむ、知的でアクティブな富裕層のためのWEBメディア。
 
「AQ」会員に登録すると、プレゼント応募情報の一覧、プレミアムな会員限定イベント、ブランドのエクスクルーシブアイテムの紹介など、特別なコンテンツ情報をメールマガジンでお届け致します。更に『AQ』のタブロイドマガジンのご案内もあり、送付手数料のみをご負担いただくことでお手元で『AQ』をお楽しみいただけます。
登録は無料です。