東京から新幹線と在来線で約1時間半。群馬県前橋市に、滞在そのものを楽しめる白井屋ホテルがある。このホテルの再生を手掛けたJINSの代表取締役CEOの田中仁さんに白井屋ホテルの魅力と、ビジネスパーソンにとってホテルがなぜ重要なのかを伺った。
※本記事は雑誌「DIME」12月号から抜粋しています。
田中仁さんジンズホールディングス
代表取締役CEO
田中仁さん
1963年、群馬県前橋市生まれ。1988年に有限会社ジェイアイエヌ(現:株式会社ジンズホールディングス)を設立し、2001年にアイウエア事業「JINS」を開業。2013年、東京証券取引所第一部に上場を果たす。一方で、2014年に地元群馬県に「田中仁財団」を設立し、地域活性化活動に取り組む。
群馬県・前橋駅から徒歩圏内の目抜き通りに面した場所に、一際目を引くホテルが佇む。その名は『白井屋ホテル/SHIROIYA HOTEL』。もとは江戸時代より300年余り続いた老舗旅館が「五感を刺激するインスピレーションに満ちたアートホテル」に再生され、注目を集めている。この事業をライフワークとして手掛けたのが、メガネ販売チェーン『JINS』の創業者、田中仁さんだ。
「白井屋ホテルは、建築・デザイン・アート・食に力を入れています。いずれも五感に響き、心地よい空間を生み出すために不可欠なものですが、アートにはさらに特別な力があります。アートは、多くの人にとって非日常の世界です。未知の作品に向き合い、作者の気持ちに思いを巡らせる。そこで受ける刺激をきっかけに、ビジネスパーソンなら新たな思考やアイデアが生まれたりするんですよ」
世界的クリエイターの作品を多数揃える館内では、客室、廊下、エレベーターなど、どこにいてもアートに包まれる。田中さんのイチ押しは、4階分の床と天井をぶち抜いた吹き抜けに、コンクリートむき出しの梁が印象的なラウンジだ。
「特に夜9時以降です。吹き抜けの空間に目をやると、レアンドロ・エルリッヒの『ライティング・パイプ』が幻想的な光を放っています。お酒を片手に、ただぼーっと眺めているだけで、心が静まり、新たなインスピレーションが湧いてくるものです」
ホテルといえばビジネスや日常の疲れをとる場で、心身の癒やしを求める人も少なくないだろう。だが田中さんにとってのホテルのあり方はちょっと異なる。
「単にホテルで休息して終わりではありません。同時にエネルギーを充電する場と捉えています。そのために刺激が必要なんですよね」
東京都内に住みながら、アイデアに行き詰まった時などに都内のホテルに泊まるという田中さん。
「環境を変えれば必然的に意識は変わるもの。気分のスイッチを切り替えるためにホテルに行くわけです。ホテルをビジネスや観光の拠点とするのが主流ですが、ホテルを目的地としてそこで過ごす時間を大切にするのもひとつのスタイルだと思います」
では、田中さんはホテルでどのように過ごしているのか。
「部屋でゆっくりすることが多いですね。本を読んだり、仕事をしたり、ただのんびりしたりと。だからこそ、ホテル選びでは部屋のクオリティーを何より重視します」
部屋で過ごすだけではもったいない……と思いきや、そこには秘密が隠されていた。
「人はひとりでいる時こそ集中し、アイデアなどが浮かびやすいと、JINSの研究でもわかっています。ホテルの部屋で過ごす時間もこれに当てはまるでしょう」
田中さんが起業当初、服飾雑貨の製造・販売を主軸としていた中でメガネ商材に可能性を見いだしたのも、同事業を革新できたのも、すべて国内外への旅が起点だったという。旅とセットのホテルでの価値ある時間が、JINSの成長の礎になっているのだ。
「部屋で会社や仕事を振り返り、今の自分を見つめ直す。そんなふうに、ホテルに滞在する時間を使ってみてもいいかもしれません。そう考えると、ホテルにはひとりで出かけるのが理想ですね。家族や友人と一緒の旅とはまた違うよさがあると思います」
ホテルで過ごす時間は、心に新たな風を吹き込む。
外資系ホテルの進出が相次ぎ、選択肢が豊富になった今、ホテルステイがますます楽しくなっている。今回、ビジネスホテルから心躍るラグジュアリーホテルまで、ビジネスパーソンにおすすめの都心部のホテルを厳選してご紹介。どれもアクセスは抜群で、海や山に行かずとも、休息はもちろん新しい刺激が得られ、ホテルそのものを思い切り楽しめる場所ばかり。週末のプチ贅沢やご褒美ステイに、最高のホテル体験の入り口がここに。