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2024.10.20

ジブン好みの1台を造る歓びとは?シンガーが手がける究極のポルシェ「911」

自動車愛好家にとって、理想のクルマとはどのようなものだろう。ヒストリックモデルなら、オリジナル状態を尊重しながらクルマを再生するレストアの段階で自身の意見を盛り込み、好みの一台を作り上げるという選択肢がある。新車の場合は、メーカーのラインナップにあるモデルに必要なオプション装備を組み合わせ、オーダーメイドプログラムを利用して内外装を好みに仕上げることができる。これが最も手軽で、現実的だ。

また一方では、ハイブランドが特別な顧客のために提供するフオーリセリエ(一品製作)をオーダーするのが理想的だが、これは非常にハードルが高く、多くの人にとっては夢のまた夢である。しかし、その夢に近い形で理想の一台を作り上げてくれるブランドが日本でも展開され始めた。それが、シンガー・ヴィークル・デザイン(以下、シンガー)の進出だ。

シンガーはポルシェ「911」の「レストモッド」に特化したスペシャリストである。レストモッドとは古いクルマを蘇らせるレストアだけでなく、現代の使用環境にあった改良(モディファイ)を施して、オーナー好みの1台に仕上げる手法のこと。シンガーは2009年の創業から「911」のレストモッドに取り組み、そのセンスの良さとクオリティの高さで、世界中のセレブリティから多くの支持を集めている。

そのシンガーが、高級輸入車の販売等を手がける老舗、コーンズ ・モータースによって日本でも扱われることとなった。ここに至ったのは一切の妥協なきハイレベルなクオリティのレストモッドを手がけるシンガーと、クルマの楽しさを紹介することを第一義に考えるコーンズの姿勢が合致したからだ。コーンズは、これまでの高級スポーツカーとはまた一味違う、魅力あふれるシンガーを日本に紹介することも彼らの使命と感じているという。これを機にシンガーに触れる機会が与えられたというわけである。

シンガーのクルマ作りは、まず顧客がレストモッドのベースとなる964型ポルシェ「911」を用意するところから始まる。その車両を元に、オーナーの好みを応じたスペシャルな「911」をシンガーが仕上げていくのだ。ベース車両が964型に限られているのは、このモデルが現代的なモノコックボディや足回りを持ちながらも「911」らしさを色濃く残しており、流通量も多く比較的手に入りやすいという理由から。そのうえで、技術提携を結んでいるボッシュやミシュラン、BBS、リカルドといった自動車関連の世界的企業の協力と、シンガーそのものの技術力を結集したレストモッドが行われるのである。

もっとも、実際にドナーカーから利用されるのはスチールボディの基本骨格部分とエンジンブロックくらいで、それを徹底的にレストアして基礎部分を作りあげ、カーボン製のボディパネルなどを組み合わせて仕上げられるが、その過程のほとんどがオーダーメイドというわけである。今回はそれらを経て完成した「クラシック・ターボ」と「DLSターボ」という2台のシンガーが、コーンズのカスタマーや一部のメディア向けに試乗用(同乗含む)として提供された。これらは英国で行われたイベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で2022年にクラシック・ターボが、翌23年にはDLSターボが紹介されていたからご記憶のかたも多いかと思う。

こだわり抜かれた新生「911」

そこでも大きな注目を集めたという2台のシンガー。それはなによりそれぞれの完成度が異常なほど高いからに他ならない。まず、白地にグリーンのアクセントが与えられたクラシック・ターボは、964型をベースとしながらも外観はそのひと世代前の「930ターボ」のスタイリングを纏っているのが特徴だ。パワートレインは、ドナーカーの空冷ユニットをベースに排気量を3.8Lまで拡大し、可変ジオメトリーのツインターボチャージャーなどで武装した水平対向6気筒を搭載。パワーは510ps以上を発生する。

もちろん単純なスープアップとターボ化だけでなく、隅々まで手が入れられているのは言うまでもなく、シンガーの一台一台はそれぞれ、オーナーの好みが事細かに反映されているため、ひとつとして同じ個体はないと言っていい。言い方を変えれば(シンガーの製作信条に反しさえしなければ)いかようでも作れるため、ディメンション等の詳細は公表されていない。

もっとも、だからと言ってこのシンガー・クラシック・ターボが、かつての「930ターボ」と比べてもサイズ感等で大きくは違わない。レンズカットのないヘッドライトや、細かな部分がスムージングされたボディパネルなどに現代的要素が感じられる一方で、懐かしい形状のレバーを握って開けるドアの操作感や、その先に広がる室内のレイアウトや雰囲気は「930」時代のポルシェそのもの。

ただし、用いられる素材や機器類は最新のものであり、さらにそれが見事に調和して車内に収まっていることに思わず唸る。スイッチ類に触れたときの剛性感の高さは、当時モノとも最新の市販車とも異なる高品質感が漂う。これこそシンガーがこだわりの抜いた、彼ら再構築した「911」の新たな世界観だろう。

圧倒的なクオリティ

左手奥の伝統的な位置にあるシリンダーにキーを差し込んで右に捻ると、独特のリズミカルなフラットシックス・サウンドが響き渡った。それなりの踏力が必要なペダルを踏み込んでクラッチをつなぐと、そのとてつもなく太いトルクを路面にしっかりと伝えながら、クラシック・ターボはするすると歩みを進める。蹴り出しの重厚さや滑らかな転がり感はさすが現代のレベルで調律されていて精緻ささえ感じられる。

そんな感触を堪能しながら今度はしっかりとアクセルを踏み込んでみると、クラシック・ターボはかつての「930」のようなターボラグを見せることなく、リアに履いた極太のミシュランで路面を掻き毟るかのように強烈な加速を始めた。その力強さはポルシェ・ターボのフィールを彷彿とさせるが、そこに当時モノのような不安感は微塵も感じられない。前後のタイヤともにガッチリ路面を捉えているのが印象的だ。

試乗の舞台となった「THE MAGARIGAWA CLUB」は、地形を大胆に生かした高低差の大きいテクニカルな会員制サーキットとして名高いが、クラシック・ターボは勾配のキツいセクションやカントのついたタイトコーナーなどをものともせず、曖昧さがなくしっかりとしたロードインフォメーションを伝えてくる正確なステアリングや、路面に張り付くようなとてつもないトラクションで、轟然とした加速と旋回を続けてくれる。その安定感の高さや動きの正確さには圧倒されんばかりで、与えられたラップはあっという間に終了してしまった。

そんな世界観は続いて同乗試乗したDLSターボでも存分に味わえた。こちらは見るからにレーシングカー然としたスタイルを纏っており、その姿は往年の934/5のよう。つまりは顧客の要望とあればシンガーはこのようなスタイルに仕上げるのもお手の物というわけだ。こちらのパワーユニットにはさらに手が加わっており、シリンダーヘッドは4バルブのタイプに変更され、9000rpm以上で700psを発生。

そしてそれがシンガーのテストドライバー氏にかかると、空恐ろしいまでのパフォーマンスを発揮してくれる。加速や減速時にかかるGは、筆者がいままで味わったこのとないレベルのものであり、その時でも車体が乱れるそぶりは一切なし。常にオン・ザ・レール感覚でこのコースを攻略していく様は、まさにレーシングカーそのものだ。

そのパフォーマンスを存分に引き出せるかどうかはともかく、かつてのレーシングフィールドで名を馳せた934/5と同等のレベルにあるだろうマシーンを、自分のモノとして楽しめるかと思うとゾクゾクすることは間違いない。先に試乗したクラシック・ターボもそうだが、幼い頃に夢みた憧れのポルシェを完璧な状態で楽しめる、それを叶えてくれるのがシンガーというスペシャリストなのである。ポルシェに憧れ続けた人はもちろん、現代のクルマとはまたひと味もふた味も異なる高次元でのドライビング体験が味わえる。そんな究極の一台を作る楽しみ、手にする楽しみ、操る楽しみがここ日本でも得られる体制が整った。まずはそのことを大いに喜びたい。

■関連情報
https://singervehicledesign.com/ja/

取材・文/桐畑恒治 撮影/宮門政行

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