SLとはドイツ語で軽量スポーツカーを意味する「Sport Leicht (シュポルト・ライヒト)」の頭文字に由来する車名。そんなSLに乗るということは、エレガンスを身に纏うことだと思ったのは1954年に初代が誕生したSL カブリオレを見てからだろうか。2代目SL以降もその感覚は大きく変わらなかったが、途中でエレガントさの要であると思っていたソフトトップが消えていた。しかし現行モデルの7代目、メルセデスAMG・SLはソフトトップを復活させてデビュー。新型たる最先端の技術はもとよりだが、新しさと古さを融合させた新しいエレガンスに触れるため、まずはエンジンをスタートさせてみた。
「フランス語の名詞はすべて男性名詞と女性名詞に分かれ、車は女性名詞だから兄弟車ではなく、姉妹車と呼ぶのが正解だし、それ故、エレガントという表現も似合うもの」。そんな話をしながら故・徳大寺有恒さん(以下、徳さん)と試乗会場に向かうときのこと、我々を1台の真っ白なR129型4代目メルセデス・ベンツSL(以下、SL)が抜き去っていった。
「やっぱりオープンはソフトトップが似合うね」と徳さん。確かこの時、SLの弟分、いやここでは妹たるSLK(現在のSLCクラス)が、すでに「バリオルーフ」という折りたたみ式のハードトップをメルセデス車としては初めて採用。クーペカブリオレとも言われて、その作動時間の早さや耐候性の良さが話題となっていた。
そんな折であっても徳さんは、オープンのエレガンスはソフトトップだからこそ表現できるもの、とよく話していた。30秒以内でオープンからクーペへと早変わりするバリオルーフ(電動格納式ハードトップ)のメカニズムに対して評価を与えながらも、「オープン本来の魅力はそこだけにあらず」と言っていた。
確かにどんなオープンカーであっても、屋根が開き、季節ごとの陽光と風と匂いと音をダイレクトに感じることに置いては平等である。しかしながらオープンカーとしての魅力的な佇まいを言うのであれば、機能的すぎるのもまた正解ではないのかもしれない。そして徳さんは「屋根を開けているときなど、それほど快適なものではない。いやむしろ埃で汚れるし、太陽の光は存外熱いものだし、うるさいし……」と。冷静に考えれば1年のうちでオープンカーがオープンカーとして機能できる時間は、それほど長くはないもの。
「だからこそ、ルーフを閉じているときの佇まいが大切であり、なおかつエレガントでなければいけない」ということなのだ。以来、私も「オープンにはソフトトップこそふさわしい」と考えるようになった。
ところがSLは、2001年に登場する5代目モデルよりバリオルーフを採用し、メインマーケットであるアメリカはもちろんのこと、世界中で売れ、商業的に成功を収めるのである。そして当然であるかのように先代モデルの6代目SLも、バリオルーフを受け継いだ。もはやオープンのエレガンスを表現するならソフトトップは必須条件、というのは前時代的な感覚なのだろうか?
わずかに生じた不安という亀裂を埋めてくれたのは、2021年に登場した現行の7代目SLだった。メルセデス・ベンツにとってはハイパフォーマンスカーを扱うサブブランド、メルセデスAMGにはなっていたがロングノーズ&ショートデッキという称だから受け継がれた基本フォルムはそのままに、ソフトトップを復活させてデビューしてきたのだ。