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2025.02.07

アストンマーティンがハイパーカー「ヴァルキリー」で挑むサーキットでの新たな戦い

アストンマーティンがハイパーカーValkyrie(ヴァルキリー)を公開し、輝かしいレース史の新たな心躍る章が幕を開ける。英国のウルトラ・ラグジュアリー・パフォーマンスカー・ブランドがル・マン24時間レース総合優勝を目指し、公道から生まれたピュアなレーシングカーとともに耐久レースの最高峰に還ってくる。公道仕様のハイパーカーを基礎とする唯一のレーシングカーであるヴァルキリーは、FIAのハイパーカー・レギュレーションに従った最初のレーシングカーで、FIA世界耐久選手権(WEC)と米国を主戦場とするIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権(IMSA)の両方に参戦する。2025年のWEC開幕戦となる2月28日のカタール1812kmに、ワークスチームのアストンマーティンHeart of Racingチームが2台のヴァルキリーを投入し、世界的レースのデビューを飾る。アストンマーティン・ラゴンダの最高経営責任者(CEO)エイドリアン・ホールマーク氏は、次のように述べている。

「これはアストンマーティンにとって誇るべき瞬間です。ル・マン24時間レースに復帰して総合優勝を目指して戦うことは、私たちの核となる価値観であり、当社のモータースポーツのヘリテージにおける重要なマイルストーンです。公道から生まれた唯一のハイパーカーとして、WECとIMSAというスポーツカーレースの最高峰に挑戦するヴァルキリーは、私たちの不変のスポーツ精神を体現するもので、100年以上にわたってブランドを定義しています」

ル・マンのドライバーラインアップは全て英国人

ル・マン24時間レースのアストンマーティンで最も新しいクラス優勝者である英国人ハリー・ティンクネル選手は、同じ英国出身で耐久レース界の新星トム・ギャンブル選手とともに、WECでフルシーズン、007号車のヴァルキリーのハンドルを握る。一方、姉妹車の009号車は、FIA GT世界選手権3冠のマルコ・ソーレンセン選手(デンマーク)とWEC LMGT3クラス優勝者のアレックス・リベラス選手(スペイン)がドライバーとなる。

IMSAでは、2024年のIMSA GTD Pro選手権に参戦したロス・ガン選手(英国)と、2022年のGTDクラス優勝者のロマン・デ・アンジェリス選手(カナダ)が、GTPクラスでアストンマーティン チームの単独エントリーとして23号車のドライバーを担当。ガン選手とデ・アンジェリス選手の2人は、WECにも参戦し、ル・マンには3人のドライバーが組んで参戦する。ガン選手がティンクネル選手とギャンブル選手とともにヴァルキリー007のハンドルを握り、6月14日~15日のレースを英国人ドライバーのみで戦うことになる。ヴァルキリーファクトリーチームのレースは、WECとIMSAの両シリーズともHeart of Racingが指揮。このチームは、以前はアストンマーティンヴァンテージ GT3で両シリーズに参戦していた。チーム代表のイアン・ジェームズ氏は、次のように語る。

「スポーツカーレースに携わってきた者にとって、アストンマーティンという最高の車、しかも世界で最も美しい車のひとつとして認知されており、唯一、ロードカーの血統を継ぐ車を走らせることは本当に名誉なことです。このプログラムを任されることは、私のキャリアの中で最高の経験です」

サーキット用に開発された究極の公道走行可能なハイパーカー

アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズとHeart of Racingが開発した新型車は、世界耐久レースのハイパーカーのトップディビジョンにおける唯一無二の存在。既存の量産型の究極のパフォーマンスカー、究極のハイパーカーであるヴァルキリーをルーツに持つのはこの車両だけ。アストンマーティンの耐久モータースポーツ責任者のアダム・カーター氏は、以下のように話している。

「ヴァルキリーは単なるハイパーカーではありません。自動車技術史の革命であり、パフォーマンス、デザイン、イノベーションの頂点に立つ車です。F1のテクノロジーと公道車の熟練の技の奇跡的な融合であるヴァルキリーは、真のレーシングカーです。最高峰の世界耐久レース参戦により、その高い技術がさらに確かなものになるでしょう」

ハイパーカーのレギュレーションに従うことにより、このレースカーは公道車と多くの点でDNAを共有する。その心臓部は同じV12パワーユニットとなる。ヴァルキリーは、レース用に最適化したカーボンファイバー製のシャシーを用い、標準仕様で最高回転数11,000rpm、最高出力は1,013PSを超える驚異的なコスワース製自然吸気6.5リッターV12エンジンのリーンバーン版を搭載。

パワーユニットは、トップレベルで長距離を戦う過酷な条件にも耐え得る、ハイパーカー・クラスのパフォーマンスウィンドウに合わせて強化、調整している。ヴァルキリーの血統を引き継ぐV12エンジンの選択は、明らかにパフォーマンス上のメリットをもたらすと同時に、純粋なレーシングソリューションとしてアストンマーティンの美学にもマッチする。信頼性と耐久性の面では、ハイパーカーのレギュレーションでパワーリミットが500kW(679PS)であることなどを考慮すると、V12に優位性がある。当初からロードカーとして過酷な負荷に耐える頑丈さを備えているためである。レース用としては、燃費が特に開発時の重要ポイントだった。アダム・カーター氏は、次のように話っている。

「高燃費の、少ない搭載燃料で必要なエネルギー量を得ることが重要です。それほどパワーを必要としないため、エンジンは本来の性能よりも低速で運転します。レギュレーションが定めるパワーリミットよりも低いことで、チャンスが生まれます。トルクカーブを調整し、エンジン速度を落として摩擦損失を低減し、燃費を向上させることができます」

空力についてヴァルキリーは、FIA公認レースに出場できる認可を得ることを目指して開発された。これを可能にしたのは、ロードカーをルーツとする強固な基盤。そして、これはアストンマーティンのチーフ・クリエイティブ・オフィサーのマレク・ライヒマン氏とエイドリアン・ニューウェイ氏の2人のデザイナーの功績。ニューウェイ氏は、2025年3月にF1チームのマネージング・テクニカル・パートナーとしてアストンマーティンに加わる。

「信じられないことです。史上最も偉大なレーシングカーデザイナーの一人であるエイドリアンが車をデザインするのです。しかも、レースに出場することを考えずにです」とカーター氏は述べている。

 そして公道車からレースカーへの転換について、FIAのテクニカルレギュレーションでは、主に安全面と性能面におけるレースの特定のパラメーターが指定されている。レースの課題に対応するためには、ピットストップでの迅速なドライバー交代やタイヤ交換、エンジンをかけたままの給油、さらには車同士の接触を含め、フロントとリアのボディワークの素早い交換、給油するためのシングルポイントカップリング、シャシー組み込み高速空気圧ジャッキシステム、安全性、クイックアクセス、視認性を最適化したドライバーコックピットなどの開発が必要となる。レース用サスペンションは、フロントとリアのダブルウィッシュボーン、プッシュロッド式トーションバー・スプリング、調整可能なサイドダンパーとセントラルダンパーの構成となる。さらにヴァルキリーは、ハイパーカー・レギュレーションで義務付けられている18インチのミシュラン・パイロットスポーツタイヤを装着する。カーター氏は、以下のように説明する。

「開発とは関係なく、絶対的な性能はレギュレーションによって制限されます。最低重量、ドライブシャフトのトルク制御による出力制限、空力性能の範囲が定められています。レースに参加する全車両のモデルが実物大の風洞で計測されます。つまり、性能に係わる基本的な要因の範囲内で、ヴァルキリーの特性を最適化しなければならないのです」

このアプローチは、レーシングカーの仕様における重要な設計上の決定にも影響する。例えば、セミオートマチックのパドルシフトによるギアチェンジで操作するXtrac 7速シーケンシャル・トランスミッションなどだ。カーター氏は、さらに続けて説明する。

「アストンマーティンのレースカーはすべて、究極的には、非常に高性能な車を対象に、その特性と能力をレギュレーションの条件に合わせて調整し、その中でパフォーマンスの可能性を最大限に引き出します。私たちは、世界的知名度のあるアストンマーティンのデザインスタジオと、開発の主導的役割を担うアストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズと協力し、このすべての作業を行いました」

デュアルレースプログラムに備えた準備

2024年7月のヴァルキリーの最初のテスト走行に続いて、Heart of Racingは幅広い評価プログラムに着手し、15,000kmを超える距離を走った。テストは、英国のドニントンパークとシルバーストーンで開始し、その後ヴァレルンガとヘレスに移動し、さらにバーレーン、カタール、ロード・アトランタ、セブリング、デイトナと続き、デュアルレースプログラムに適切な様々なコースを走行した。チーム代表のイアン・ジェームズ氏は、次のように述べた。

「常にさらに上を目指すことが可能ですが、プログラムの進捗状況とその信頼性には満足しています。デザインからAMPT、製造部門からレースチームまで、すべてがひとつになっていることに非常に満足しています」

WECシーズンには、2台のヴァルキリーがエントリーしている。ル・マンにおける英国のモータースポーツの数々の栄光を象徴する美しいグリーンのカラーリングが施され、Heart of Racingの英国の拠点であるブラックリーを旅立つ。ドライバーのラインナップについて、ジェームズ氏は、以下のように語った。

「ハリー・ティンクネルは、ヴァルキリーの開発に深く関わっていたため、早い段階でテストプログラムに加わってほしいと考えました。それに、彼は他のGTPでの経験もあります」

ティンクネル選手は、2020年にアストンマーティンでル・マン24時間レースのクラス優勝を果たしたが、それを最後に英国人ドライバーのクラス優勝はない。WECの2024年シーズンを通してプロトン・ポルシェでのレース経験もあり、グループの中で最もハイパーカーの経験が豊富なドライバーとなる。「彼はすぐにチームに馴染みました。彼の実績は言うまでもありません」とジェームズ氏は付け加えている。そしてトム・ギャンブル選手は、アストンマーティン・オートスポーツBRDCアワードを受賞し、LMP2とGTの両方の経験を持つドライバー。2022年にはハート・オブ・レーシングチームで、デイトナ、セブリング、ロード・アトランタで開催されたIMSAの耐久レースに参戦ました。ジェームズ氏は、ギャンブル選手について次のように話している。

「彼は天性の才能を持つ素晴らしいドライバーです。スポーツカーレースの最高峰でスポットライトを浴びるチャンスを得るのは当然です」

さらにマルコ・ソーレンセン選手は、アストンマーティンで最も活躍している現役レーシングドライバー。WEC GTクラスで3回のチャンピオンを誇り、2022年にはル・マンでクラス優勝に輝いた。ジェームズ氏は、ソーレンセン選手について以下のように語った。

「彼はアストンマーティンでレースをしたドライバーの中でも、非常に経験豊富で数々の成功を収めたドライバーです。トップクラスのレースに参戦するチャンスが巡ってくるまでは長くかかりましたが。彼と一緒に仕事をして、彼の能力やプレッシャーにもクールに対応する様子を見てきました。彼はこのプログラムに適任です。さらにジェームズ氏は、リベラス選手について以下のように続けた。

「アレックス・リベラスは、ここ数年、IMSAのGTD Proで実力を発揮し、IMSAとWECで確実に勝利を積み重ねてきました。昨年は我々と共にWECの全レースで素晴らしい活躍を見せました。彼は間違いなくHeart of Racingの重要な一員であり、シートを得るにふさわしいドライバーです」

IMSAのレースには、ヴァルキリー1台が参戦する。Heart of Racingを象徴するブルーの特別仕様車で、3月12日から15日にかけて開催されるセブリング12時間レースに参戦するため、チームの米国の拠点であるアリゾナ州フェニックスを出発する。IMSA GTD Proクラスで複数回の優勝経験を持つガン選手(英国)と、2022年のIMSA GTDチャンピオンのデ・アンジェリス選手(カナダ)は、AMRドライバー・アカデミーの優秀な卒業生である。その2人についてジェームズ氏は、以下のように話している。

「ロスとはこの4年間、一緒に過ごしました。ロスは、確実に世界屈指のGTドライバーへと成長しました。昨年、惜しくもタイトルを逃したものの、ロスはGTD Proのタイトルレースで実力を証明しました。彼はチームプレーヤーであり、生まれ持った才能があり、普通のドライバーにはないレースカーに対するセンスがあります。ロマンについては、2018年に初めて彼と組みましたが、どんどん強くなっています。彼はAMRドライバー・アカデミーとGTD選手権で優勝しており、これは他に類を見ない成果です。彼は完璧なドライバーになりました。また、ロスはフェニックスのシミュレータープログラムに欠かせない一員です」

チャレンジを受け入れる

ヴァルキリーのデュアルレースプログラムが目指すものは、経験豊富なライバルたちと実際にレースをするという高い志を裏切らないこと。カーター氏は、以下のように語っている。

「もちろん、私たちは勝利を目指して行っています。しかし、私たちはレースのチャレンジ精神やライバルに敬意を払っています。レベルが高いからこそ、ライバルたちと競いたいのです。ライバルが強いからこそ、勝利に価値があるのです。私たちはすでに確固たる実績を築いたライバルたちの中に加わるのだと認識しています。スポーツカーレースの最高峰に挑戦する絶好のタイミングです。ACO、IMSA、FIAが連携して、共同で人気の高い選手権を作り上げてきました。私たちはこのプロセスを全面的にサポートしています。彼らはフォーマットを確立し、シリーズのプロモーションを行い、スポーツカーレースの黄金時代を築くという素晴らしい仕事を成し遂げました。公平で競争力のある環境で、世界的な舞台で戦うチャンスです」

WECシーズンは、全8戦。開幕戦のカタールに続き、欧州のレースはイモラとスパ・フランコルシャン、6月にはル・マン24時間レース、そしてブラジルのインテルラゴス、テキサス州オースティンのCOTA、日本の富士スピードウェイ、最終戦は11月8日のバーレーンとなる。そしてIMSAのスケジュールは、全11戦。セブリング12時間レース、ロード・アトランタで開催されるプチ・ル・マン、その他ロングビーチ、ラグナ・セカ、ワトキンズ・グレン、インディアナポリス・モータースピードウェイなどで、米国の主要なレースが開催される。

関連情報:https://www.astonmartin.com/ja

構成/土屋嘉久

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