ロールス・ロイスは、世界にたった1台だけのファントム・ダンテルを発表した。中東のとある顧客が父への贈り物としてつくられたもので、この非常に個人的なプロジェクトはロールス・ロイスのプライベート・オフィス・ドバイを通して実現された。この繊細でエレガントなコミッションのインスピレーションとなったのは、1枚のクチュールレースだった。その生地は、希少なリバー織機で織られたもので、立体的な花のモチーフと真珠のような柔らかなディテールがあしらわれている。この繊細なテクスチャーと優しい色合いが、インテリアとエクステリア両方のデザインの基盤となっている。
ロールス・ロイス・モーター・カーズ プライベート・オフィス・ドバイ・デザイナーのミシェル・ラスビー氏は、以下のように述べている。
「私たちは常々、車のコミッションにおけるインスピレーションはあらゆるところに存在する、とお伝えしています。20年以上にわたり、お客様たちがこのことを証明し続けてくれています。プライベート・オフィス・ドバイを通して製作されたこの圧倒的な存在感を放つファントム・ダンテルは、世界有数のオートクチュールのアトリエで用いられる、上質な手仕事によるレースへのオマージュです。刺繍という表現手法を用い、この繊細な素材をロールス・ロイスの最高峰モデルへと昇華させました。その際立つ個性、美しさ、そしてクラフツマンシップは、まさにオートクチュールの真髄を体現した1台といえるでしょう」
ファントム独自のギャラリーは、フロントのフェイシア全体にわたって広がり、ビスポークのアートワークを飾るために特別に設計されている。この唯一無二のファントム・ダンテルのために、ビスポークのデザイナーたちはクチュールレースにインスパイアされたフローラルパターンをつくり出した。刺繍には、複数のステッチ技法、糸の密度、ローズゴールド、サンライズ、オートミールといった色調を重ね合わせ、花びらやシダ、レースの質感が繊細に表現されている。
繊細な金細工であるフィリグリーのレースのようなベースは、トリプルランステッチによって形成され、メッシュ構造が形づくられている。その上に、シルクのような柔らかな光沢をもつ花のデザインがサテンステッチで描かれ、さらに、クチュールレースにあしらわれていた真珠を思わせるディテールが、光を捉えて繊細な深みを生み出す立体的なアクセントとして加えられている。このアートピースは、計16万針を超えるステッチによって仕上げられている。
そしてリアシートの間に設けられたウォーターフォール・セクションは、花のテーマを引継ぎ、ギャラリーにデザインされた植物のディテールを反映した繊細な刺繍が施されている。この刺繍は約7万針で構成されている。またスピーカーグリルは、ローズゴールドで仕上げられ、刺繍のトーンをさりげなく引き立てている。インテリアは、サンライズとグレース・ホワイトのレザー、フロントとリアのヘッドレストに刺繍で施された「RR」のモノグラム、そしてピアノ・ホワイトのベニアで仕上げられている。ロールス・ロイス・モーター・カーズ インテリア・トリム・センターのブライエニー・ダドリー氏は、次のように語っている。
「ギャラリーと後部のウォーターフォールの刺繍のディテールは非常に複雑で、真珠のように柔らかな光沢を捉えるようにデザインされています。車両の周りを移動する際や、走行中に日差しが移ろうたびに光を捉え、まるでレッドカーペットでフラッシュを浴びてきらめくクチュールドレスのようです。それは完全に静止しているものに驚くべき動きと視覚的演出をもたらします」
一方、ファントム・ダンテルのエクステリアは、ビスポークのツートーン仕上げで表現されている。ボディ下部はクリスタルのアークティック・ホワイト仕上げ、上部はクリスタルのパレ・ネマスカ・ドーン仕上げで、これはこのコミッションの依頼主専用のカラーとなる。ダブル・コーチラインはサンライズで描かれ、手描きのモチーフとして真珠の「実」を持つ葉の枝があしらわれ、インテリアに込められたアートワークのテーマとも呼応している。
そしてファントム・ダンテルには、全面ポリッシュ仕上げの22インチのディスク・ホイールが装備されており、センター部分はボディと同色、センター・ピンストライプにはアークティック・ホワイトが採用されている。さらにポリッシュ仕上げのパンテオン・グリルにはローズゴールドのスピリット・オブ・エクスタシーが冠され、刻印入りのトレッドプレートにも、同じくローズゴールドが用いられている。
関連情報:https://www.rolls-roycemotorcars.com/ja_JP/bespoke/discover.html
構成/土屋嘉久